デジタル
2017/10/2 20:00

実はレコードやカセットテープよりヤバい!? 絶滅寸前の記録メディア「MD」を救うならいまがラストチャンス

みなさまは「MD=Mini Disc」をご存知でしょうか。1990年代のはじめにソニーが開発、製品化した光ディスクタイプの記録媒体です。最近はアナログレコードのブームが復活してきたというニュースをよく耳にします。オーディオや音楽ファンにとっては大変喜ばしいことですが、一方でMDは今まさにデジタルオーディオのための記録媒体として存亡の危機に直面しているのです。好きな音楽などを記録したMDがまだ手もとにたくさんあるという方は、うっかりしていると大切なMDがもうすぐ聴けなくなってしまうかもしれません。今でもMDを楽しめる製品は販売されているのか? MDのデータをパソコンなどの機器にバックアップすることはできるのか? マニアも納得する本格派MDプレーヤーの製造・販売を続けているオーディオメーカー、ティアックを訪ねて現状を取材してきました。

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↑MDディスク

 

今回のインタビューに協力いただいたのはティアックの音響機器事業部 コンシューマー オーディオ ビジネスユニット 企画・販売促進課 課長の加藤丈和さん、マーケティング本部 広報担当の寺井翔太さんです。

↑ティアックの寺井翔太さん(左)、
↑ティアックの寺井翔太さん(左)、加藤丈和課長(右)

 

あのころ先鋭的だったMDは今も捨てられない財産

40代の筆者が、初めてMDの録音・再生ができるソニーのポータブルMDレコーダーを買ったのは大学生のころだったと思います。いま30~50代の方は誰もが、一番よく音楽を聴いていた時にMDの洗礼を受けたことがあるのではないでしょうか。

 

MDの良いところはCDと比べてもさらに小さな64mmというコンパクトサイズと、ディスクがプラスチックのカートリッジに格納されている安心感。バッグの中に放り込んで、多少雑にも扱えるカジュアルなポータブルメディアとして人気を博しました。色とりどりのケースに入った小さなディスクがキラッと輝く感じが何とも先鋭的で、学生のころは自慢げにプレーヤーとディスクを肌身離さず持ち歩いていたように記憶しています。

 

筆者が使っていた製品は再生だけでなく録音もできるポータブルMDレコーダーだったので、マイクを端子につないで自分が演奏するギターの音を録ったり、お気に入りのCDやラジオの放送をダビングして外出先で楽しむこともできました。特に当時夢中になって聴いていたFMラジオの深夜番組のアーカイブなどは今でも捨てられず、大切に保管しています。

 

やがて2000年代前半にiPodやMP3オーディオプレーヤーが登場するまでは、筆者の手もとでMDが大活躍してくれました。ただ、MDには全盛期の当時から大きな弱点がひとつありました。アーティストによる市販の作品がとても少なかったことです。そのため録音用途も含めて、MDを“使いこなせる”ようなコアなユーザーでないと、「便利なのは何となくわかるけど、じゃあMDで何が聴けるの?」ということになってしまいます。ソニーは当時、CDリッピングや音楽配信サービスからダウンロードしてパソコンに貯めた音源をMDに高速転送して楽しめる「Net MD」という聴き方も提案していたのですが、ちょうど時代は好きな音楽を大容量HDDに保存して楽しめるiPodや、よりコンパクトサイズなフラッシュメモリータイプのMP3プレーヤーに注目が集まるようになり、MDの存在感は次第に薄れていったのです。

 

ティアックが今でもMDデッキを作り続けられる理由とは

いまでは家電量販店のオーディオコーナーなどでもMDを再生できる製品を見かける機会が少なくなったことを実感されている方も多いと思います。筆者のように、青春時代の思い出が詰まった音楽やラジオ番組を保存したMDを、捨てられずに部屋の片隅に閉まっていた方は、今でも動く再生機器をちゃんと確保できていますか? MDが聴ける環境はいよいよ限られてきてしまっているようです。ティアックの寺井さんはMD再生機器の現状を次のように語っています。

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↑ティアックの広報を担当する寺井翔太さん

 

「ティアックグループではいま、コンシューマー向けブランドであるティアックと、プロシューマー向けブランドのタスカムからCDプレーヤーと録音再生が可能なMDデッキを一体にしたコンポーネントを作り続けています。その理由は、タスカム製品についてはコンサートホールやイベントスペースでまだMDの根強い需要があり、それを受けるプロのエンジニアの方々に必要とされているからです。ティアックの製品についても、MDのアーカイブを聴きたいという音楽ファンの方々から期待をいただいています」(寺井さん)

 

iPodやMP3プレーヤーが台頭してきて、MDに対するユーザーからの需要も徐々に減ってくると、多くのブランドがMDプレーヤーやレコーダーの製品生産・販売を終了してしまいました。MDに対応するドライブを製造するパーツメーカーも、需要がないところに開発費用を投じるわけにはいかないので、頑張って製品を作り続けてきたメーカーも「ドライブ不足」の影響を受けて、やむを得ず生産終了の道を選択することになります。なのになぜ、ティアックグループでは今もMDデッキをつくることができるのでしょうか。その理由を加藤課長はこう説明しています。

↑ティアック コンシューマー オーディオ ビジネスユニット 企画・販売促進課の加藤課長
↑ティアック コンシューマー オーディオ ビジネスユニット 企画・販売促進課の加藤課長

 

「自社でドライブをつくることができるからです。MDが登場してすぐのころに、カセットテープの次の世代を担う録音メディアとしてMDに力を入れて、ティアックとタスカムの両ブランドで真面目に製品を手がけてきた自負が私たちにはあります。タスカムは音楽に関わるプロの方々を支えるブランドです。プロの現場では、エンジニアの方々が信頼しているメディアを使い続けたいという声や、仕事の取引先とデータのやり取りをする際に様々なメディアに対応できる環境が必要などの理由で、古い記録媒体もサポートし続ける必要があります。プロの方々からの要望がある限り、MDにも対応することがタスカムブランドの使命なので、いま市場に残っているMDドライブをかき集めることも含めて、パーツの確保には力を入れています。そしてこれからも可能な限りMDデッキは作り続けていきたいと考えています」(加藤課長)

 

本稿を執筆している2017年9月末現在、ティアックから「MD-70CD」、タスカムから「MD-CD1MkIII」(バランス接続対応のバリエーション「MD-CD1BMKIII」もあり)というMDデッキがティアックグループから製造・販売されています。コンシューマー向けのティアック「MD-70CD」は主にどんな方が購入しているのでしょうか。寺井氏によれば「やはりMDに自然の環境音などを自身で録音される方など、大切な音源のコレクションを聴ける環境を整えておきたいという方が多いようです」とのこと。

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↑現在も発売中のCD/MDデッキ「MD-70CD」(実売価格6万9800円)

 

デジタルディスクのMDも経年劣化で再生できなくなる可能性がある

MDはCDに比べると専用のケースに格納されているメディアなので、記録面へのキズや汚れによるダメージには強いといえるかもしれませんが、太陽光に長時間さらされる場所や、反対に湿気のこもる戸棚の奥などに長く置きっぱなしにしていると、データが保存されている記録層の素材が劣化して、結果としてデータが読み込めなくなることも考えられます。デジタルディスクだから安心ということはなく、メディアにはそれぞれの寿命というものがあり、MDもその例外ではないということです。

 

MDディスクに保存されている音源をこれからもずっと聴けるように、MDデッキなどプレーヤーを確保することも大切ですが、そろそろ音源をデジタルファイル化して、パソコンやHDDに保存しておくことも考えるべきではないでしょうか。元がCDからリッピングした音源で、CDが今でも手元にあるのであればあまり神経質になる必要もないかもしれませんが、二度と放送されないラジオ番組、学生時代に仲間と演奏したバンドの録音などは、いつかMDが聴けなくなる日のことも考えて、バックアップを取っておくことをオススメします。今回はティアックの加藤氏と寺井氏に、「MD-70CD」を中核とした機材でシンプルにMD音源のデジタルアーカイブを残す方法を教えてもらいました。

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その1:リニアPCMレコーダーで「録る」

MD全盛期のころからしばらくはMDからUSBメモリースティックなどに録音ができる一体型オーディシステムなども販売されていたように筆者も記憶していますが、いまは大抵の製品が生産を完了していると思われます。現在もしMDデッキごと新調されるという方は、まずティアックのMD-70CDを手に入れてから、楽器の演奏や自然環境音の録音に活用できるリニアPCMレコーダーを用意しましょう。今回はタスカムブランドから発売中の「DR-44WL」を推薦してもらいました。

↑DR-44WL
↑リニアPCMレコーダー「DR-44WL」(実売価格3万780円)

 

MDデッキの背面にあるライン出力から、DR-44WLのライン入力に左右チャンネルの信号をそれぞれ接続します。DR-44WLはライン入力を経由してMDデッキから送られてくる音声信号のボリュームを最適なレベルに調節できる機能を備えています。この機能がないと入力される音声信号が歪んで聴き取れなくなってしまいます。もしライン入力のレベル設定ができないレコーダーを使う場合は、MD再生機器にイヤホン出力があればこちらに接続する方がベターかもしれません。

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↑MD-70CD

 

↑MD-70CDの背面
↑MD-70CDの背面

 

機器を接続してライン入力のレベル設定が完了したら、MDデッキで録音したい音源の再生をスタートします。DR-44WLには入力される音楽信号のレベルに合わせて自動で録音を開始・停止するオートレック機能や、トラックを自動で分割するオートディバイド機能が搭載されているので、いちいち手動で録音開始、停止をせずにすむので便利です。録音スピードは等倍になります。録音のファイル形式は一般的なWAVやMP3が選べて、最大解像度は96kHz/24bitまで対応しています。

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タスカムからはリニアPCMレコーダーの上位モデルで、192kHz/24bitの録音まで対応する「DR-100MkIII」(実売価格4万8060円)という機種もあります。本機は同軸デジタル入力ができる所も大きな魅力。また、より手軽に録音するなら、ステレオミニケーブル入力に対応したコンパクトな「DR-05」(同1万720円)もおすすめです。

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↑DR-44WL(左)と「DR-100MkIII)(右)

 

↑コンパクトなDR-05
↑コンパクトなDR-05

 

レコーダで録音した音源は、PCなどでタイトルなどを編集すれば、管理しやすくスマホやポータブルオーディオなどで聴くこともできます。今回筆者が持参したラジオ番組をエアチェックしたMDディスクもキレイな音のまま保存できて大満足でした。

 

その2:ティアックのデジタルアーカイブサービスを利用する

今回はティアックの製品をリファレンスにしながら、MD音源のデジタルファイル化を試させてもらいました。もちろん手もとにライン出力ができるMDデッキなどのコンポーネントやリニアPCMレコーダーがあれば同じようにMD音源のバックアップができるので、ぜひチャレンジしてみてほしいと思います。

 

また、MDが再生できるデッキなどは処分してしまったが、また買い直すのは少々荷が重いと感じる方は、ティアックでMDやDAT、カセットテープにオープンリールテープ(1/4インチ)、アナログレコードのデジタルダビング(CD-Rで納品)を代行してくれるサービスを提供していることをご存知でしょうか? 寺井氏によると「MD1枚からCD-Rにダビングを承っており、料金は一度にご依頼いただくアーカイブの本数にもよりますが1枚3000円前後になる」そうです。MDの枚数が少ない場合は、こういったサービスを利用してみるのも手ですね。

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思い出がつまった大切な「マイ・MD資産」が本当に聴けなくなる前に、デジタルアーカイブ化をそろそろ本気で考えてみてはいかがでしょうか。

 

ティアックのダビングサービスの案内サイト http://tcs.teac.co.jp/dubbing

 

【製品情報】

MD-70CD  https://teac.jp/jp/product/md-70cd/top

DR-44WL  https://tascam.jp/jp/product/dr-44wl/top

DR-100MKIII  https://tascam.jp/jp/product/dr-100mkiii/top

DR-05  https://tascam.jp/jp/product/dr-05/top