家電
炊飯器
2016/9/2 10:00

【レビュー】「日本一高い炊飯器」の意義を問う! 象印「極め羽釜」は14万円の価値があったのか?

現在、各メーカーが10万円前後の高級炊飯器を発売しており、どれも独自の特色を打ち出しています。今回レビューする象印マホービンの「南部鉄器 極め羽釜 NW-AS10型」(以下、NW-AS10)は、内釜に日本の伝統工芸品である「南部鉄器」を使用した贅沢な製品。さらに、消費電力が最大1450Wと、とにかく高火力なのが特徴です。

 

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↑本体はやや丸みのあるスクエアに近いモダンなデザイン。カラーはプライムブラック一色です

 

鉄器の釜は発熱効率がよく1450Wのトップクラスの火力を誇る

最近の高級炊飯器の多くは「かまどで炊いたご飯」を目指して製品を開発しています。そして、かまど炊飯の特徴の一つが炊飯途中で「一気に高火力で加熱し、釜内を激しく沸騰させる」こと(なかパッパ工程)。激しく沸騰させて米を釜内で動き回らせることで、炊きムラを抑制。さらに、激しい沸騰で米を振動させることで、でんぷん質が水に溶けだし、水に溶けたでんぷんは加熱により甘み成分に変化するといわれています。つまり、甘みのあるご飯を炊くには、高い火力が欠かせないそう。

 

一方、NW-AS10をはじめ、高級炊飯器の熱源のほとんどはIHです。この「IH」とは、金属製の調理器具に磁力線を流すことで、調理器具自体を発熱させるしくみ。そして、IHは鉄との相性が非常によく、鉄製の調理器は発熱効率が非常に良いといわれています。つまり、南部鉄器は炊飯に不可欠な「一気に高温で加熱」に向いているのです。さらに、NW-AS10は最大消費電力が1450Wと、5.5合炊き炊飯器としてはトップクラスの火力。そのうえ、NW-AS10は1.5気圧という非常に高い圧力で、最大112℃までの加熱が可能です。

 

また、内釜の形にも理由があります。NW-AS10は釜にリング状の羽根が付いた、いわゆる「羽釜」の形状。NW-AS10は本体と内釜の間にわざとすき間を作り、釜の羽根でふさぐことで、熱を閉じ込めて側面の熱ムラを抑えるのだといいます。

↑羽根のある独特の「羽釜形状」をした南部鉄器内釜。高級感と重量感のあるたたずまいはさすが伝統工芸品! 叩くと寺の鐘のようなカーンという良い音がします。内釜は、溶かした鉄を型に流し込んで作る鋳鉄ですが、南部鉄器は一般的な鋳鉄製品よりも気泡などが少なく品質が良いと言われています
↑羽根のある独特の「羽釜形状」の南部鉄器の内釜。高級感と重量感のあるたたずまいはさすが伝統工芸品!  叩くと寺の鐘のようなカーンという良い音がします。内釜は、溶かした鉄を型に流し込んで作る鋳鉄ですが、南部鉄器は一般的な鋳鉄製品よりも気泡などが少なく品質が良いといわれています

 

ご飯をつぶさないために内釜は浅く広い形状

そして、NW-AS10の釜は一般的な炊飯器の内釜よりも、浅く広い形状です。これは、下のほうのご飯が、上層のご飯の重みでつぶれないための配慮。ちなみに、筆者はご飯で一番おいしい部分は、炊き上がり後すぐのご飯の表面部分だと思っています。内釜の直径が大きいと、このおいしい「ご飯の表層」部分がたくさんできるのも、個人的にうれしいポイントです。ただし、内釜直径が大きい分、本体サイズも大きめ。多くの高級炊飯器の本体サイズが27cm前後のものが多いなか、NW-AS10は幅が30.5cmほどあります。

↑一般的な形状の内釜と底面を比較。NW-AS10(左)は底面に傾斜があるのがわかります。この傾斜が釜内全体を激しく沸騰させるのに重要なのだそう
↑一般的な形状の内釜との底面を比較。NW-AS10(左)のほうが幅が広く浅い形状で、底面に傾斜があるのがわかります。この傾斜が釜内全体を激しく沸騰させるのに重要なのだそう

 

↑内釜が幅広なので、ほかのご飯につぶされていない「ご飯の表層」部分が多いのも魅力的
↑内釜が幅広なので、ほかのご飯につぶされていない「ご飯の表層」部分が多いのも魅力的

 

ちなみに、炊飯器は高性能になるほど蓄熱性が高いものが多いのですが、NW-AS10で使用している南部鉄器は蓄熱性の高さも特徴のひとつです。さらに、本体のフタ部分には「断熱フレーム」を採用しており、本体内部の水分や熱を逃がしにくい構造にもなっています。

 

廉価な炊飯器と比べて炊き上がりの透明感が違う!

実際に炊飯をしてみたところ、まずは見た目の美しさに驚きます。今回、比較のために廉価炊飯器でも同じ量のご飯を炊いたのですが、廉価炊飯器のご飯が不透明な白色なのに対し、NW-AS10はうっすらと透明感があるのです。

 

気になる味はというと、NW-AS10は口に入れたとたんご飯の華やかな香りを感じ、噛むと甘みを強く感じます。ご飯の旨みが強く感じられるので、塩だけでもおいしく食べられると感じました。また、食感はモチっとした弾力があるものの、ふっくらとしています。

 

一方、廉価な炊飯器で炊いたご飯は、口に入れると均一ではない食感が気になります。芯があるわけではなく、中心部まで火は通っているのですが、なんとなくボソッとしており、一言でいえばみずみずしさがないと感じます。また、NW-AS10と比べてしまうと、食べた後にヌカ臭さが鼻から抜けるように感じる後味の悪さも気になりました。

↑炊き上がりの違い。NW-AS10(右)のほうが白が鮮やか、一方廉価炊飯器のご飯は少し黄色がかっています。また写真ではわかりにくいのですが、NW-AS10には明らかに「透明感」があります。さらに、米が一粒一粒ふっくらと炊けているのもわかります
↑炊き上がりの違い。NW-AS10(右)のほうが白が鮮やか、一方廉価炊飯器のご飯は少し黄色がかっています。また写真ではわかりにくいのですが、NW-AS10には明らかに透明感があり、米が一粒一粒ふっくらと炊けているのもわかります

 

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↑沸騰による釜内の「かき混ぜ」効果を知るため、底に玄米、上に白米をセットして炊飯してみました。炊き上がり、廉価炊飯器(左)には玄米や白米が固まったエリアがありますが、NW-AS10(右)はきれいに混ざっています。とくに底面の違いは一目瞭然。沸騰による「かき混ぜ効果」の違いがわかります
↑沸騰による釜内の「かき混ぜ」効果を知るため、底に玄米、上に白米をセットして炊飯してみました。炊き上がり、廉価炊飯器(左)には玄米や白米が固まったエリアがありますが、NW-AS10(右)はきれいに混ざっています。とくに底面の違いは一目瞭然。沸騰による「かき混ぜ効果」の違いがわかります

 

ちなみに、普段の炊飯で意外に活用したのが「わが家炊き」メニューです。これは、炊飯後に次回からの炊き上がりを調整できるという機能。炊飯後にいま炊いたご飯を参考にした「かたさ」や「ねばり」を設定すれば、次回からは「わが家炊き」メニューを選択するだけで、自分好みの炊飯が可能です。

↑自分好みの炊飯コースを設定できる「我が家炊き」メニュー。固めが好きな我が家では、標準の炊飯コースより固めの設定にしました
↑自分好みの炊飯コースを設定できる「わが家炊き」メニュー。固めが好きな我が家では、標準の炊飯コースより固めの設定にしました

 

おこげご飯はお湯をかけるだけでおいしい!

さまざまな炊飯モードを搭載しているNW-AS10ですが、個人的に気に入ったのが「鉄器おこげ」モードです。一般的な炊飯器にも「おこげ」モードが搭載されていますが、正直「固いだけ」と感じるものも多いのです。しかも、製品によっては固い部分が分厚つすぎて、歯にネチョッとくっついてしまうことも……。

 

その点、NW-AS10で炊飯したおこげは、炊き立てはパリッとしており、とにかく香ばしい!  この香りだけでもご飯が進むほど。また、冷やご飯もお湯をかけるだけで、香ばしさが引き立ちます。普段のお茶漬けさえもこのおこげご飯を使うだけで、ワンランクアップしますよ。このおこげのクオリティは、さすが鉄製調理器の最高峰、南部鉄器だけはある! と感動しました。

↑とにかく香ばしい「おこげ」は絶品。冷えても香ばしい香りが持続します
↑とにかく香ばしいおこげが絶品。冷えても香ばしい香りが持続します

 

釜の重量は難点だが洗うパーツが少ないのがうれしい

NW-AS10は、メンテナンスのしやすさもなかなかのものです。炊飯後に洗う必要があるのは、内釜に2つの内ブタパーツのみ。しかも、内ブタのパーツは、圧力用のボール部分以外はフラットな構造が多く、洗いやすいのもうれしいポイントです。ただし、南部鉄器は鉄素材のため、重量があるのが難点。洗米や洗浄時に、そこそこの腕力を必要とします。

↑二重ぶたは、圧力調整用のボール部分を除けば、凹凸のすくないデザインなため、ササっと洗浄できるのも気に入りました
↑二重ぶたは、圧力調整用のボール部分を除けば、凹凸のすくないデザインなため、ササっと洗浄できるのも気に入りました

 

フタが自動で閉まる機能が思った以上に便利だった

そしてNW-AS10で見逃せないのが、ボタンを押すだけで本体フタが自動的に閉まる「スマートクローズ」機能です。こちらは業界初の機能らしいのですが、「なぜいままでこの機能がなかったのか!」と感じるほど便利。最近の高級炊飯器の多くは圧力式なので、気密性が高くなっています。そのうえ、フタ自体も内部に複雑な機構が組み込まれていて重量があるため、フタを閉めるのにグッと力を入れる必要があるのです。たとえば我が家の廉価炊飯器(非圧力)は190gほどの軽い力でフタを閉められますが、NW-AS10は閉めるのに1kg近いの力が必要でした(実測値)。主婦は両手でご飯茶わんを持った状態で炊飯器のフタを閉めることも多いので、肘などでボタンをポンと押してフタを閉められるのは非常に便利です。

↑我が家の計量器で、簡易的にフタを閉める力を計測してみました。自宅にあった非圧力式の炊飯器が190gでフタを閉められたのに対し、NW-AS10は1kg近い力が必要でした
↑我が家の計量器で、簡易的にフタを閉める力を計測してみました。自宅にあった非圧力式の炊飯器が190gでフタを閉められたのに対し、NW-AS10は1kg近い力が必要でした

 

↑「スマートクローズ」ボタンを押すだけで、軽い力でフタが閉まります。しかも、オープンボタンは本体上部にあるのですが、クローズボタンはフタ側面に配置。フタが開いた状態だと、ボタン位置が上部にあるので押しやすく感じます
↑「スマートクローズ」ボタンを押すだけで、軽い力でフタが閉まります。しかも、オープンボタンは本体上部にあるのですが、クローズボタンはフタ側面に配置。フタが開いた状態だと、ボタン位置が上部にあるので押しやすく感じます

 

動画はコチラ↓

 

おいしさは折り紙付き! あとは重さと価格をどう感じるか

NW-AS10の実売価格は13万8890円。実はコレ、各メーカーが発売する5.5合タイプ高級炊飯器のなかでももっとも高価格の製品です。ですが、透き通った旨みの強いご飯、香ばしいおこげが毎日食べられることを考えると、本機は価格に見合った価値を提供してくれると感じました。

 

ただし、一点気になるのはやはり重いこと。我が家の体重計で計ったところ、なんと内釜だけで1.9kgほどありました(筆者実測値)。また、本体重量も11.5kgと炊飯器としてはかなり重量級です。「台所で炊飯し、食事のたびにダイニングに炊飯器を移動させる」という家庭では、かなり気合が必要だと思います。毎日のおいしいご飯をとるか、軽い内釜&買いやすい価格を取るか。その選択が本機を購入するためのポイントになりそうです。

【SPEC】

炊飯容量:0.09~1.0L(0.5~5.5合)

消費電力:1450W(炊飯最大時)

サイズ/質量:W305×H245×D400cm/約11.5㎏