乗り物
2016/9/13 7:30

日産セレナは「自動運転」だけじゃなかったーーむしろ車としての本質に集中

Mクラスの背高ミニバンというカテゴリーには、セレナの競合車として、ヴォクシー、ノア、エスクヮイアというトヨタの三兄弟とホンダのステップワゴンが存在する。その中でセレナは、2008年度から6年連続してミニバン販売台数のナンバーワンの座にいたほどの人気を誇る。

 

むろん、トヨタの兄弟車を合計すれば実質的には1位であるわけだが、従来型のC26型だって、モデル末期までコンスタントに売れ続けた。最後のほうはかなりの大幅値引きをしていたというウワサもあったが、それでも商品自体の魅力なくしてユーザーが好んで買うわけがない。

 

そんなセレナの強みというと、広い室内空間と多彩なシートアレンジや豊富な収納スペースに象徴される高いユーティリティ性能にあり、あるいはそれを想起させるとっつきやすい外観デザインにあったように思う。今回のモデルチェンジは、その強みを生かしつつ、詳しく知れば知るほど、よくぞそこまでやったものだと感心せずにいられないほど内容が充実している。プラットフォーム自体は基本的に従来型のキャリーオーバーながら、制約のある中で現状できる限りのことをやったという印象だ。

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気になる「プロパイロット」の実力は?

多くの人が関心を持っているのは、将来的な自動運転につながる「プロパイロット」だろう。これは単眼カメラにより得られた情報をもとに、アクセル、ブレーキ、ステアリングを制御し、渋滞時を含む高速道路の前車追従走行を行ない、ドライバーの疲労軽減を図るというものだ。レーダーの類いのセンサーはなく、単眼カメラのみで正確に距離も計測できるのが画期的で、カメラゆえ歩行者や2輪車も認識できる。

 

システムを作動させるには、ステアリングホイールの右端にあるスイッチをONにすると、ディスプレイに準備ができたことが表示され、さらにクルーズコントロールをセットし、条件が整う。ステアリングホイールと車線の表示がグリーンになると、プロパイロットの作動となる。

 

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加減速の制御に「急」のつく印象はあまりなく、概ね快適。そしてコーナーが迫ると、自動的に操舵を行ない、巧みに車線の中央をキープしながらコーナーをクリアしていく。車線中央をキープして走る機能については、コーナーだけでなく、ごく普通に直線を巡行するときにも大いに役に立つ。同機能がなければ、ドライバーは無意識のうちに小刻みに修正を繰り返し、これが疲労につながる。重心高が高く、横風の影響を受けやすいミニバンであればなおのことだ。

 

ところが、同機能があれば、それをクルマに任せて走ることができるので、ドライバーの負荷が圧倒的に小さくなるのだ。ただし、ステアリングホイールにちゃんと手を添えていないと、しばらくすると警報が出て制御が中断される。

 

なお、2018年に発表されるモデルからは、自動レーンチェンジ機能も搭載されるという。現状はまだ高速道路の単一車線を想定しているものだが、同一車線で自動操舵を全車速で的確に行なうことは確認できた。

 

渋滞時には、停止して3秒以内に先行車が動き出した場合には自動的に再発進して追従走行を続ける。3秒以上停止した場合、坂道でのずり下がりを防ぐため、電動パーキングブレーキが作動する。再スタートするにはアクセルを軽く踏むかレジュームスイッチを押すと電動パーキングブレーキが解除され、先行車を追従走行する。

 

ユーティリティ面でも大きなチャレンジ

従来より競合車に対して優位性を感じさせる部分がいくつもあったミニバンとしての実力においても、新型セレナはいろいろ新しいことにもチャレンジして、さらに高みへと達した。

 

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まずはデュアルバックドア(上写真)。ホンダはステップワゴンにユニークな分割式テールゲートを採用して驚かせたが、セレナはもっとシンプルな手法で、こうなっていたほうが絶対的に便利なのに、最近では採用例の少なくなっていたことをあえてやってのけた。さらに、「ハイウェイスター」のみではあるが、最近トランクでよくみられるようになった、足の動きにより自動で開閉する機構をサイドスライドドアに採用した。

 

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もともとライバルをリードしていたシートアレンジについても、さらにそのアドバンテージを広げた。大きな進化点としては、2列目のシートベルトについて、アンカーをピラーに設定するのではなく、シート自体に内蔵させたことが大きい。技術的には簡単ではないのだが、これにより使い勝手においては多くのメリットがもたらされている。

 

また、これまで左側のみ横スライドが可能だったところ、右側も可能となった。そのほか、細かいところにも書ききれないほどの「なるほど!」がある。

 

プラットフォームは変わっていないが、洗練度が増した

走りについても、パワートレインはかなり新しくなっているが、前述のとおりプラットフォームは従来のキャリーオーバーながら、とにかく全体的に走りが洗練されたように感じる。

 

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乗り心地もよく、静粛性も概ね良好。ステアリングフィールも素直で、好印象だ。燃費の公表値でもカテゴリーナンバーワンの座を手に入れた。見た目の面でも、押し出しの強いデザインを採用したことで、より見た目の存在感が増している。

 

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とりわけエアロ系のハイウェイスターのスポーティな装いに魅力を感じる人は少なくないはずだ。さらには、新たに2トーンカラーを加え、ボディカラーの選択肢を非常に豊富に用意したり、インテリアにも織物と合成皮革を組み合わせたプレミアムインテリアを用意したりするなど、クルマとしての基本的な商品力の向上にも大いに力を注いでいる。

 

とにかく新しいセレナは、現状でこれ以上はやって欲しいことが見当たらないほど手が尽くされたように感じるほど、いたるところまで配慮が行き届いていて、感心しきりである。

 

日産

セレナ

243万5400円~385万200円

SPEC [セレナ ハイウェイスター(2WD)] ●全長×全幅×全高:4770×1740×186㎜●車両重量:1650㎏●総排気量:1997㏄ ●エンジン形式:直列4気筒 DOHC●最高出力:150PS /6000rpm●最大トルク:20.4kg-m/4400rpm●JC08モード燃費:17.2㎞/ℓ

 

写真/茂呂幸正