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2023/8/1 21:05

新世代のアクション女優・山本千尋、“香港四天王”への愛が止まらない!? 『埼玉のホスト』連ドラ初主演では新境地

幼少期から武術を習い、武術太極拳選手として世界の頂点に立つなど輝かしい成績を残した山本千尋さん。2013年に俳優デビューすると、圧倒的な身体能力を駆使したアクションを武器に多数の話題作に出演、唯一無二の存在感を放ち続けている。7月25日(火)放送開始のドラマ『埼玉のホスト』では連ドラ初主演を果たし、ホストクラブの立て直しを図る凄腕コンサルタントという役柄で新境地を見せている。

山本千尋●やまもと・ちひろ…1996年8月29日生まれ、兵庫県出身。3歳から武術を習い、2008年に「世界ジュニア武術選手権大会」の槍術で金メダル、2010年から2012年にかけて「JOCジュニアオリンピックカップ」の長拳・剣術・槍術で3種目3連覇、2012年に「世界ジュニア武術選手権大会」の槍術で金メダルと輝かしい成績を残す。2014年、『太秦ライムライト』で映画初出演にしてヒロインを務め、同作で「第3回ジャパンアクションアワード」ベストアクション女優優秀賞を受賞。最近の出演作に映画『キングダム2 遥かなる大地へ』(2022)、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022)など。Instagram

 

小さい頃から香港映画が大好きという山本さんに、リスペクトするアクションスターたちの魅力や、刺激的な現場だったという『埼玉のホスト』についてなど大いに語ってもらった。

 

【山本千尋さん撮り下ろし写真】

 

リスペクトする“香港アクションスター四天王”の時代を超越した魅力

 

──山本さんは小さい頃から80年代の香港映画が大好きだそうですね。

 

山本 香港映画に限らず、ハリウッド映画や音楽なども80年代の作品が好きで、そこは親の影響が大きかったと思います。母が初めて映画館で観た映画が『プロジェクトA』(1983)だったらしいんですけど、それを完全に引き継いでいます。

 

──中でもジャッキー・チェン、ジェット・リー、ユン・ピョウ、サモ・ハン・キンポーは特別な存在だとか。

 

山本 私にとっての“四天王”です!

 

──お一人ずつ四天王の魅力を語っていただけますか。

 

山本 いいんですか? ただのオタクになっちゃいますよ(笑)。四天王の中で最初に好きになったのがジャッキー様。顔もアクションもお芝居も全てが好きです。プロデューサーや監督もご自身でやるだけあって現場をまとめる力がありますし、ご自身でアイディアを出すのはもちろんなんですけど、自分の出番ではない対決でも、やられ役で出ちゃうんですよ。子どもの頃は、単純に「かっこいいな」という目線で見ていたんですけど、この仕事を始めてから、ジャッキー様の動きを見ると、他の誰にも真似できない技術なんです。ただアクションがすごいのではなく、いろんなアイディアが詰め込まれているので、相当努力もされているんですよね。

 

──特に思い入れの深い作品は何でしょうか。

 

山本 好きな作品は『プロジェクトA』や『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985)なんですけど、思い入れの深さで言うと、小学1年生のときに、生まれて初めて自分のお小遣いでビデオを買った『ゴージャス』(1999)です。ジャッキー様には珍しいラブロマンスですが、擦り切れるほど繰り返し観ました。

 

──ジェット・リーはどういうきっかけで好きになったんですか。

 

山本 リー様は私がやっていた中国武術の大先輩にあたる方で、「第一回全中国武術大会」でチャンピオンになってから5連覇を果たしているんです。まず先輩としてのリスペクトがあるのと、とにかく私は少林寺に憧れていて、親に「頭を全部剃って、額に焼印を入れて欲しい」とお願いしたほどでした(笑)。何度か少林寺の方たちが出る公演も観に行きましたし、いつか本場の中国に行きたいという目標もあります。だからリー様のデビュー作『少林寺』(1982 ※リー・リンチェイ名義で出演)は特に好きです。ハリウッド進出後のリー様も好きですけど、私の中で『少林寺』を超える作品はないです。

 

──『ドラゴン・キングダム』(2008)でジャッキー・チェンとジェット・リーは初共演をしていますよね。

 

山本 ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノが共演した『ヒート』(1995)もどちらを応援していいのか悩みましたけど、『ドラゴン・キングダム』はその比ではなくて、二人の大ファンとしては、こんなに辛い映画はありませんでした(笑)。

 

──ユン・ピョウは、どういうところに惹かれたのでしょうか。

 

山本 シンプルに顔がかっこよくて、男らしいところです。ユン・ピョウ様はスマートかつクールで、スーパー戦隊で言うと青みたいな存在。出演作では『プロジェクトA』が一番好きなんですけど、役の上とはいえ先輩のジャッキー様と対立しても、対等に渡り合っていて、そのストイックな姿に心を打たれました。

 

──『プロジェクトA』にはサモ・ハン・キンポーも出演していますね。

 

山本 ユン・ピョウ様とは対照的に、ぽっちゃりされているんですけど、実は誰よりもアクションが繊細と言いますか。代表作の『燃えよデブゴン』シリーズを観たら分かると思うんですけど、小さい頃から京劇をされていたので、しなやかに舞っているようなアクションが素晴らしくて、女性的な面もあるんです。だから4人の中で一番アクションの参考にさせてもらっていて、サモ・ハン様のような美しさや色っぽさを目指しています。後輩の育成にも積極的で、「まだまだ香港映画の灯を絶やさないぞ!」という意思を持ち続けているのも、かっこいいなと思います。

 

──四天王以外だとドニー・イェンもお好きだそうですね。

 

山本 今年の7月27日で還暦ですが、いまだにキレがすごいんですよね。あとアクションで中国武術というカラーを、ちゃんと見せてくれたのがドニー・イェン様で、特に『イップ・マン』シリーズは素場らしいです。英語が堪能で、ハリウッド映画でも現在進行形で大活躍されていますけど、アクションに頼らなくても魅力的な役者さんですね。

 

──女性でアクションがすごいと思う俳優さんはどなたでしょうか。

 

山本 チャン・ツィイー様です。『グリーン・デスティニー』(2000)や『グランド・マスター』(2013)などを観ると、絶対的な美しさと吸引力があって、ちゃんと武術の鍛錬も積んできたんだなと分かる剣術の動きをされています。デビュー作の『初恋のきた道』(1999)はアクションシーンがないですけど、それでも人を惹きつける力と美しさがあるので、憧れの存在です。

 

──日本のアクション俳優で憧れている方はいますか?

 

山本 真田広之さんです。私が映画を観るようになった頃には海外進出をされていたので、日本のアクションスターと言うよりは、ハリウッド俳優というイメージが強くて。今ほど日本人がハリウッドで活躍していない時代から、お芝居を通して日本の良さを伝えていて。それって並大抵の志ではできないことですし、後輩への道も作ってくださった偉大な方です。今年9月から公開の映画『ジョン・ウィック:コンセクエンス』を先行して観させていただいたんですが、ドニー・イェン様と真田広之さんの対決シーンは痺れました!

 

初めて行った歌舞伎町のホストクラブで洗練された接客に感動

 

──『埼玉のホスト』で連ドラ初主演を果たしましたが、オファーがあったときは、どんなお気持ちでしたか。

 

山本 思わず「私でいいんですか?」とびっくりしました。アクション主体の作品や、体を動かすようなキャラクターなのかなと思ったらそうではなくて、舞台はあまり訪れたことのない埼玉県、しかも私が演じるのは行ったことのないホストクラブの優秀なコンサルタントの役。最初は共通点が見つからなかったんですけど、それでも私を選んでいただけて感謝の思いでいっぱいでした。

 

──クランクイン前に、どんな準備をしましたか。

 

山本 キャラクター自体は現場でみんなと一緒に作っていくものですが、個人的な準備でいうと、ホストクラブに行ったことがなかったので、スタッフさんにお願いをしまして、歌舞伎町の有名なホストクラブに行かせていただきました。ホストの歴史やコンサルタントはどういうお仕事なのかなども調べて、現場に臨みました。

 

──初めてのホストクラブ体験はいかがでしたか。

 

山本 みなさん丁寧な教育を受けているようで、百貨店で接客されているような居心地の良さを感じました。現役ホストの方と一緒にお店のオーナーさんが接客をしてくださったんですが、ずっとお喋りが楽しくて、女の子のことを第一に考えてくれていて、素敵な空間でした。

 

──所作なども一味違うのでしょうか?

 

山本 すごく美意識が高くて、洗練されています。印象的だったのは、別の席の姫(お客様)に呼ばれると交代するんですが、そのときに真っ直ぐ目を見て、後ろ髪を引かれるように「すいません」と言ってくれるんです。そうすると、言われたほうも寂しい気持ちになって、また話したくなるんですよね。女性がハマる理由はこれかと納得できました。コールも見せていただいたんですが、開店の1時間ぐらい前にお店に入って練習しているとお聞きして、この仕事にひたむきに取り組まれているんだなと感心しました。

 

──ホストクラブで体験したことは、山本さん演じる荒牧ゆりかが立て直しをする埼玉のホストクラブ「エーイチ」のメンバーにも伝えたんですか?

 

山本 伝えたいなと思うぐらい素晴らしい空間だったんですけど、エーイチはツッコミどころ満載の寂れたホストクラブなので、エーイチのホストを演じるキャストの方々には、リハーサルのときに「ホストクラブ経験をさせてもらったけど、エーイチとは全然違うから、逆に知らないほうがいい」と詳しくは伝えませんでした(笑)。

 

──ゆりかを演じる上で、どんな役作りを意識しましたか。

 

山本 7月18日の制作発表会見で、「岩槻キセキ役の福本大晴くんは、この夏一番のヒロインだと思います」とお話しましたが、ゆりかは「この夏一番のヒーロー」だと思います。かわいいヒロインとして大晴くんがいるので、逆に私はキャストの中で一番のイケメンでいようと意識していました。私のアクション経験が反映された部分も少しずつ明かされていくので、そこにも注目してください。

 

──現場の雰囲気はいかがでしたか。

 

山本 終始みんな仲が良くて、部活みたいな雰囲気でした。その回によって、エーイチのホストと敵対する「ラブ2000」のホスト、一人ひとりにスポットが当たっていくんですけど、本音を言い合える仲間だったので、胸キュンシーンでも感情をぶつけ合うシーンでも、自分はこうしたい、あれは良くなかったと、意見を言い合いました。それぞれが自分の役柄にやりがいと愛着を持っていたからこそ、そういう関係性になれたと思います。みんなに心を動かされる瞬間があまりにも多くて、素晴らしいメンバーに出会えたなと思います。

 

──山本さん自身も、かなり意見を伝えたんですか?

 

山本 そうですね。一人ひとりと対峙するシーンは、特に意見を言っていました。たとえば大晴くんとの胸キュンシーンで、「こういう風に演じたら視聴者の方がキュンとしてくれるかもしれない」と意見交換をできたのは、私はラブコメ自体が初めてだったのでありがたかったですね。

 

福本大晴との共演で初心にかえることができた

 

──歌舞伎町イチの売り上げを誇るホストクラブ「ラブ2000」のNo.1ホスト・赤坂ゲンジを演じる楽駆さんの印象はいかがでしたか。

 

山本 楽駆さんは今回のキャストで唯一、私と年が一緒だったんですが、初めてお会いしたときはクールで大人びていて、しっかりされている方だなと感じました。撮影中も、ゆりかとゲンジはシリアスなシーンが多かったので、その印象は変わらなかったんですけど、撮影が一段落してから気軽にお話するようになって。すごく天然で、ツッコミどころ満載の方でした(笑)。イメージがガラリと変わって、やっぱり同級生だなという感じで打ち解けられました。

 

──福本さんの印象はいかがでしたか。

 

山本 すごく周りが見えているなと感じました。とにかくチームのことを思ってくれているんですよね。お芝居に対してすごくストイックで、ときに繊細で。普段は関西弁で明るく振舞っているんですけど、実は内に熱いものを秘めていて、そこがキセキにも似ているように感じました。私よりも3歳年下ですけど、彼から学ぶものはたくさんあって。大晴くんのおかげで初心にかえることができました。

 

──「埼玉のホスト」の撮影を通して学んだことをお聞かせください。

 

山本 今まで現場では、自分のことを考えるのが第一だったんですけど、今回初めて連ドラでの座長を任せていただいて、みんなのことを考えることのほうが多くて。撮影が終わった後の帰り道も、今までは自分の反省会ばかりしていたんですけど、エーイチのみんなのことを振り返ることが多かったんです。ただ、自分が引っ張っていくというよりは、みんなにサポートされながら、座長でいさせてもらっている感覚が強くて、みんながちょっとずつアドバイスや栄養を与えてくれているんだなって感じることが多々ありましたし、その環境にいられたことが幸せでした。自分が座長を経験したからこそ、数々の作品で主演を務めている方々のすごさも改めて分かりました。

 

──ちなみに山本さんが姫になるとして、エーイチに行ったら誰に接客されたいですか。

 

山本 全員嫌です(笑)。みんなを見過ぎちゃって、キュンとする対象にならないですね。それだけ距離感が近い関係になれたんです。最終話に近づくに連れて、みんなのことが好き過ぎて、泣いちゃ駄目なシーンでも涙が出ちゃって……。それは私だけじゃなくて、みんなも同じで、「まだ最終回じゃないなんだから」とお互いにツッコミ合っていました(笑)。主演をさせていただいた身として、そういう素晴らしいチームにいれたんだと思うとうれしかったですし、みんなが愛おしくて仕方がなかったです。

 

──俳優を続けていく上で、どんなことを大切にしていますか。

 

山本 周りへの感謝の気持ちです。学生時代は主にアスリートとして日々を過ごしていましたが、個人競技でも、スポーツは一人でできるものではなくて。武術の大会で優勝したときも、自分の喜びよりも、支えてくれた人たちが喜んでくれることがうれしかったんです。周りの人たちのおかげで頑張れたんだというのが正直な気持ちでしたし、それは俳優業にも共通しています。このお仕事も一人では成立しないですし、たとえ自分が上手くできたからといって、全体が上手くできるものでもありません。だからこそ周りへ感謝する気持ちは、ずっと忘れないようにしようと思っていますし、時間はかかってしまうかもしれないですけど、何か一つ恩返しできるようになりたいと思っています。

 

──今回、連ドラ初主演を務めたことも、周りの方々は喜んでくれるでしょうね。

 

山本 私の映画デビュー作『太秦ライムライト』(2014)は、古き良き時代劇を支えてきた人たちを描いた作品でした。昨年はNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に出演させていただきましたが、そのときにお世話になった方々に良い報告ができたなと思いました。今回の連ドラ初主演にしても、この10年間で、いろいろな方から「いつか主演してね」と言っていただき、そのおかげで今回のチャンスをいただけたと思います。だから今後も報恩謝徳の気持ちを忘れずにいたいです。

 

──最後に改めて『埼玉のホスト』の見どころをお聞かせください。

 

山本 スマートでかっこよくて神々しいのがラブ2000、打って変わって本当にホストなの? っていうような、ちょっとお馬鹿で天真爛漫、でも憎めなくて愛おしいのがエーイチ。その対照的なところが見どころの一つです。一人ひとりの男の子たちがコンプレックスを抱えていて、それはエーイチ側だけじゃなくて、ラブ2000側のホストもそうなんですけど、それぞれ後悔があったり、挫折を繰り返したりしていて。でも仲間たちに出会えたおかげで、挫折を乗り越えて、成長していく青春群像劇になっています。見た方が「明日また頑張ろう」って思えるような、背中を押してくれるような明るい、そして力強いドラマになっているので、ぜひ見てください!

 

ドラマストリーム『埼玉のホスト』TBSテレビ

毎週火曜 深夜25時~ 放送中

TVer、TBS FREEにて見逃し配信、NETFLIXにて先行配信

 

<キャスト>
山本千尋、福本大晴 (Aぇ! group/関西ジャニーズJr.)、楽駆、木村了、中沢元紀、田中洸希、濱尾ノリタカ、守谷日和、中山咲月ほか

 

<スタッフ>
脚本:伊吹一
音楽:青木沙也果
主題歌:Sean Oshima 「回せ回せよ哲学を -Imagine-」 (A-Sketch)
挿入歌:りみー 「この物語はフィクションです」 (SoCo Records)
演出:古林淳太郎、坂上卓哉
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/saitamanohost_tbs/

 

<ストーリー>
経営立て直しの凄腕コンサルタント荒牧ゆりか (山本千尋) は、匿名で埼玉のホストクラブ 『エーイチ』 の立て直しの依頼を受けていた。経営再生のためにゆりかは店のダメ出しを始め、さらに奇跡のナンバーワン候補を雇うと宣言。そんなゆりかがスカウトしてきたのは、農家の息子 (福本大晴) だった。だが、彼は植物としか喋れない超がつくほどの内気な性格で……。

 

撮影/中村功 取材・文/猪口貴裕