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2023/6/15 11:15

「俺のドリップは何て未熟なんだ…」タイガーの斬新コーヒーマシン「サイフォニスタ」を使って痛感

今年の2月にタイガー魔法瓶が新発売したコーヒーマシン「Siphonysta(サイフォニスタ)」をご存知でしょうか。こちら、デザインからして既存のコーヒーメーカーとは一線を画すプロダクトで、気になっている人は多いと思います。

 

そこそこコーヒー好きの筆者もそのひとり。特に、サイフォン式(後述)はほぼ未知の領域なので好奇心がそそられます。メーカーに問い合わせたところ、「でしたら使ってみません?」とのことで、いろいろと試してみました。

↑「サイフォニスタ」ADS-A020。直販価格6万6000円(税込)というアッパーな価格からも自信がうかがえます。色はオニキスブラックのみ

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】

 

1種の豆で10通りの味わいを楽しめる

まずは本機の特徴とともに、サイフォン式について解説します。タイガー魔法瓶はこれまでも数々のコーヒーマシンを世に送り出してきましたが、ほとんどがドリップ式でした。新作「サイフォニスタ」は名称から連想できるようにサイフォン式であり、気合いの入り方が違います。それはひょっとすると、同社が今年創立100周年を迎えるからかもしれません。

 

ドリップ式というのは日本では最も主流の淹れ方で、コーヒー豆にお湯を落として抽出する方式です。そして今回のサイフォン式というのは、フラスコ内の水を沸騰させ、気圧変化によってコーヒーを抽出する淹れ方のこと。

↑こちらがサイフォン式コーヒーの一例。以前取材した丸山珈琲にて

 

味の特徴は、例えばドリップ式に比べると、サイフォン式は高温抽出かつ撹拌(かくはん)を加えるため豆本来の魅力をより楽しめる傾向があります。また、ポコポコと沸く音が心地よく、コーヒーがシリンダーに少しずつ溜まっていくライブ感も特徴です。

 

そういったサイフォン式の魅力を、コーヒーマシンに落とし込んだのが「サイフォニスタ」。サイフォン式のコーヒーマシンは世界初ではありませんが、ここまでスタイリッシュなデザインはなかったといっていいでしょう。

↑サイズは、幅31.3×奥行き23.9×高さ36.6cm。変形A4サイズのGetNaviと比べるとこの感じです。また重さは約5kgと、そこそこありました

 

機能面の特徴も多岐にわたり、特にコアとなるのがスチーム技術と熱制御技術を融合させた独自の抽出システム。そして、抽出過程で温度を切り替えて雑味をクリアにしつつコーヒー豆本来の風味を引き出す、「Dual Temp(2段階温度抽出)モード」を搭載していること。このほか酸味と苦味、薄めと濃いめを各3段階ずつ好みで設定できる9通りの味調整があるので、1種類の豆で10通りの味わいを楽しめます。

↑モードを選ぶボタンは普段は消えており、シリンダーユニットを本体にセットしロックをかけるとモードボタンが点灯する仕様。文字盤は「Bitter」「Acidic(酸味)」「Light」「Strong」「Dual Temp」とすべて英語ですが、視認性よりデザイン性重視の筆者は大歓迎

 

シリンダーユニットにも技術が凝縮されており、それらはパーツの構造からみても明らか。こちらは水を入れる「上シリンダー」とコーヒー粉を入れる「下シリンダー」、そして上下シリンダーを固定する「ジョイント」からなり、これらをガチャッと一体化させて本体にセットする仕様となっています。

↑シリンダーユニットのほか、計量スプーンなども付いてきます。なお、ユニットは単独でも自立しますが、より安定させるためにシリンダースタンド(左端のステンレスパーツ)もあります

 

さながらコーヒーの噴水だ!

ここからは、実際に「サイフォニスタ」でコーヒーを淹れた感想をレポートしていきましょう。まずは「Dual Temp」モードで試しました。こちらはコーヒー豆本来の風味を引き出すという特性上、スペシャルティコーヒーを使うとよりポテンシャルが発揮されるとのことで、有名なスペシャルティコーヒーの浅煎り豆を挽きたてで用意しました。

↑東京・調布に焙煎所がある「猿田彦珈琲」から、酸味がフルーティで繊細な味の浅煎り豆をセレクト。電動ミルで挽くと、それだけで目覚めるような香りがさらに広がります

 

「サイフォニスタ」へのセッティングは、まず挽いた豆(コーヒー粉)を「下シリンダー」へ投入。計量スプーン1杯でコーヒー1杯ぶんとなり、本機では最大2杯ぶんまで作れます。

↑まずは1杯ぶんでトライ。「下シリンダー」にはフィルターと揚水パイプがセットされており(着脱可能)、パイプに入らないようにコーヒー粉を入れます

 

そして「上シリンダー」には水を入れます。こちらも目盛りが付いているのでわかりやすく、1杯ぶんの位置まで入れればOK。前述したように「ユニット」を介して上下のシリンダーをドッキングし、このシリンダーユニットを「サイフォニスタ」にセットして準備完了です。

↑シリンダーユニットをセットするとこのような感じ。水とコーヒー粉はそれぞれ1杯ぶんです

 

電源を入れると前述したようにランプが点くので、「Dual Temp」モードで「Start|Stop」ボタンをプッシュ。すると「フォーン」という音とともに動作がはじまります。その音はそこまで大きくもなく、このあと熱湯が流れてコーヒーの噴出もありましたが、特に気になりませんでした。

↑まずスチームが「下シリンダー」のコーヒー粉を蒸らし、その後注湯により浸漬して撹拌されます

 

浸漬と撹拌のあとは、減圧とともに「上シリンダー」への噴き上げ工程へ。最初はちょろちょろと噴出していたものが次第に強くなり、やがて噴水のように噴き出してきます。

↑エンターテインメント性は抜群。見ているだけでも楽しいです

 

抽出し終わると「ピーピーピー」と音が鳴って完成。本体の右側にあるレバーを手前に引くことでコーヒーが出るのですが、これがちょっと豆を搾るような感覚で心地いいです。

↑ちょうどモードボタン群の裏側に小さな穴があり、抽出レバーを引くことでそこからコーヒーが注がれます

 

「家にいながら店の味」とはまさにこのこと!

そしていよいよテイスティング。スペシャルティコーヒーの豆だからというのも大きいですが、果実味を伴う華やかな香りと酸味の爽やかな味わいがたまりません! お店のおいしさと遜色ないレベルで、いままで自分のハンドドリップがどれだけ未熟でヘタだったのかを思い知らされました。

↑干しぶどうのような熟したベリーフレーバーや、グレープフルーツを思わせるビターな柑橘感も。まさか家でこの味が堪能できるとは!

 

繊細な浅煎りをこれだけおいしく楽しめるなら、中深煎りも絶品だろうと思い、よりビターな豆でも試してみました。使ったのは同じ「猿田彦珈琲」でも、苦みやコクがしっかりしたタイプです。

↑モードは、酸⇔苦は「Acidic」、薄⇔濃は「Light」をセレクト

 

ともに、あえて中深煎り豆の特性とは逆のライトなモードを選びましたが、違和感はなく、豆の個性と絶妙な酸味がしっかり調和されたおいしさです。こうして9段階(「Dual Temp」を含まず)から選べるのは、豆の個性を様々な側面から楽しみたいコーヒー好きにとって、たまらない機能ではないでしょうか。

↑ビターテイストなコーヒーをすっきりゴクッと楽しむために、酸味を効かせた軽めのモードで淹れるのもアリ。シーンや気分に応じて使い分けられるのはうれしいです

 

このあと、最もビターでストロングなモードでも試しましたが、こちらはやはり重厚なコクと深みがしっかり出た味わいに。ミルクで割ってもおいしいと思いましたが、さすがにエスプレッソのように濃密でとろみのある味にはなりません。エスプレッソはやはりエスプレッソマシンに軍配が上がりますが、ドリップ系のコーヒーと比べるなら、「サイフォニスタ」で極めてハイクオリティな一杯が楽しめると思います。

↑唯一無二のお洒落なデザインと、優雅なライブ感が満喫できました! 6万6000円でも、そう高くはないのかもしれません

 

最後に、お手入れについて。パーツは多いですが毎回洗うのはシリンダーユニットのみで、洗浄自体は大変ではありません。「下シリンダー」のコーヒーかすを取り除くのは紙ごと捨てられるペーパードリップ派からしたら手間ですが、コーヒー好きであればその手間すら愛しいはず。

↑シリンダーユニットの各パーツは、丸洗いできます

 

なお、本機は2杯までしか抽出できませんし、保温が大得意なタイガー魔法瓶にもかかわらず、保温機能はありません。しかしこれは、時間経過による酸化を嫌うコーヒー好きに向けているからでしょう。愛好家は常に淹れたてを飲みたいので、2杯でも十分という判断だと思います。いろいろな意味で振り切ったコーヒーマシン「サイフォニスタ」。まさにコーヒー愛好家が待ち望んだモデルと言えるでしょう。