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2018/2/22 11:00

五反田のスタートアップ「XSHELL」に見た「人にやさしいIoT」――目前に迫る「IoT時代」に不可欠なものとは?

五反田スタートアップ第16回「XSHELL」

 

電球が生活に入ってきた当時、灯りをつけるためには踏み台を用意し、電球の根元あたりにあるつまみをひねる必要があった。それから蛍光灯の時代になり、最初はぶら下がったヒモで、やがて壁に取り付けられたスイッチや手元のリモコンでオン・オフができるように移り変わってきた。そしていま、スマートスピーカーなどを設置し、IoT機器を音声で制御する時代が始まろうとしている。

 

五反田スタートアップ第16回は、わたしたちの暮らしを、社会を豊かにする「IoT」を支える事業を展開する、XSHELL(エクシェル)CEO 瀬戸山 七海氏に話をうかがった。

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↑XSHELL CEO 瀬戸山 七海氏。ちなみに、社名はプログラムの「SHELL」と未知をあらわす「X」を表したもの……と公式には説明されているが、「本当は『GHOST IN THE SHELL』が由来なんです」とのこと。人とネットの接続がごく当たり前のものになってほしい、という意味も込められている

 

まるでリモコンで操作するように、遠隔地にある端末を集中管理できる画期的システム

――:早速ですが、御社の事業について教えていただけますか?

XSHELL CEO 瀬戸山 七海氏(以下、瀬戸山):その前に、まずは弊社内をご覧ください。

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(1)オフィス内照明のオン・オフを一括管理するためのパネル。(2)Amazonダッシュボタンを改造した、同じくオフィス内照明のコントロールボタン。(3)ハンダゴテなどが置いてある作業スペース上に設置した温度センサー。ハンダゴテの電源切り忘れを防止する。(4)IoTとは少し異なるが、ドアの開閉を容易にするハンドル。社内にある3Dプリンターで製作。3Dプリンターのほかにレーザー加工機もあり、ハードウェアのプロトタイプを作るのに使う

 

――:さまざまなものが手元や音声でコントロールできるんですね。

瀬戸山:はい。それに加え、オフィスの4か所に取り付けられたこの端末は、気温、気圧、湿度、端末内部の温度などをモニタリングし、データをすべてクラウド上に蓄積。わたしが出社していなくても、オフィスに人がいるかどうかをチェックすることができるんです。

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↑室内環境の情報をセンシングする手作りのIoT端末

 

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↑上の端末で取得したデータはすべて社内にあるサーバーに蓄積され、このように可視化することが可能

 

――:IoTという言葉はよく耳にするようになりましたが、こうやって見ると便利さを実感できますね。ところで、これと御社の事業にはどのような関連性があるのですか?

瀬戸山:わたしたちは、世の中に出回っているたくさんのIoT機器を適切に管理したり、端末内のソフトウェア・アップデートをしたりするのを自動化する仕組“IoTのロジスティクスツール”を提供しています。

 

――:……というと?

瀬戸山:駅の案内表示などのデジタルサイネージを思い浮かべてもらえるでしょうか。たまにそれがWindows Update画面になっている写真がSNSで流れてくることがありますよね。

 

――:はい(笑)。

瀬戸山:ネットにつながっている端末は、さまざまな理由でアップデートが必要です。でも時間帯がコントロールできていないとそのようなことになってしまう。その点、XSHELLが提供する「isaax(アイザックス)」は、ひもづいたすべてのIoT端末(独自IPアドレスを持っていなくても)を、遠隔でアップデートしたりデータ収集したりなどして管理でき、これにより本来作動していなければならない時間帯ではなく、夜間など、任意のアップデートのスケジューリングが可能になるんです。

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↑XSHELLが提供するIoTロジスティクスサービス「isaax」の説明サイト

 

――:なるほど!

瀬戸山:ほかに、自動販売機、物理的な鍵がなくてもスマートフォンで開閉できるスマートロック、プリンター、モニターカメラといったIoT機器も一括管理できます。

 

――:モニターカメラもですか!?

瀬戸山:たとえば、仕事場のモニターカメラを最初は「人感センサー」としてのみ利用していたとします。そこに、あとから「作業服の着用の判別」「胸のタグを判別」という具合に、できることをソフトウェア・アップデートにより増やしたいという場合が出てきます。もちろん、日々巧妙になっているネット上の危険を回避するために、セキュリティの脆弱性にパッチを当てる、といった必要性もあるでしょう。

 

これまでだと、こうしたアップデートも含めた管理・保守・運用は、メーカーからの派遣など、人が端末のある現地に行く必要がありました。でも、isaaxを使えば、リモートで行えるんです。

 

――:では、事業立ち上げのきっかけを教えてください。

瀬戸山:2014年8月に学生ベンチャーとして立ち上げた際は、協調型パワードスーツを事業の柱にしていました。でも、ハードウェア事業はお金がかかる。その限界を感じたことが、1点。

 

また、“協調型”ということで3~4台のパワードスーツを試作していたのですが、ソフトウェア・アップデートは1台1台有線で行っていて、これがなかなか手間のかかる作業でした。「ユーザーエクスペリエンスの向上には、ソフトウェア・アップデートが欠かせないのに、こんなに手間がかかる。これが複数、しかもあちこちに散らばっているとしたら、どれだけ大変だろう。ソフトウェアの遠隔配信システムを作ったら喜ばれるのではないか」と考えたんです。

 

この2つのことがあり、事業をピボットし、生まれたのがisaaxというわけです。

 

――:マネタイズについても教えていただけますか?

瀬戸山:isaaxを利用しているデバイスの台数ごとに月額料でまかなっています。ただ、我々のシステムが組み込まれているのは現状B to B to B製品のみなので、一般の方にとってはここに料金が発生している、というのは見えてこないと思います。

 

――:立ち上げ時、また現在でも苦労されていることはありますか?

瀬戸山:事業について理解してもらえないことですね(笑)

 

――:ああ……。わたしもまだ十分には理解できていません。

瀬戸山:そういうものですよ(笑)。まず、IoTのこと、次になぜアップデートが必要なのかということを理解してもらえない。でも、ネットワークにつながっているハードウェアはソフトウェアのアップデートをしないと、セキュリティ上の危険を回避できないことがままあります。端末で取得した情報が、知らない間に知らないところに送信される、ということがあり得るわけです。

 

このアップデートを、端末のある現地に人を派遣することなく、早く、同時に、任意の時間帯に行える。そのメリットは計り知れないと考えています。

 

isaaxでハードウェアが人間に寄り添う世界に?

――:事業への理解を深めるために、isaaxを利用した事例があれば教えていただけますか?

瀬戸山:神戸にある、みなと観光バスでの実証実験にisaaxを活用してもらいました。これは、同社が運行する33台のバスに対し、運転手の安全運転支援システムを搭載、3か月間稼働させるというものです。

 

搭載直後は、運転手の心拍数や呼吸状態を見守り、次にみなと観光バスの路線図情報と運転手の健康情報が連携するようアップデート。これにより、特定の十字路で運転手の心拍数が上がることなどがわかり、どの場所が危険なのか、などといった情報を取れるようになりました。

 

こうした神戸にある複数台のセンサーへの段階的アップデートは、ここ東京のオフィスから。isaaxだからこそ、簡単に手間なく行うことができたと言えます。

 

――:将来のビジョンについてもお聞きしてよろしいですか?

瀬戸山:わたしたちが目指しているのは、人間がハードウェアに合わせる世の中ではなく、ハードウェアが人間に寄り添う世界。いまは何かのマシンを使いたいと思う場合、その使い方を覚えないといけないですよね。

 

そうではなく、スマートフォンを中心とした1つのインターフェイスだけで複数のハードウェアを使える、しかもそれらハードウェアは複数人でシェアする、という将来を実現したいと考えています。そして、それらの間にあるのがクラウドです。

 

たとえば、ある人がソーシャルアカウントでクラウドサービスにログイン、そこにあるドキュメントをプリントアウトする。別の人も自分のソーシャルアカウントでクラウドサービスにログインして、自分のドキュメントを同じプリンターを使ってプリントアウトする。ユーザーは、そのプリンターを所有するための料金ではなく、使ったぶんだけのお金を払う。それらハードウェアのユーザーエクスペリエンスは、アップデートによってどんどん向上し、使いやすくなる。

 

そういう世界が、今後のIoTの流れで来るのではないかな、と感じています。そして、isaaxならアップデートに手間取りませんから、実現も容易になってくるのではないか、と思います。

 

品川と渋谷の中間地点にある五反田は、両地域の特徴をあわせ持つユニークな場所

――:五反田にオフィスを構えた理由を教えてください。

瀬戸山:実は、取引先が渋谷と品川に多いんですよね。五反田はその真ん中あたり。もちろん、賃料が安い、というのもありますが、立地的にも弊社に最適だと感じ、ここに落ち着きました。おそらく、当分はここにいるんじゃないかと思います。

 

――:実際、五反田に腰を落ち着けてからどのようなイメージを持ちましたか?

瀬戸山:渋谷と品川、両方の特徴を持った街、という印象ですね。品川はいかにもオフィス街、渋谷はもともと繁華街、というイメージですが、五反田の場合、駅を挟んで西側がビジネスライクで東側には夜の街の顔もある。面白いところですよね。

 

――:五反田には飲食店も多いのですが、お気に入りのお店は見つかりましたか?

瀬戸山:それが、ほとんどコンビニやファーストフード店などで食べるものを買ってきて、オフィスで仕事しながら食べてしまうんですよね。だから、まだ「ここ」というところがないんですよ。ただ、社内のほかの人間はよく外食していて、「ミート矢澤」がいい、という話は聞いています。

 

――:スタートアップ企業の多い五反田ですが、コラボしたいところがあれば教えてください。

瀬戸山:手間いらずで、新仕様をアップデートできるセンサーを使って「こういうことがやりたい」という企業さんがあればぜひコラボしたいのですが……募集してます!

 

――:最後に、読者へのメッセージをお願いします。

瀬戸山:うちのオフィスにもありますが、スマートスピーカーがだいぶメジャーになってきましたよね。次にくるのはいつも身に着けていられるスマートイヤホンだと考えています。これがあれば、自分の脳がインターネットにつながっているような、そんな感覚を覚えることができます。

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↑瀬戸山氏が愛用するスマートイヤホン。簡単にPCのアプリを立ち上げたり、ネット上の情報を検索し、その結果を音声で返してくれる

 

また、耳孔はひとりひとり形が違うため、指紋や虹彩、顔認証の代わりになり得ます。なので、イヤホンを着けているだけで、決済できたり、スマートロックを解錠できたりするようになるんじゃないかな、とも期待しているんです。

 

そして、そこにisaaxが組み込まれていれば、対応機器を次々と増やしていくこともできます。縁の下の力持ち的なシステムではありますが、そういうところにも活用できる、ということを知っていただければと思います。

 

――:ありがとうございました。

 

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