本・書籍
2018/8/13 22:00

「妻(夫)に見せる育児」が家庭円満の秘訣だ!――『そのオムツ、俺が換えます』

よく、SNSで「育児系エッセイ」にたくさんのシェアが集まっているのを見かける。ついクリックしてしまうのだが、どれもユニークで、あるある感半端ない。

 

その多くが、子どもの謎の行動とか、ワンオペ育児の辛さとか、親になって初めて知った愛しさとか切なさとか心強さとか、いわゆる「ママたちの子育て小噺」である。なかには、「うちのダンナってば…」という愚痴的要素も織り交ぜられていて、そこがまた多くのママたちに受けるのだろう。「自称イクメンとか言うけど、ウンチのときのオムツ替えもできないくせに、どこがイクメン!?」的なやつだ。

 

 

個人的には「イクメン」という言葉があまり好きではないのだが、世の中の一般的な「パパ像」がわかって面白い。「だよねー」と共感できる部分も多々ある。

 

反対に、男性側の視点で描かれている育児漫画も増えてきている。子どもに振り回される様子や、家庭内でのパパのぞんざいな扱いなどが自虐的に描かれていたりして面白い。「確かに、うちもそう!」と吹き出してしまう。

 

やはり、人は「共感」を通して、その作品を評価することが多いのだ。

 

それがだ。全然共感できない(いや、厳密に言えば共感できる部分ももちろんあるが)のに、だからこそ、笑えて泣けてグッとくる漫画がある。『そのオムツ、俺が換えます①』(宮川サトシ・著/講談社・刊)だ。

 

このコラムでは、自分が読んでおすすめしたい一冊を紹介しているのだが、今回は特に、「すべての人に読んでもらいたい!」と大声で叫びたいほど、おすすめなのである。

 

 

見せる育児に奮闘する男・宮川サトシ氏

タイトルからすると、「イクメンな俺の日常を語る漫画」と思いきや、内容はまったく違う。

 

子どものオムツ換えを毎朝行っている宮川氏。ここまでは、「イクメン日記なんでしょ?」という感じなのだが、その行為の裏には、「男親は比較的避けがちと言われるオムツ換えというミッションを率先してやっている俺! そんな俺を見てくれ!」と、常に妻の視線を意識して育児に参加している想いがあるのだという。

 

ロンパースなどの肌着の股間部分にあるスナップひとつとっても、3つあるうちの真ん中さえ留めれば問題ないが、それだと「妻や保育園の先生たちに『愛情不足だ』と誤解されかねない」から、念入りにすべてを留める。

 

保育園の行事にはできるだけ参加して「ちゃんとお父さんが来てるのウチだけだったよ~」と妻に言わせたかったけれど、意外にも他のお父さんたちの行事参加率が高く、再起をかけて保護者対抗リレー大会でガチで走る。

 

保育園の保護者読み聞かせ会に向けて絵本選びからこだわり、内容はすべて暗記、自信と声量を保った、極上のエンターテイメントとしての読み聞かせを披露し、「妻よ! 読み聞かせに必死な俺を見てくれ!」「娘よ! お前のお父さんは面白いだろ?」「園長先生! 俺の育児っぷりに一目置いてくれてますかーっ!」と全力で取り組む。

 

とにかく、すべての行動が第三者を意識した「見せる育児」なのだ。どの点をとっても、うちの夫とはまったくもって共通点がない。でも、とにかくリアルで、痛快で、爽快で、宮川氏の頑張りが、なんだかこうグッと来るのだ。

 

 

育児ポイントカードを導入すれば、家庭は明るい?

宮川氏が推奨するもののひとつに「育児ポイントカード」がある。「己の育児ぶりを己のさじ加減で数値化し記録していくためのスタンプカード」のことで、宮川氏の心の中だけにある妄想上のカードだったのだが、本書には特別付録として、巻末に夫用と妻用の育児ポイントカードがついている。

 

たとえば、「今の俺の育児、妻に響いたな…」と思ったら1ポイント。宮川氏の場合は、絵本読み聞かせ1ポイント、お馬さんごっこは腰にくるから2ポイント、オムツ交換は毎日のことだから1ポイント、ただし、妻の「すっごい助かる~」が出ればポイントは2倍!といった具合。

 

でもって、貯まったポイントに応じて、自分へのご褒美が許される、というものだ。夫版であれば、3ポイントで「リビングで堂々とうたた寝してもよい」、妻版であれば、10ポイントで「レディースデーじゃなくても映画館に行ってもよい」など。宮川氏いわく「見せる育児を志す者のモチベーションを上げつつ、家庭の調和を保つアイテム」なのだそう。

 

この方法は、かなりユニークだが面白い。なかなか褒められることの少ない育児において、「褒めて褒めて!」と自らアピールすることで、夫婦間の理解や労いの気持ちが深まるような気がする。

 

 

母になる準備・父になる準備

本作品には、よく男女間の相違点として語られることが多い「女はお腹の中で赤ちゃんを育てていく10か月間で母親になる準備をする。対して、男は体の変化がないから、父親になる自覚が湧きにくい」みたいな話が、至極生々しく描かれているのも印象的だ。

 

妻の妊娠の知らせを最初に聞いたときの、どこか客観的だった自分。

 

妊娠前は一緒に見ていた海外ドラマや夜遅くまで対決していたゲームを、妊娠してからやらなくなった妻。子育てに向けて、長かった髪をバッサリ切ってきた妻。お腹が大きくなる以外に、どんどんと妻だけが大人になっていく一方、自分ひとりが子どものまま置いてけぼりにされたようだと思った自分。

 

出産で立ち会った時、うまく泣けるかどうかをずっと気にしていた自分。そして泣けなかった自分。子どもが生まれたという実感がなかなか湧かなかった自分。

 

そこから、少しずつ「父親」としての想いが育っていく様子が、別にお涙頂戴という感じで描かれていないのに、毎話じーんときてしまう。

 

もしかしたら夫も、実はこんなふうに戸惑いを感じていたのだろうか。そして、普段はポーカーフェイスな感じで子どもに接しているが、実は「見せる育児」を意識していたりして。

 

そういえば、以前宮川氏が「“子どもはいらないと思ってたけど、この漫画を読んで子どもが欲しくなった”って感想が増えてきた」と語っていた。

 

見せる育児と育児ポイントカードは、少子化にも歯止めをかける一策かもしれない。

 

 

【書籍紹介】

そのオムツ、俺が換えます(1)

著者: 宮川サトシ
発行:講談社

あえて言おう。全ての夫は妻に褒められたくて育児をしている…と! (諸説あり)世の中のお父さんたちがずっと思ってたけど、ずっと言えなかったこと。本音満載の新感覚育児エッセイ!

kindlleストアで詳しく見る
楽天Koboで詳しく見る