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2019/7/19 21:45

「社会問題を解決する」ために「自分は」何ができるのか?――『チェンジメーカー』

社会起業家という肩書きが最近目立ちます。一般の起業家とどこが違うのかというと、普通の起業は「利益を得るため」に事業を起こし、社会起業は「社会問題の解決のために」事業を起こすというところ。こうした新しいスタイルの起業にクリエイターはどう関係していくのかを考えてみました。

 

アメリカでは20年前から

社会起業家という言葉を2004年に早くも使って各国の事例を紹介しているノンフィクション『チェンジメーカー〜社会起業家が世の中を変える』(渡邊奈々・著/日経BP・刊)は、出版から15年経っても色褪せない感動的な事例集です。

 

貧困に陥った人のための格安医療事業やホームレス専門の住宅再生デベロッパーなど、世の中の問題について斬新で前向きな取り組みが数多く紹介されているのです。

 

この本によると社会起業家という言葉がアメリカで注目され始めたのは1997年ごろだそうです。そしてスタンフォード大学とハーバードのビジネススクールで社会起業の講座が開講になったのが2000年だということです。それから約20年を経て、日本でも認知が広まりつつある肩書きとなりました。今まで多かった利益最優先の起業のありかたに疑問を持つ人が世界中で増えているのかもしれません。

 

特筆すべきは社会起業家としての評価基準。普通の起業家は「どのくらいの利益を得たか」で評価されがちですが、社会起業家は「どのように社会に役に立ったか」が評価されるのです。今までのお金だけで評価する生きかた以外の新たな柱が育ちつつあるのは素晴らしいことです。カネあまり、モノあまりとも言われる昨今、人々は経済利益以外の目的を探し始めているのでしょう。

 

 

マザーテレサと「死を待つ人の家」

社会起業といってもピンとこないかもしれませんが、私はマザー・テレサを真っ先に思い出しました。彼女がインドに「死を待つ人の家」や「孤児の家」を作ったのは、一種の社会起業といえるのではないでしょうか。これにより利益を得ていたわけではありませんが、多くの人から寄付を得て、社会に必要といえるものを作り出した彼女は発想の面でも資金調達の面でもアイデアマンであったと言われています。

 

現代でも多くの人が、困っていることを解決するための事業にクラウドファンディングなどで出資を募っています。マザーテレサのように有名になりメディアに取り上げられなくても、SNSなどを通じて多くの人の協賛を集めることができる時代になったので、社会起業は始めやすくなっているのかもしれません。

 

 

クリエイターと社会起業

現代の問題に正面から取り組み突破口を探る社会起業家の姿を眩しく思うクリエイターは少なくないでしょう。著者の渡邊奈々さんも、もともとはカメラマンですが、彼らの姿を見て「私にも何かできないだろうか」という思いでインタビューを始めたそうです。本のなかにもエイズ患者のためのアートセラピーを始めたアートセラピストが登場しますが、今後は社会のために何かしたいというクリエイターは大勢出てくる気がしています。

 

日本でも、病院や介護施設のためのアートプロジェクトが行われるなど、社会の役に立つ作品を創り出すアーティストが出てきています。ホームレスが雑誌販売を代行し、その収益を生活の支えとする『ビッグイシュー』も文化と社会起業のミックスと言えるでしょう。

 

社会起業は新しい発想によって社会を変えていくというもの。その発想力こそが大切だということが本を読むとよくわかります。社会の難問を「どうにかできないか」という強い思いが、ひらめきの原動力となっているからです。情熱を長続きさせるためにも「何かしてみたい」の「何か」を見極めることが大切です。まずは「自分は何をしたいのか」「社会のどのようなところに問題を感じているのか」と考えることで、何かが始まるかもしれません。

 

 

【書籍紹介】

チェンジメーカー〜社会起業家が世の中を変える

著者:渡邊奈々
発行:日経BP

社会起業家とは、ソーシャル・ベンチャーと呼ばれる新しいタイプの社会事業やNPO、NGOを立ち上げた人のこと。著名な写真家である著者・渡邊奈々さんは、本気で世の中を変えようとしているユニークな社会起業家たちと出会い、インタビューを重ね、1冊の本にまとめ上げました。本書に登場する人々のアイデアと熱い思いが、インタビューに添えられた美しい肖像写真とともに静かな感動を与えてくれます。日本ではあまり知られていない世界的な非営利団体の活動を紹介する貴重な情報源でもあり、NPOやNGOに興味のあるすべての方におすすめしたい新しい仕事の本です。

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