筆跡を消すことができる、いわゆる「消せるボールペン」というジャンルがある。
そもそもボールペンで書いた文字は、消すことができないからこそ信頼性があるのだけど、消せたほうが便利ということも実情だろう。実際、筆者も日常的に使い倒しており、手元にないと仕事が進まないほどだ。
さてこの消せるボールペン、代表的なものとしてパイロットの「フリクションボール」と三菱鉛筆「ユニボール R:E」(※)の2種があるが、先ごろ新たにもう1つ、セーラー万年筆「ケセラ」が登場し、話題となっている
※ユニボール R:Eは2025年末で販売終了。
この“第3の消せるボールペン”が、果たしてどのようなものか? フリクションボールの対抗馬となり得るのか? そのあたりを確認してみた。

新方式の消せるボールペン
ケセラの発売元はセーラー万年筆となっているが、新しい消せるインク自体はプラス・ぺんてる・セーラー万年筆の共同開発とのこと。
「なぜその3社が?」と疑問に思われるかもしれないが、実はぺんてるとセーラー万年筆は現在プラスの子会社であり、段階的に統合を進めるとされている。そういう意味では、ケセラは統合の先陣を切る製品として位置づけられているのかもしれない。


まず重要なのは、筆跡が消せるメカニズムだろう。
先行のフリクションやR:Eは共に温度変化がカギだ。大まかに説明すると、筆跡をこすって摩擦熱(60℃〜)を加えることでインク内に含まれる特殊な成分が働き、色が消えてしまう仕組みだ。
つまり、厳密には筆跡が消えるのでなく、インクが透明になっただけなのである。
対して、ケセラはインク内に顔料(色のもと)とゴム材が含まれており、紙の上でインクが乾くと顔料がゴム材に包まれて塗膜のようなものを形成し、筆跡となる。

消すときはキャップ先端に付いている専用消し具でこすると、この塗膜が紙から剥がれ落ちる。感覚としてはボールペンよりもむしろ鉛筆に近く、実際、こすって剥がした塗膜は消しゴムの消しカスにかなり似ている。


夏の車内でも文字が消えない
この“剥がして消す”方式のメリットとして「熱に強い」ということが挙げられる。たとえば、夏場の日なたに自動車を放置しておくと、30分ほどで車内の温度は55℃以上。ダッシュボード内は80℃近くまでいってしまう。
フリクションとR:Eのインクは60〜65℃以上の熱が加わると消えてしまうので、ダッシュボードにそれらで書いたメモなどを入れておくと、あっという間に白紙に戻ってしまうのだ。
その点、ケセラの塗膜は100℃以上の熱風に晒されても大丈夫。この点は間違いなくアドバンテージと言えそうだ。

この方式ならではのユニークな使い方として「マスキング(白抜き)」を紹介しておこう。
まず、ケセラで線を引き、乾燥後に上からカラーペンで周りを塗り潰す。ケセラの塗膜はカラーペンのインクを弾くので、筆跡を消し具で剥がし取れば、そこが白く抜けて残るというわけ。
仕事が捗るとかそういうものではないが、ちょっとした遊び方として覚えておくといいかも知れない。

課題は山積み
では、この第3の消せるボールペンが、フリクションに代わる便利な筆記具になるか?
これはちょっと難しいように思う。
まず気になったのは、キャップ式であるというところ。日本人は信仰に近いようなレベルで「ボールペン=ノック式」にこだわっており、キャップ式という時点で手に取ることはなく、興味を失いがちだ。
とはいえ、インクが乾くと塗膜化する性質上、乾燥を防ぐためにはキャップ式しか選択肢がない。これは現時点ではどうしようもない技術的課題なのだと推測できる。

また、これもあくまでも筆者の推測だが、0.8mmという昨今あまり人気のない太めの線幅は、インク内のゴム材の粒子が大きいせいではないかと考えられる。細いボール径ではゴム材粒子が詰まって書けなくなるのではないだろうか。
この2点は今後もしかしたら技術的に解決できるかもしれないが、現時点では使いづらいポイントにほかならない。
もう1つ改善点がある。筆跡を消してみると気付くはずだが、どうしても消したはずの跡がうっすら残って視認できるのだ。
筆者が見た限りの推測ではあるが、インクが乾燥して塗膜化するより先に顔料が紙の繊維にうっすら付着して、剥がしきれなかったものが残っているように感じられる。
フリクションと比べると、跡残りは確実に分かるレベルであり、正直かなり不満は感じてしまった。

ただ、消せるボールペンの代表格とも言えるフリクションだって、初代はキャップ式だったし、インク色もぼんやりとしたうす墨色に近く、多くのユーザーから「使い物にならない」と酷評されていた。
今後、プラス・ぺんてる・セーラー万年筆が根気強く開発を続けて行くことで、進化を遂げて「化ける」可能性はまだ十分にあると思う。いまはまだ残念な部分も多いが、文房具好きとしては、そういう点も頭に入れながら早めに試しておくべきかもしれない。


