第4次産業革命のど真ん中にいる——。中国の深圳で総合家電・電子機器メーカーのTCLを取材しながら筆者はそのことに気が付き、新しい世界にゾクゾクした。

第4次産業革命とはモノ、バイオロジー、デジタルの世界が融合して不可分になる技術革新を指す。IoTやAI、ロボット、スマートヘルスなどが複雑に結び付き、日常生活や社会のシステムを根底から再構築する段階とされる。
世界の政財界のリーダーが集うダボス会議を創設したクラウス・シュワブ氏は、第4次産業革命が従来の社会や経済を破壊し、人間を再定義することを前提としつつ、「人間を共通の運命感に基づいた新たな集団的、道徳的意識に到達させる可能性を秘めている」と論じる(※)。
※【出典】クラウス・シュワブ著『第四次産業革命 ダボス会議が予測する未来』日本経済新聞出版社 2016年
それこそがまさに、TCLがグローバル・パートナーズ・カンファレンス2026(GPC 2026)で伝えていたメッセージだった。基調講演で「The Fourth Technological Revolution」という言葉が大きなスクリーンに映し出されていたのは、そのサインに見えた。


スポーツ界に見られるTCLの成長
TCLはテレビやエアコン、冷蔵庫といった主要家電のグローバル出荷台数で世界トップクラスの座を獲得しており、スマートグラスの分野でも市場を力強く牽引している。躍進の鍵は、製品の研究開発から製造、販売まで、サプライチェーンのあらゆる工程を自社で統合した「垂直統合モデル(vertical integration)」にある。製造ラインの高度な自動化、巨大な工場が可能にする物流コストの削減、研究開発から量産化までの圧倒的なスピードがその特徴だ。
加えて、TCLの強みは2つの経済性の追求にもある。まず、パネルから最終製品までを一貫して生産する垂直統合モデルによる「規模の経済」(economy of scale)がある。ディスプレイパネルを製造するTCL CSOT(TCL華星光電)は、世界屈指の大型液晶パネルの生産能力を持ち、自社製品に使うパネルを大量に内製化するとともに、他社へも供給し、1台あたりの製造コストを大幅に削減。その結果、圧倒的なコストパフォーマンスを実現した。
一方、最新のAI技術やガジェット展開には「範囲の経済」(economy of scope)も作用している。長年テレビ事業で培ったディスプレイや光学技術に関する知見を、リビングの大型画面だけでなく、後述するAIスマートグラスの「RayNeo(レイネオ)」といった全く異なる形状のデバイスにも横展開している。このように、映像体験という共通領域で、グループ内のリソースやブランド力を多角的に活用することで、開発の効率と付加価値の向上を同時に実現している。

TCLの成長は業績だけでなく、スポーツマーケティングにも如実に現れている。2026年の冬季オリンピックのメインスポンサーにはTCLが名を連ねた。それだけでなく、TCLは英サッカーの強豪・アーセナルやドイツ代表、スペイン代表、米NFLのスポンサーにもなっている。
家電市場の盛衰はスポーツを見るとわかりやすい。かつて日本ブランドが世界の白物家電市場を支配していた1980年代〜1990年代、英国サッカーの強豪マンチェスター・ユナイテッドのユニフォームにはシャープのロゴがあり、イタリアの名門ユベントスにはソニーがあった(90年代半ば)。2000年代に入ると韓国メーカーのSamsungがチェルシー(英サッカーの強豪クラブ)で存在感を放つようになったが、昨今ではTCL以外にもレノボやハイセンスといった中国ブランドが目立つ。
ソニーとの提携でプレミアムブランドの仲間入り
そんな時代の移り変わりは、ソニーがテレビ事業のBRAVIAを分離して、TCLとの合弁会社を設立したことにも現れている。自社の強固なサプライチェーンにソニーのプレミアムブランドと映像技術という強力な付加価値を掛け合わせるこの動きについてTCL側に直撃すると、担当者はこう語った。
これは双方向のニーズが一致したことによる選択だ。 ソニーは長年にわたりプレミアム市場で高いブランド力を持っている。 TCLの持つ強力なサプライチェーン能力やグローバルな生産・設計力を提供することで、ソニーの国際市場での供給をサポートする。一方、消費者に高く評価されているソニーの優れた映像・音響技術が、将来的にTCL製品にも取り入れられる可能性もある。今回の提携は双方にとってだけでなく、市場全体にとってもWin-Winとなる取り組みであり、近い将来にその成果をお見せできるだろう。
しかし、TCLにとってBRAVIAは第4次産業革命をリードするための一手に過ぎないとも思えた。現地で展示されていた最新製品を紐解くと、もはやテレビの枠に収まらない同社の大きなビジョンが見えてきたからだ。広範囲に及ぶ製品の中心部には、もちろんAIがいる。
「次のiPhoneモーメント」と期待のAIスマートグラス

TCLには、生活のさまざまな場面で使用されることを想定した「AIエコシステム」がある。垂直統合モデルによって生み出された高品質なプロダクトを土台とし、それらがAIでシームレスにつながるエコシステムが構築されているというイメージだ。
その中でパーソナルな領域を担う最先端ガジェットとして一際目を引いたのが、AR(拡張現実)とAIを融合させたスマートグラス(スマートメガネ)のRayNeoである(※)。
※リンクをクリックすると、AI+ARグラスだけでなく他のコレクションも含めたRayNeoの人気商品を見ることができます。
RayNeoはすでに「世界で最も人気のあるAIグラス」として高い評価を獲得しているという。TCLは同製品がスマートフォンの歴史を作ってきた「次のiPhoneモーメント」をもたらすデバイスだと宣言していた。

視界に広がる高精細なディスプレイには、高度なAIアシスタント機能が統合されている。特筆すべきは会話のリアルタイム翻訳機能。目の前で話している相手の言葉が自動的に翻訳されて、テキストがスクリーンに映し出される。
また、本体にはカメラが内蔵されており、写真や動画の撮影も可能。ウェアラブルデバイスの懸念点であるプライバシーに配慮された設計となっており、日常使いを強く意識していることが伺える。
筆者がAIスマートグラスを試したのはこれが初めてだったが、両方のスクリーンに中国語や英語の原文や翻訳文がリアルタイムに次々と表示されていくのを見るのは面白く、コミュニケーションの新しい形を体験できた。
四角いウエリントン型のRayNeo X3 Pro AI+ARスマートグラスは、Ray-Ban Metaグラスのモデルと比べると、カメラがブリッジ(鼻にかかる部分)にある点が特徴的だ。その分ブリッジは太くなっているが、装着時はそれほど気にならなかった。AIスマートグラスでカメラは必ずしも智(メガネのテンプルとフロントをつなぐ部分)の近くになくてもいいのだなと思った。
スマートヘルスのパートナーとしてのエアコン
パーソナルな領域をRayNeoが担うとすれば、家のエコシステムを管理するのがAI搭載の白物家電だ。なかでもエアコンはTCLの垂直統合モデルでテレビと並ぶ主要な事業であり、各種センサーやユーザーの生体データを連携させ、AIとヘルスケアを融合した“空間ネットワーク”のハブとして機能している。
TCLが掲げる次世代エアコンのコンセプトは「スマートヘルス」。エアコンは「健康的な住まいをつくるために能動的に思考するパートナー」と定義づけられている。TCLのエアコンは単に部屋を冷やす・暖めるというシンプルな機能の提供から、ユーザーに寄り添う体験重視型へとシフトしており、高度な機能を持つ日本のエアコンに通じるものがある。
その頭脳となるのが、独自開発された「Smart Blue Wing Healthy Technology Engine」だ。このエンジンは、AI Sleep、AI Comfort、AI Fresh Air、AI Voice Control、AI Energy Savingという5つのAI機能を統括し、空調を制御する。ここでは、そのうち最初の2つを取り上げよう。
睡眠をもっと快適にする「AI Sleep」
従来のエアコンの「おやすみモード」は、あらかじめ設定された固定の温度パターンに従うだけだった。しかし、Blue Wingは最大4メートルの距離と80度の広角をカバーする「AIスリープアイ技術(AI sleep eye technology)」を搭載する。ユーザーの睡眠状態をリアルタイムで感知・分析し、個人の温度の好みを学習することで、その日の状態に合わせてパーソナライズされた温度パターンを自動で生成する。
人数と位置を把握する「AI Comfort」
「冷風が直接当たって寒い」「部屋の隅まで風が届かない」。そんな悩みもAIが解決する。Blue Wingに搭載された「AIヒューマンセンサー」は、部屋にいる人の数と位置を正確に特定して、1人ひとりに最適な空調戦略を瞬時に計算する。人に向かって風を送る「風あて」や、人を避ける「風よけ」を自在にコントロールするうえ、人がエアコンに近づくと自動的に風当たりを和らげるなど、“気配り”も徹底している。

快適さを削らず、電気代だけを削る発想
TCLはすでにRayNeoや「AI節電シリーズエアコン(AIの自動運転で省エネを実現する機能を持つ)」を日本でも展開しており、これから新しいモデルを投入していくことだろう。そこで、同社がこのような次世代製品で中心的な役割を担うAIをどう捉えているのかを知ることは重要だ。
SamsungやGoogleといったテック企業がスマートフォンでAIのエージェント性能を高めているのと同じように、TCLもAIを捉えている。TCLインダストリーのダニエル・スンCTOは、理想のAIは「最も安心できる黒子」のような存在だと述べる。
同氏はその例としてAI搭載の洗濯機を挙げた。この洗濯機は、あらかじめ決められた固定の洗濯コースで動くのではなく、AIが洗濯物の負荷や状況を識別する。このAIは運転中であっても常にパラメーターを調整し、洗浄力・時間・省エネの完ぺきなバランスを全自動で導き出すことができるという。
加えて、AIは製品の状態・ユーザーの行動・環境の変化を常にセンシングしており、コンプレッサー(ヒートポンプ)の動作などを極限まで効率よく制御することで、最大40%もの電力を削減することも可能。ユーザーは難しい設定やアルゴリズムを意識することなく、「いままで通りの快適な体験を維持したまま、電気代が下がる」という明確なメリットを実感できるとされている。
TCLの圧倒的な製造力による規模の経済に、AI家電をつなげた巨大なエコシステムが掛け合わさる。これにより、ユーザーは最先端のAI体験を驚くほどのコスパで享受する。
「TCLにおいてAIは単なる能力ではなく、スケーラビリティ(拡張性)でもある。一部の高級デバイスだけでなく、あらゆるユーザーがあらゆるデバイスで利用できるように、AIを民主化しなければならない」とスン氏は熱く語った。やはりTCLは第4次産業革命の申し子である。
少し先の暮らしを実現するための投資
さまざまなモノや人がデジタル空間とつながり、AIがそれらを統合して新たなシステムを生み出す時代が到来している。GPC 2026で目にしたTCLの最新テクノロジーは、そんな時代の発想を具体的な形にしたものだった。RayNeoを装着すれば、外国語の壁がない世界が広がる。エアコンによって睡眠環境が整えば、より快適に眠れ、より健やかな毎日にもつながっていく。こうした製品は、私たちの能力やライフスタイルそのものをアップデートしてくれる可能性を秘めている。未来の自分をより豊かにするための積極的な投資として、TCLの製品を選択肢の1つに加えてみてほしい。

