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2021/6/10 17:30

素人女子2人で救急車をキャンピングカーに!YouTuber『チキチキバンバン』の動画のこだわりとは?

次世代のYouTubeクリエイターを発掘、支援を目的にしたプログラム「YouTube NextUp 2020」のファイナリスト12 組が、昨年末決定した。GetNavi webではこの12組にインタビューを実施。新しい世代のYouTubeクリエイターは、YouTubeを、そして動画コンテンツをどう変えていくのか? 連載形式でお伝えしていく。今回は、DIY初心者女子が「移動できる部屋」×「絶景」を目指してキャンピングカーをDIYするチャンネル『チキチキバンバン』を制作するまりこさん、ちもさんのお二人に、YouTubeを始めたきっかけや動画のこだわり、活動の目的などを伺った。

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:猪口貴裕)

 

チキチキバンバン

 

目的はキャンピングカーを作る

――2019年11月に初めての投稿をしていますが、どういう経緯でYouTubeチャンネルを始めたのでしょうか。

 

まりこ 最初に二人でキャンピングカーを作るという目的があって、せっかくならメディアで発信したい、だったらYouTubeだなということで始めました。

 

――それまで動画制作の経験は?

 

まりこ 自分の結婚式の動画を制作したぐらいで(笑)。二人とも未経験でした。

 

ちも ただ私が会社員時代、マーケティング部に所属していて、そこでYouTuberの方々とお仕事をしていたので、一から始める方と比べるとハードルは低かったと思います。

 

――キャンピングカーのDIYは、いつぐらいから計画していたんですか?

 

ちも インスタなどを通して、海外にはキャンピングカーをDIYする文化があるんだと知って、いいなと思ったんです。それをまりこさんに話したら、ちょうど彼女もグランピングにハマっていた時期で「面白そうだね」と。そういう話をしたのが2019年の夏ぐらいです。

 

――YouTubeチャンネルを始めた当初はプラモデル制作や、レンタルしたキャンピングカーでの車中泊などの動画がメインでしたよね。

 

まりこ なかなか自分たちの予算に見合う車が見つからなかったんです。でも、せっかくだから動画を出し始めたいよねと。私たちは建築学科出身なので、まずはキャンピングカーの模型を作ってみようと二人で試行錯誤しながら始めました。分からないことがあったらネットで調べて、YouTubeの練習期間みたいな時期でしたね。

 

――建築学科で学んだことは動画制作にも活きていますか?

 

ちも キャンピングカーの制作面でいうと、図面を引いたり、模型を作ったりしていた経験があるので、施工の方法を考えるときに役立っています。ソフト面でいうと、編集自体はやっていなかったんですけど、建築学科時代にアドビ製品を使っていたので、そこに対する順応力はあったかもしれません。

 

↑まりこさん

 

フリーターの間に面白いことをしたい

――お二人は同じ大学の先輩・後輩という関係だそうですが、YouTubeチャンネルを始めたときにお仕事はしていなかったんですか?

 

まりこ 私は大学院を卒業して就職したんですけど、高校教師になろうと思って会社を辞めたんです。教員免許を取る勉強をしながら、フリーターでもしようかなと考えていて。それを、ちもに伝えたら「まりこさんが会社を辞めるなら私も辞めるので、フリーターする時間を私にください。それで面白いことをしましょう」と言われたんです。

 

ちも 私も会社自体に不満があった訳ではなかったんですけど、会社の枠にとらわれない楽しいことをしたいなと思っていた時期で。でも自分だけではできないし、今後どうしようかと考えていたときに、まりこさんが会社を辞めると聞いて。まりこさんとは大学時代から仲良くしていて、大好きな先輩だったので、一緒に楽しいことをやりたいなと思ったんです。

 

まりこ 私が大学院を卒業するタイミングで、二人で九州にヒッチハイク旅行をしたことがあって、行く先々で素敵な出会いがたくさんありました。そのときに、二人が揃ったら最強なんじゃないかという自負があって、一緒に何かやれば良いシナジー効果が生まれるんじゃないかと思って、ちもの提案に乗ったんです。

 

――それがキャンピングカーのDIYであり、YouTubeチャンネルだったと。

 

ちも 実は、もともとゲストハウスをやりたいなと思っていて、その準備に1、2か月ぐらい動いていたんです。ところが調べていくうちに、今ゲストハウスを始めても絶対に儲からないらしいと。でも会社は辞めちゃっているし、何をしようか考えていて、キャンピングカーのDIYにたどり着きました。

 

――ゲストハウスをやっていたらコロナ禍で大変なことになっていたでしょうね。

 

ちも 本当そうなんですよ……ゲストハウスをやっていたら今頃、数千万単位の借金を抱えていたかもしれません(笑)。

 

ガリバーへのプレゼンで救急車をゲット

――先ほど、ちもさんがYouTuberとお仕事をしていたと仰っていましたが、始める上で戦略などはあったのでしょうか。

 

ちも 当時はキャンピングカーをDIYすること自体がブルー・オーシャンな時代で、あまりやっている方がいなかったのに加えて、女性がやっているのも珍しかったので、その掛け算をしたら伸びるだろうという計算はしていました。

 

――どうしてDIYする車を救急車にしたんですか?

 

まりこ もともとハイエースで探していたんですけど、予算の100万円以下で見つけることができずにいて。車両探しは2019年9月ぐらいから始めていたんですけど、結局、2020年の3月まで見つからなかったんです。救急車は、たまたま「ガリバーワオタウン幕張」の店長さんが冗談半分で持ってきてくれて、私たちが乗っかりました。日本で他に聞いたことがないですけど、アメリカでは救急車をDIYしている方がたまにいるみたいです。

 

――「ガリバーワオタウン幕張」さんは、購入後もお二人に駐車場を提供するなど、動画撮影に協力的でしたよね。

 

ちも 私の知り合いの知り合いにガリバーさんで働いている人がいて、その人の紹介でガリバーさんの本社に行ってプレゼンみたいなことをしたんです。

 

――どんなプレゼンですか?

 

ちも 「私たちはYouTuberをやっていて、今後は再生数も伸びていく予定です。ガリバーさんの宣伝をするので、お安く売ってくださいませんか」みたいな感じでプレゼンをしました。駄目元で飛び込んでみたんですけど、すごく親切にしていただいて、救急車を買った後もバックアップしていただきました。

 

――もともと、どこでDIYの作業をしようと考えていたんですか?

 

ちも 倉庫を借りようと考えていたんですけど、どこも高くて。そしたらガリバーさんが協力してくださったんです。その後、コロナもあって場所を都内に移動することになって、今お世話になっている「DreamDrive」さんにお願いしたら快諾してくださいました。「DreamDrive」さんはキャンピングカーを制作している会社なんですけど、YouTubeチャンネルの初期に上げたキャンピングカーを体験する動画でお世話になって、それがきっかけで仲良くさせていただいています。

 

――今お話に上がった2社以外にも、チキチキバンバンの活動をバックアップしてくれる方が多数登場しますが、それを観て感じるのは、お二人のコミュニケーションスキルの高さです。

 

まりこ 私は会社員時代、経営企画部に所属していて、会社内のコミュニケーションを上手く回していく内部調整の多い仕事だったんです。そのときに学んだのが、相手を知るには自分を知ってもらうことが大事だなということでした。自分をさらけ出すと仕事も円滑に進むので、それが自然と出ているのかもしれません。

 

ちも 私は昔から人に関わることが好きで、目の前にいる人を知ることや、楽しませようとすることを、特に意識することなく自然とやっていたんです。YouTubeチャンネルをやっていると人に助けてもらうことも多くて、コミュニケーションの大切さを改めて感じましたし、どうすれば感謝が伝わるかを考えながらやっています。

 

自分たちにしかできないキャンピングカーを

――購入前からDIYのプランは決まっていたんですか?

 

まりこ そこまでピシッと決まっていた訳ではないんですけど、雰囲気のイメージなどは二人で合わせていました。

 

――ハイエースから救急車になって、かなり構想も変わったのではないでしょうか。

 

ちも そうですね。私たちが想定していたハイエースは箱みたいな形ですけど、救急車は曲線が多いので、施工の方法も全然違うんです。なので他の方のDIY動画などを参考にしながら、手順を決めています。

 

――救急車をDIYするという特異性がYouTubeチャンネルの大きな個性になっていますよね。

 

まりこ そうですね。救急車のインパクトが強いので、そこから興味を持ってくださる方は多いなと感じます。

 

――完成までの大まかなスケジュールは決まっているんですか?

 

ちも ざっくりとですが、まずは天井をやって、次に壁、その次は床みたいな順番はあります。今は1か月ごとにスケジュールを決めているんですけど、天井だったら、まずは天井の施工手順を考えて、ざっくりスケジュールを決めた後に、それぞれの施工方法で素材は何を使うかなど細かい部分の話し合いをします。

 

――コメント欄を見ているとDIYに関するアドバイスが多いですよね。

 

まりこ 私たちがDIYに関して素人なので、ツッコミどころが満載なんだと思います(笑)。

 

――大学時代に工具を触ったことはなかったんですか?

 

まりこ なかったですね。建築学科ではあったんですけど、図面を引いたり、模型を作ったりが多くて、実際に施工することはなかったんです。ただ、最近は作業の手際が良くなったとコメント欄で言っていただくことも多くなって、それはうれしいですし、励みになります。

 

――他の方のDIY動画を参考にしていると仰っていましたが、お二人ならではのアイデアも随所に取り入れていますよね。

 

まりこ 既存のものと全く同じように作るのは、私たちの性格的に嫌なので、自分たちの色、自分たちにしかできないことをやりたいという思いはあります。二人でIoT化をしたいねって話しているんですけど、まだ日本のキャンピングカーでは見たことがないので、これから挑戦していきたいです。

 

ちも あとは電動ベッドも設置したくて、その二つは初期から予定に入っています。

 

――制作していく途中で大きな変更などはあるんですか?

 

ちも 作りながら変わっていくのは細かい意匠的な部分ですね。たとえば羽目板をそのまま貼ると他の車と一緒になっちゃうから、二人らしい模様にしてみようとか。今のところ計画通りに作業が進んでいますけど、スケジュールは押しています(笑)。

 

――DIYと動画制作に専念していても、それだけ時間がかかるということですね。

 

ちも おそらく詳しい方が作ったら、もっと早いと思うんですけど、キャンピングカーにするための法律を調べたり、材料を調べたりするのに、すごく時間がとられています。

 

まりこ YouTubeにアップするので、法律的に間違ったことはできないですからね。

 

――完成予定はいつごろなんですか?

 

ちも 当初は春ぐらいを予定していたんですが、今は「半年以内には完成したキャンピングカーでどこかに行きたいね」と話しています(笑)。

 

↑ちもさん

 

10時間の素材を10分に

――動画撮影はどのように行っているのでしょうか?

 

ちも 初期はカメラを回しっぱなしだったんですけど、どんどん作業が膨大になっていったので、どこを撮って、どこをカットすればいいかを見極めるようになりました。それでも10時間ぐらいの素材があって、それを10分から18分程度の長さに編集しています。

 

――それは大変ですね。編集の分担はどうしているんですか。

 

まりこ 交互に編集をしています。週4回程度作業をして2本分の素材を撮って、二人で同時に編集をするのが理想です。ただ作業が予定通りに進まなくて、週替わりで編集を担当することもあります。編集には2、3日かかりますね。

 

――黙々と作業をするのではなく、お二人のやり取りも和やかで微笑ましいのが、他のDIY動画にはない魅力だと思います。

 

まりこ そもそも素人ですし、私たちのやり取りを楽しんでくださる方も多いので、DIY動画ではあるんですけど、HOW TO寄りではなく、エンタメやドキュメンタリー寄りの動画を意識して作っています。

 

――視聴者層はどんな感じなんですか?

 

ちも すごく偏っていて、男性が9割で、女性が1割。男性の中でも45~54歳のボリュームが一番多いです。車好きの方はもちろんですが、整備士さんや運転手さんなど車関係のお仕事をしている方が多い印象です。女性は同世代の方が多いですね。

 

「YouTube NextUp 2020」で得たのは企画力

――「YouTube NextUp 2020」に参加した経緯を教えてください。

 

ちも 2020年の募集要項を見たのが、ちょうど視聴者数も含めて伸び悩んでいた時期だったので、いろんなクリエイターさんから刺激をもらいたいなと思って応募しました。

 

――どんな点が選ばれたポイントだと考えていますか?

 

ちも 一つはチャンネル登録者数がちゃんといたこと。もう一つは二人でブランディングをしっかり守ってやってきたからこその、チャンネルとしてのクオリティの高さを評価していただけたのかなと思います。

 

――参加して得たものは何でしょうか。

 

ちも 技術的な面よりも企画力です。それまでは作業の風景しか上げてこなかったんですけど、他のクリエイターさんの動画を観ると、もっとラフにエンタメ的な企画をやっていたんですよね。それを知って、私たちにも今まで映してこなかったけど企画になりそうな部分もあるんじゃないかと思いました。要は自分たちで勝手に動画のハードルを上げてしまっていたんですよね。

 

――最後の質問です。「YouTube NextUp 2020」は「学び」を大きなテーマとして掲げていますが、お二人は学ぶことの大切さについてどのように考えていらっしゃいますか。

 

まりこ 私は学生時代から勉強が好きでしたし、社会人になってからも積極的に資格を取得していました。新しいことを知って、できなかったことができるようになるのは楽しいですし、「学び」のおかげで自分の引き出しが増えていくことも実感できます。

 

ちも 私は昔から座学が嫌いなんですけど、図工や美術などモノ作りが好きで。学びながら考えて、それが形になったときがうれしいです。だから今の活動は自分に合っていますし、毎日が充実していますね。