雑貨・日用品
2020/3/30 6:00

シャープの液晶工場がマスク工場に? わずか1か月で生産に至った「異例」の経緯を聞く

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、3月25日には「感染爆発の重大局面」として、東京都知事が異例の週末外出自粛要請を行うなど、緊迫した状況が続いています。誰もが不安を募らせるなか、感染を防ぐためのマスクの需要が急増。小売店では入荷しても即売り切れ……という事態が日常化し、連日ニュースで取り上げられています。

 

製造しているのは一般的なマスクで、政府への納入・調整後にECサイトで購入できる

「マスクがほしい」と消費者が悲鳴を上げるなか、いち早くマスクの生産に乗り出したのが、家電メーカーのシャープです。日本政府の要請に応じ、2月28日にはマスクの生産を決定。3月24日より、三重県多気郡多気町の同社工場において生産を開始しました。Twitterでは、同社公式アカウントが「電気を使わない自社製品をツイートしたの、これがはじめてだ」とつぶやいた通り、まさに異例の新規参入です。それにしても、なぜ家電メーカーのシャープがマスク……? いったいどんなマスクを……? ということで、GetNavi webがシャープに疑問をぶつけてみました。頂いた回答から、まずは基本情報について。

「作っているマスクは、3層プリーツ型の家庭用向けの不織布マスク(平面タイプ)です。政府への納入を優先するため一般発売の時期は未定ですが、可能な限りマスクが必要とされるところへ提供できますよう、政府と調整しております。政府との調整後は(株)SHARP COCORO LIFEのECサイトで販売いたします。 販売するのは50枚セットに加え、他のセットも検討中。価格も検討中です」

 

作るのはごく一般的なマスクで、政府への納入・もろもろ調整後にECサイトで購入できるということですね。では、続いて生産の経緯について。そもそも、家電メーカーのシャープに対して、なぜ日本政府がマスク生産の要請を行ったのでしょうか?

 

「弊社が回答する立場にありませんが、弊社のみならず、業種業態を問わず数多くの企業へ要請されたものと認識しています。日本政府の新型コロナウイルス対策に懸ける強い想いと、当社がクリーンルームを保有している点がマッチし、話が進展しました。弊社は、企業としての社会貢献と捉えており、早期に新型コロナウィルスが沈静化することを願っています」

↑マスクを製造している三重(多気)工場

 

液晶ディスプレイ工場のクリーンルームに製造機を設置

マスクを製造している三重(多気)工場は、液晶ディスプレイを製造している工場とのこと。もともとの事業とマスク製造に共通点はなさそうですが、ここで製造を始めた理由は何でしょうか?

 

「製造を始めたのは、現在は使用していないクリーンルーム(※)があったからです。クリーンルームの空きスペースにマスク生産用の製造装置を新たに導入しました。なお、製造装置は空きスペースに導入したため、既存製品の生産に影響を与えるものではありません」

※一定の清浄度レベルになるよう管理され、気密を保った部屋のこと

↑クリーンルームの空きスペースに製造装置を導入

 

↑耳ひもの取り付け前

 

親会社・鴻海のサポートを受けながらイチから製造

製造にあたってもっとも難しかったことは? と聞いてみたところ、「何もかもが初めての経験で、特定できない」とのこと。

 

「マスク生産は弊社として初めての取り組みであることから、生産から販売方法にいたるまでひとつひとつ調査・検討を行い、準備を進めて参りました。また、既に中国で生産実績がある鴻海(ホンハイ・シャープの親会社)からサポートを得ながら立ち上げを行いました。マスクの生産においては、『企業としての社会貢献』との認識のもと、日本国内におけるマスクの安定的な供給に少しでも貢献できるよう、高いモチベーションを持って取り組んでいます」

マスクは現在、交代制勤務によって24時間体制で生産中。当初は約15万枚/日の生産を行い、今後は50万枚/日への増産を目指すとのことです。

 

現在、さまざまな企業がコロナウイルス問題で社会貢献の姿勢を見せていますが、もともと手掛けていた事業で、間接的に支援するケースがほとんどです。しかし、一般レベルでは「とにかくマスクを!」というのが実際のところ。それだけに、今回のように異業種からイチから参入するケースは極めて貴重、かつありがたいことですね。生産決定から1か月足らずで生産開始にこぎつけた裏には、多くのスタッフの献身があったはず。その点でも頭が下がる思いです。この取り組みが功を奏し、一日も早く事態が収束する日が来ることを、心から願ってやみません。