デジタル
2016/3/28 8:00

【西田宗千佳連載】“4K放送録画禁止”騒動の虚実

「週刊GetNavi」Vol.41-1

昨年末あたりから4K放送について、若干キナ臭い臭いが漂っている。問題視されているのは、録画の技術仕様だ。昨年12月25日、次世代放送推進フォーラム(NexTV-F。4月1日より放送サービス高度化推進協会A-PABになる)が公開した「高度広帯域衛星デジタル放送規定」で、「無料放送で録画を禁止するフラグ」の準備が進められていることがわかったからだ。

 

デジタル放送の録画では、放送に付加される「フラグ」に従い、機器側が録画の状況を決める仕様になっている。これはいまも同じで、番組それぞれに「自由に録画可能」「コピーワンス」「ダビング10」といった属性が指定される。今回問題となった放送規定では、4K放送では新たに、無料放送向けに「録画を一切禁止する」フラグを用意するという議論が行われているわけだ。

 

権利者やテレビ局は、録画によって「取りはぐれ」が生まれる収益の確保をしたい。それが録画禁止導入議論の起点だ。それは理解できないわけではないが、録画が不可能になると、CMも含めた「現状の風俗」を後世に残す方法が失われることにもなるため、副作用が大きすぎる。このことが報道されて以降、特にネットでは「4Kは録画できなくなる」との反発が渦巻いている。

 

一方で、「フラグの導入が検討されている=全番組が録画不可能となる」とするのは正しくない。現状では「導入が検討されている」状況で、まだ確定ではない。また、フラグが導入されても使われるとは限らない。テレビ局関係者からは、「現実問題として、無料放送で録画不可フラグを運用するのは不可能ではないか」との声も聞こえる。

 

もうひとつ重要なのは、議論されているのが「衛星放送」であるという点だ。忘れられがちなのだが、現状、4K以上での放送については、無料が基本の地上波では検討されていない。地上波のシステムをすべて4Kに置き換える場合、そのコストと効果が見合わないためだ。4K以上はあくまで「プレミアム」であり、付加価値を求める人向け。無料放送ももちろんあるが、有料放送の方に力点が置かれている。録画禁止フラグについては、すでに現在も有料放送向けで使われており、ペイ・パー・ビュー方式の映画やスポーツなどが対象である。4Kもその延長。そういう運用ならば致し方ない。

 

ただ、今回問題視されているのは、無料放送にもフラグが導入される可能性があり、なし崩し的に「録画できない番組が増える」可能性があることだ。現在の切り分けである「無料放送は録画可能、有料放送は一部で録画不可」という線が壊れるのは避けたい。そうなると、個人が困るだけでなく、録画機を販売したいメーカーの側も、レコーダーの商機を奪われることになってしまう。

 

今回、ここまで議論が盛り上がった背景には、筆者を含め「録画禁止の拡大」を憂慮する関係者が多くいることに加え、家電メーカー側が反対に周り、情報戦を繰り広げているという事情もある。放送業界内部でも導入に反対の声は小さくない。

 

4Kで録画禁止フラグを導入するか否かは、記事を書いている16年3月現在、確定していない。まだ安心できる状況にはないが、少なくともまだ議論は続けられている。

 

ただ筆者としては、4K放送にはそれ以外にも懸念点が多い、と考えている。消費者を戸惑わせる4K放送の問題点とはなにか? その辺はウェブ版で解説していきたい。

 

「Vol.41-2」は4/4(月)更新予定です。

 

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