早稲田ならではの味。早稲田ならではのストーリー。
ご飯類で人気が高いのはチャーハンだ。この一品に関して同店ならではといえるのが、卵の使い方。普通は、卵を炒めて白米を加えるレシピであろう。ところが同店の場合は混ぜ合わせず、錦糸卵をきぬさや、かまぼこと一緒に後のせする手法を採用しているのだ。
こうすることで華やかなビジュアルになるのだが、その効果は決して見た目の印象だけではない。あえて卵のマイルドな味わいをご飯と相いれなくすることで、チャーハン全体がエッジの立った味わいになっている。そして、このおいしさを洋風に表現したものが「ポークライス」(490円)や「オムライス」(590円)だ。
これらのご飯類には鶏ではなく豚を使うことが特徴。とはいえ「チャーハン」の具材はチャーシューとねぎ、「ポークライス」と「オムライス」はこま切れ肉とたまねぎという違いがある。ケチャップとたまねぎで洋風テイストにしつつ、豚肉のストレートなうまみでパワフルな味にしたいという狙いがあるそうだ。わんぱくな学生が訪れる土地柄を考えれば、その思いには納得できる。
そんな「メルシー」は60周年。1958年に早稲田大学の南門付近で創業し、1970年に現在の駅寄りの場所に移転したとか。店主は現在2代目で、小林一浩さんが腕を振るっている。昔は丼ものや定食、コーヒーなどラーメン以外のメニューがいまより多く、より街中華や甘味中華(甘味喫茶のスタイルでラーメンなどを提供する業態のことを、勝手にそう呼ばせていただきたい)の色が強かったそうだ。その面影は看板に「軽食&ラーメン メルシー」として残されている。
社会が変わればメニューも変わるということだが、同店の代表的なメニューは味すらも60年間不変だ。ただ早稲田の街全体を見れば、跡継ぎがいなかったために閉店を余儀なくされた老舗も存在。そのひとつに“しょうゆのメルシー、塩のほづみ”として人気を二分した街中華「ほづみ」があるのだが、実はそこのおかみさん・鈴木恵美子さんが現在「メルシー」で働いている。
つまりは、店主や通学生のほか、卒業生や地域住民によっても支えられている“チーム早稲田”な店が「メルシー」なのだ。店名はフランス語で「ありがとう」の意味だが、薄利でおいしい料理を提供し続ける良心的な心意気に、むしろこちらから感謝を申し上げたい。「merci」と。
撮影/我妻慶一
【SHOP DATA】
メルシー
住所:東京都新宿区馬場下町63
アクセス:東京メトロ東西線「早稲田」駅3a出口徒歩1分
営業時間:11:00~19:00
定休日:日曜、祝日