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2023/6/22 20:00

映画監督・足立紳JKの娘の「恋バナ」に耳を傾け、息子の告白に涙する5月

「足立 紳 後ろ向きで進む」第38回

 

結婚21年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHKの連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

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5月1日(月)

GW中ということもあるのだろうが、息子の行き渋りがなかなかに激しい。とにかく、またすぐに休みになるからと説得して学校まで送って行く。学校近くで同じように遅刻をしている同級生を発見した息子は、彼の名前を呼びながら走って行ったが、その子から全く反応はなかった。やがて息子は声をかけるのをやめて、その子のうしろを2メートルほどの距離をあけてトボトボと歩いて校門の中に消えて行った。

 

見たい光景ではなかった。気分は沈んだが、上げる術を知らないのでそのままいつのも喫茶店に行って仕事。昼過ぎ、家に戻り朝の光景を妻に話す。解決のしようがないから、ただただ胸に残る痛みを二人分にして薄めた。

 

息子が帰って来るのを迎えて、朝のことを聞こうかどうか迷ったが、聞いた。すると、息子のほうはさして落ち込んでいる様子はなく、最近、彼のやっているオンラインゲームの「フォートナイト」にずっと入ってない僕にムカついてるんじゃない? と言う。

 

落ち込んでいる様子が見られないのは、親にカッコ悪い姿を指摘されたくなかったからなのかもしれないが、真意は分からない。ただ、こういうときは夜に荒れることもある。そんなときに家を空けるのがちょっとばかり憚られるが、夜は横浜シネマリンにて上映中の映画『タスカー』の鎌田義孝監督、大﨑章監督とのトークイベントがあったので行く。

 

イベント後、来てくださっていた何人かの知り合いも含めて近くで飲む。こうやって私は気分転換できるからいいが、家の様子は気になる。ただ、もし息子が荒れたとしてもこの時間から帰っても確実に寝ているので、結局私は終電ギリギリまで飲んでしまった。

 

5月2日(火)

昨日、息子は特に荒れる様子はなかったとのことでホッとした。今日行けば、明日から休みということで踏ん張って学校へ行った。

 

いつもの喫茶店で仕事ののち、夕方近くから我が家で打ち合わせ。まだ海のものとも山のものとも分からない企画に関して、二人の若手ライターのY君、Kさんにプロットを書いていただく。うまく進むといいなと思う。

 

5月3日(水)

午前中、いつもの喫茶店で仕事。午後、妻の知り合いのはちみつ・亜紀子さんの家でBBQ。

 

私ははちみつさんとお会いするのははじめてなのだが、妻が何度かはちみつさんの作ったケーキやら料理やらをお土産に持って帰って来たことがあり、それがあまりにも美味しかったので、今日のBBQには絶対にくっついて行こうと思っていたのだ。

 

妻がはちみつさんに出会ったのは、映画『嘘八百』シリーズをご一緒している今井雅子さんを介してであり、私は人見知りなのだが、今井さんも、今井さんの夫の杉田さんもいらっしゃるとのことだったので、私も息子とくっついて行ったのだが、大正解であった。

 

焼き肉のタレ2種類からドレッシングからすべて手作りでどれも大変美味しく、私は高校生のように貪り食った。そしてドカーンと作られていた2種類の大きなケーキも大量に食してしまった。

 

そしてなんと言っても、そこにいらしていた女性陣の方々が皆さん大変に魅力的で楽しい方ばかりで、人見知りな私もついつい調子に乗ってペラペラ話してしまい、「なんかママ友みたいだよね?」と言われてとてもうれしかったのだが、妻はそんな私にイラついていたらしい。

 

※妻より

いらついてはいないです。ただ、私のことをケチだとか、家のご飯は全て僕が作ってます! とか間違ったアピールばかりする姿が鼻についただけです。

写真は麻布十番の日進ハムのソーセージ(偶然にも足立が昔バイトしてました)と、亜紀子さんが作ってくれたノルウェーの「世界一のケーキ」だそうです。他、何もかも美味しかったです!

 

5月4日(木)

妻と息子は公園で保育園時代の友達やママ友たちとピクニック。私は一日中仕事をした。息子は途中から友達と遊ばず、ずっと母たちのところでマンガを読んでいたとのこと。きっと脳調が悪かったのだろう。

 

5月5日(金)

娘と息子と『ザ・スーパー・マリオブラザーズ・ムービー』(監督:アーロン・ホーバス、 マイケル・イェレニック)を観に行った。まったく期待していなかったけれど、面白かった。妻は私の妹と井の頭公園でピクニック。子育て相談、私の実家の親のことなどを話していたらしい。

 

5月6日(土)

午前中仕事。午後から大阪に行く。夜、マテリアルカフェというところで『喜劇 愛妻物語』の上映があるのでそれに妻と参加するためだ。

 

夕方くらいに到着して鶴橋で焼き肉を食べた。美味しかったが、以前も来たことのある店に入ってしまい、なぜ違う店にしなかったのかと思った。

 

その後、マテリアルカフェに行き、『喜劇 愛妻物語』の上映後、にトークイベントと懇親会。満席になりうれしい。いつも声の出演でお世話になっている藤本幸利さんが奥様と一緒に来てくださったり、『喜劇 愛妻物語』にも出演している俳優の石垣登さんも来てくださったりして、旧交をあたためた。

 

 

5月7日(日)

7時起床。8時ホテル出発。新大阪駅で駅弁と551を購入し、新幹線乗車。18時間しか滞在しない大阪だった。

 

昼、自宅到着。そのまま夕方まで仕事をしてから近所のステーキ屋さんに久し振りに家族4人で夕食を食べに行く。娘400グラム、息子350グラムのステーキ、飯大盛り(お代わりも)を食らう。うちの子どもらは身体はでかくないが本当によく食う。子どもの誕生祝いはだいたいこの店に行く。牛のたたきもうまい。

 

5月9日(火)

午前中仕事。16時から娘の塾の面談。週一なんだし続ければいいじゃねえかと思うが、辞める意思固し。致し方ない。しかし、この勉強嫌いは本当に私に似た。

 

5月10日(水)

朝から仕事。夕方息子を療育に連れて行く。帰りに二人でケバブサンドを買い食いしてしまい、夕飯が食べられなかった。

 

夜、娘の恋バナをひたすらに聞く。恋バナと言ってもまだ付き合っているわけではなく、自分の好きな相手とLINEだけで会話をしており、いちいち気の利いたかわいい返信をしたいというので、私や妻にその返信内容を考えろと言うのだ。そして、気の利いた返答を考えて伝えても「……それ、かわいくない。『○○だもん』の語尾が可愛いんだって」というようなダメ出しが3回ほど続くのでイライラすることもある。

 

それにしても、好きな人の話をこれほどまでに親にするってどういうことなのか? 私は好きな人ができても親にはまったく話さなかったから娘の感覚はよく分からない。「いいじゃん、そんな話をしてくれるなんて」と言う人も周囲にいるが、ずっと同じ話を聞いているのもかなり疲れる。「親父だから娘の好きな人の話が面白くないんでしょ?」と言う人もいるが、妻も疲れると言っている。

 

まあでも、娘はその恋がとても楽しそうなのでそれが一番良い。もしも付き合うことになれば、その男の子が私のような嫌なやつでなければいいなと思う。私より嫌なやつであれば、そこに加わるのは暴力なので本当に最悪だ。私は私を基準にして男という生き物を考えてしまうから、どうしてもロクでもないやつしか浮かばないのである。

 

5月11日(木)

朝からオンライン打合せ。夜、息子が格闘技教室で好きだった二つ年上の子がウチに来てくれた(3月30日の日記参照)。

 

息子は大喜び。彼は中学に行って早くもケンカをし、彼女もできたらしい。彼女の写真を見せてくれた。息子が「いいなあ。俺も彼女ほしいなあ」と言うと、「お前もちゃんと生きれば彼女できるよ」とその子は応えたが、息子は「それは無理だな」と言った。

 

妻はその子に「あんた、彼女できて良かったねえ!」と抱きついて喜んでいたが、正直ちょっとキモかった。なんで中学生に抱きついてんだ。まあ、とにかく彼と会って、息子がうれしそうだったのが何よりだ。

 

※妻より

彼女ができて喜んで抱きついたのではありません。彼とLINEのやり取りもしていたし、その日色々話していて、あまりに急激に大人びたから感動しただけです。そして、息子にとても優しい言葉をかけてくれた感激もありました。まぁ、少し酔ってはいましたが。

 

5月12日(金)

朝からいつもの喫茶店でひたすら書き続ける。

 

夕方、映画学校時代の友人Ⅿが長野から来る。彼は今、行政書士をしているのだが、教員免許資格取得のスクリーニング受講のため上京して、我が家に宿泊。オンラインで年に一度は飲んでいたが、対面で会うのは6、7年振りだ。

 

彼は今、家族に関していくつかの大きな問題を抱えながら生きているのだが、50歳にもなればたいていの人が大小様々な問題を抱えながら日常生活を送っているだろう。そのことにどのくらい耐えられるのか、耐えられないのかは、生まれ持った脳の資質のような気がするのだが、まあとにかくその問題を抱えながら解決することもなく、それに脳と身体が慣れながら、人はいつの間にか死んでいくのかもしれない。

 

出版社トゥーバジンズさんのnoteで連載が始まりました。なんとテーマは脚本です。生業にしておきながら、私にとってはハードルの高いテーマです。良かったら是非読んでください。

 

とある脚本家の言い訳と御託

 

5月13日(土)

夜、昨日から泊まっている友人Ⅿとともに30年振りに会う友人Sさんが営んでいるお店に行く。

 

Mとは映画学校の同級生だが、そのころ、我々は池袋にある舞台芸術学院という俳優学校にも週に3回、夜間に通っていた。Sさんはそこの同級生だ。舞台芸術学院の夜間部は様々な年代の人が通っていて、Sさんは当時23歳くらいで大学を出て働き始めたばかりだった。私は日本映画学校の1年生だったから社会人であるSさんのことがずいぶん大人に見えた。(ちなみにSさんのお爺さんは日本を代表する映画監督だ)。

 

舞台芸術学院を卒業後、私やⅯはSさんとともに劇団を作ってしばし活動していた時期もあり、私の初舞台はSさんが作・演出の芝居で、漫才師の役だった。

 

そのSさんが今はイタリアン居酒屋を営んでいて、行こう行こうと思っているうちに年月はどんどん過ぎて、結局30年振りの再会となったわけだ。もう一人、舞台芸術学院の同級生で、当時はまだ高校生だった女性のTさんも店に来ていて昔話に大いに花が咲きとても楽しいひと時だった。

 

Tさんは当時は高校生というだけでずいぶん幼く見えたが、二つ年下でしかない。Sさんも三つ年上なだけだし、この年になると実はほぼ同年代と言ってもいいのに、なぜかあのころの感覚になってしまう。先輩後輩のような関係のある日本特有のものだろうが、それもまた悪くないよなあと思うのだ。それを嫌いだという人も大勢いらっしゃるし、場合によっては私も嫌いにはなるのだが。

 

5月14日(日)

朝から仕事。午後、家族4人で『名探偵コナン 黒鉄の魚影』(監督:立川譲)を観に行く。私は人生初コナンで、実はコナンが本当は高校生であることすら知らなかったのだが、それでも面白く観られた。

 

原作者の青山剛昌先生は、私の高校の先輩であり、当然面識はないのだが、先輩であることを多分100回以上は口に出している。

 

5月16日(火)

朝から仕事。15時から息子の小学校の面談に妻と共に行く。

 

トイレ閉じ込められ事件、教室のドアが外れて大勢に責められた事件、係に一人だけ入っていない事件、授業中にマンガを読んでいる事件、算数と外国語の授業はほぼ廊下で過ごしている事件など、息子が家では口に出していない様々な出来事を先生から聞き、軽く頭痛。

 

特に係に一人だけ入っていない事件は、クラス全員がまずは入りたい係のところに名前を書くらしく、息子はお笑い係に名前を書いたら、それまで名前を書いていた数人の子たちが他の係に移動してしまったらしい。みんな悩みながらいろんなところに名前を書いたり、移動したりするから、それがわざとかどうかは分からないが、とにかくそのことに傷ついた息子は、「俺はどの係にも入らない」と宣言し、現在無所属とのこと。

 

こういう無所属って小学生のころは悪目立ちするんだよなあ……と思いつつ、うまく集団生活をできていない息子の様子がどんどんくっきりしてきて聞いていて胸が苦しくなる。だが、基本的にはそれでも明るさはあり、学校への完全なる拒否反応は見られないので(勉強はかなり嫌なのだが)、様子を見ながら連携を密にしましょうということを先生と話す。

 

5月17日(水)

朝から仕事。夕方からオンライン打合せ。

 

オロポ(オロナミンCをポカリスエットで割ったもの)をどうしても飲みたくなって、私が近所のスギ薬局に買い物に行こうとすると、息子がついて来ると言う。こういうことは滅多にないのだが、なんだろうと思ったら、帰りに近くの児童公園でキャッチボールがしたいという。息子は野球チームに入っていたこともあるが、練習時間の長さが肌に合わずやめた。だが、たまにこうしてキャッチボールをしたがることがある。薄暗い電燈の下でキャッチボールして、そろそろ帰ろうかというとき、急に息子が学校生活のことを吐露しはじめた。

 

昨日、面談のあとには先生からいろいろと聞いたことは息子にはあえて言わなかったのだが、あまりにタイミングが絶妙で驚く。息子が言うには、今、とにかく学校がイヤであると。3年生のころの不登校時よりもイヤであると。なにがイヤかというと「ボッチ」がものすごくイヤなのだと。

 

学校に行ってから帰るまで、一日中ほぼ誰とも話さない、昼休みは友達が楽しそうに遊んでいるのを見るのが辛いから、給食を食べたらダッシュで図書室に行くのだという。

 

「誰も話し相手がいない僕の気持ちがわかる!? すごい辛いんだよ! 給食終わったら、走って図書室に行くんだよ! なんでかわかる!? みんなが楽しそうに遊んでるのを見るのが辛いんだよ! すごいでしょ! とにかく僕は今、『運命の巻戻士』しか友達がいないんだよ!」

 

と、なにか大発見でもしたかのように熱弁を奮う息子の様子は、持って生まれた明るさを備えつつ話すものだから、こんなときですら可愛く見えるのと、いつの間にこんなにも自分の思いをくっきりと説明できるようになったのだという成長を感じるのと、空気が読めず余計なことを言って場をしらけさせたり、自分のしたいことだけしかしないから友達とうまくやれないのに友達を欲してしまう切なさで、聞いていて私は涙が滲んできてしまった。

 

すると息子は「パパ、まさか泣いてるの?」と言った。「そりゃ泣くよ」と私は答えた。「なんで? 僕が可愛そうだから?」「そうだよ」「パパ、良い人だね」などという会話をした。

 

息子は今、とてもマンガが好きで『運命の巻戻士』(木村風太・著)、日野日出志や楳図かずおの作品をはじめ、いろんなマンガを読んでいるから、そういうやり方は良くないのだろうが、学校に1週間行けたらご褒美として漫画を1冊買ってあげる。それでも、どうしても学校が嫌なら別の居場所を考えようなどと言ったら、息子は「じゃあ『運命の巻戻士』の3巻を買ってよ!絶対だよ」と言った。

 

家に戻り、家の前で私は息子に「パパが泣いたってママに言いなよ」とこんなときでも、そんなことを言うと、かわいい息子は「分かってるよ! パパ、良いところをアピールしたんでしょ!」とうれしそうに言った。だが妻は特に反応しなかった。

 

5月18日(木)

昨晩、あんなに素直だった息子だが今朝は朝から通常通りに不機嫌。

 

休んでもいいぞと言ったが、マンガを買ってもらえることがエサになっており、「行くよ」と出て行った。妻はこういうやり方を良しとしないから、複雑そうに見ていた。なにかエサがなければ動かない子になってしまうのでは? という思いが妻にはあるからだが、それは私もそう思う。

 

だが、なにかモチベーションがあれば行けるのなら学校に行ったほうがいいと思うし、マンガが好きだからと言って、ただ闇蜘蛛に買い与えているよりは、なにかハードルを一つ越えたら買ってあげたほうがいいような気もして……。分からないけれど、正解はないというのがその道のプロの方たちの本にも書いてあるし、その子にあったやり方があるはずとのことらしい。どのやり方が息子に合っているのかも分からないが。

 

その後、今日は休養日にしようと妻と『TAR』(監督:トッド・フィールド)を観に行く。いろいろと分からないことがたくさんあり、映画を観終わったら妻に聞こうと考えていたのだが、観終わるとスマホに実家から、車がとうとう廃車になったので新しいのを買おうと思うと連絡が来ていた。

 

父親ももう80歳だ。これだけ老人の事故が増えているときに、新しく車を買うなんておいおいとも思うが、両親の住んでいる鳥取の片田舎では「車がなくなる=ほぼ死」のような状況に陥るから買ったほうがいいとは思いながらも、とにかく事故だけには気をつけてほしいと何度も念を押してしまう。

 

妻と羊の焼き肉屋に入り、『TAR』の話をしようと思っていたが、実家の車買う(私がいくらか出資する)話から、息子の話などに展開してしまい、結局映画の話はほとんどできなかった。

 

そんな色々悩み多き中でも、夫の食欲は目を見張るものがありました。羊の丸焼き、ほぼ一人で食しました。私は焼酎がぶ飲みするにとどめました。(by妻)
いや、けっこう食ってましたけどね……(by夫)

 

5月20日(土)

朝から仕事。午後、練馬駅前でやっていた難民フェスにいく。ウチの2階にいるSさんのような難民申請中の仮放免の方々が、バッグや料理を作って売るので支援するお祭り。入管法が変わろうとしている今、皆さんの怒りのようなものがダイレクトに伝わってくる場面もあった。

 

物販を購入すれば代金は寄付されるとのことで、それくらいしかする術のない私はTシャツを購入した。

 

5月21日(日)

朝から仕事。昼から息子をわんぱく相撲に連れて行く。家で相撲の練習をしているときは私に思い切りぶつかってこれるのだが、いざ試合となると、自分からはいけない。相手がぶつかってくるまで待つし、相手が攻めてきたら自分もようやく力を入れる。常に受け身なのだが、それは息子の優しさなのだろうと思うことにする。1回戦で負けたから、さぞ悔しがっているかと思ったが、同じく1回戦で負けた別の学校の子と仲良くなっていた。人懐っこいのも息子の良いところだ。それが過ぎるから特性ではあるのだが。

 

 

5月23日(火)

朝から雨。登校前の息子の脳調はあまりよくない。学校行く前にテンションをあげるため、大好きな『インディ・ジョーンズ』を観ていると、ちょくちょく呼びに来てくれる友達が来てくれた。が、息子は『インディ・ジョーンズ』を観たくて動かない(そもそも脳調も悪いが)。妻も忙しくて、朝から2階で仕事をしていたから、1階には私しかいなかったのだが、せっかく友達が来ているのに、そして友達がほしいと毎日言っているのにグズグズしている息子に私も少々イライラしてしまい、「せっかく来てくれてんだから早く行け!」と怒ると、しぶしぶ息子はダラ~~~っと動き出す。そんな息子のノロノロ動作に待っていた友達もイライラ。

 

その友達とは何度もケンカしては仲直りを繰り返しているからいつものことなのだが、友達も今朝は機嫌が悪かったのか、息子に対してやや当たりがきつい。彼の気持ちも分かるよなあと思いながら、二人を家の近所まで送って、妻に「今日は息子もグズグズになって友達もイライラして良くない雰囲気で学校行ったよ。俺があなたに怒られるような感じで息子も言われてた」「え、なんて言われたの?」「お前○○だとか」と報告すると、妻は「それであんたどうしたの?」と聞いてくる。「いや、別にそこまで送って、仲良く行けよって言った」と言うと妻は「お前、バカかよ。そういう発言を目の前で言われて流すなよ。ことなかれ主義野郎が! 息子もダメだけど、そんなことを言った友達のことも叱りなさいよね!友達も息子もそれはダメでしょう!」と言うと、雨の中、ひどいジャージ姿、ひどい髪型で飛び出して行った。

 

そして息を切らせて戻って来た妻は、息子の友人に「私も息子もあんたのことが大好きなんだから、そんなヤなことは言わないでよ! 私、悲しいよ!」と叱りつつ伝えたとのこと。そして彼のお母さんにもLINEしてことの次第を説明すると、母親同士はただちに連携して素早く問題の対処にあたっていた。

 

素晴らしいなと思う。父親はこういう動きが鈍い。いや、父親と言うと性別の問題のようにしているからよくない。私個人がこういった動きがとてつもなく鈍いのだ。見習うようにすると殊勝に妻に言うと、「お前にはできっこねえよ。こっちは子どものケアだけじゃなく、子どもの周りにも常に気を配ってんだよ!」と言われてしまった。「そのタウリ。タウリン飲みます」と自分の不甲斐なさを隠すようなギャグを言ってみたが、当然無視された。

 

5月25日(木)

朝から仕事。夕方から地元鳥取県倉吉市出身の方々と飲む。一人だけ米子出身の方もいる。鳥取県は人口が日本一少ないからなかなか同郷の方と出会うことはないのだが、倉吉市となるとまたさらに少ない。しかも4人中3人が同じ高校。私は違う高校だったのだが、とにかく市内話で盛り上がれるのは楽しい。

 

5月26日(金)

2階にいる難民申請をして仮放免中のSさんから、揃えたい書類があるとのことで相談を受ける。区役所に問い合わせたところ、要領を得ず困ってらっしゃるのだが、Sさんのような状態だと本来は簡単に手にすることのできる書類でもなかなか揃えることができない。かと言って簡単に大使館に行くわけにもいかない。妻と私で役所に電話して揃えられるところまでいったが、先方も面倒なこと頼むんじゃねえよという匂いがプンプンだ。

 

Sさんは入管法が変わることにも当然大きな不安をかかえてらっしゃるが、それに関しては私にできることは何もない。デモに行くくらいで指をくわえて見ているしかできないのがもどかしい。

 

夜、先々週泊まった長野の友人Mが、今週末も土日スクリーニング受講とのことで泊まりに来る。野沢菜のごま油炒めをお土産に買って来てくれたので、夕飯で食った。美味い。

 

5月27日(土)

朝から仕事。夜、長野の友人Mとまたも舞台芸術学院時代の友人Sさんのお店に行く。先日もいた同じ舞芸仲間の当時高校生だったTさんが、舞芸時代の写真をたくさん持ってきてくれてまたも大いに盛り上がる。みんな若い。細い。そして髪がある。

 

5月31日(水)

若手シナリオライターのY君、Kさんと我が家で打ち合わせ。この企画は実現してほしいが、どうなるのかさっぱり分からない。しかし、実現すればきちんと地に足のついた生活を送っている人間の、彼らにとっての普通の生活を描けるドラマになるのではないかと思う。

 

人は生きていればいろんな問題を同時に抱えて生きていかざるを得ないだろう。『メア・オブ・イーストタウン』(監督:クレイグ・ゾベル)がとても面白いのは、主人公はもちろんのこと、登場人物たちがメインストーリーの中だけでは生きておらず、当たり前のように(当たり前なのだが)いろんなことを抱えながら生きている様が描かれているからだ。ミステリーという引っ張りはありつつも、出てくる人間たちを見ているだけで面白くてたまらないのだと思う。『ブレイキング・バッド』(製作総指揮・企画:ヴィンス・ギリガン)だってそうだ。そういうドラマを作りたい。

 

 

【妻の1枚】

 

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【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。現在、最新作『雑魚どもよ、大志を抱け!』は2023年3月24日に公開。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『したいとか、したくないとかの話じゃない』(双葉社・刊)。