睡眠にまつわる研究は、人の脳波の存在が発見された1920年代に始まった。そこから約100年、少しずつその謎が解明されてきている。特にここ数十年は、ショートスリーパーの遺伝子変異や眠気のメカニズムが発見されるなど、研究は大きく発展。その最新情報を睡眠学の世界的権威・柳沢正史教授に聞いた。
睡眠学者・柳沢正史教授
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)機構長・教授。医学博士。1998 年に睡眠覚醒を制御するオレキシンを発見。2012年にWPI-IIISを設立。紫綬褒章や文化功労者顕彰、生命科学ブレイクスルー賞など、国内外で数々の賞を受賞。著書に「睡眠の超基本」(朝日新聞出版)などがある。
【睡眠の新常識1】「睡眠サイクル=90分単位」とは限らない
「私たちは『ノンレム睡眠』と『レム睡眠』という2種類の睡眠段階を平均90分間隔で繰り返すと言われていますが、実際は個人差があり一晩のなかでも下のグラフのように大きく揺らぎます。また、サイクルが終わったときに起床すると目覚めが良いとも限らないので、90分の倍数の睡眠時間にこだわる必要はありません。それよりも7時間以上を目安に十分に眠りましょう」

【睡眠の新常識2】朝型・夜型は遺伝子や年齢で変わる
「朝型・夜型の傾向は『クロノタイプ』と呼ばれ、遺伝子によって決まるほか、年齢によっても大きく変化します。夜型の人は夜なかなか眠くならないため、早起きをすると睡眠不足に陥りやすく、無理に続けるとうつ病やメタボリックシンドロームのリスクが高まります。健康面でも支障が出るので、この認識がもっと広まってほしいですね。ちなみにクロノタイプに合った時間帯に仕事や勉強をすると、生産性が上がりますよ」
【簡単に自分のクロノタイプがわかる!朝型夜型質問紙(MEQ)】(※外部ページに遷移します)
【睡眠の新常識3】午後10時〜午前2時が「睡眠のゴールデンタイム」は都市伝説
「『身体の回復を促進する成長ホルモンが分泌されるのは午後10時〜午前2時』という情報が広がっていますが正確ではありません。成長ホルモンは、眠り始めの約3時間のあいだに多く現れるN3(最も深いノンレム睡眠)のときに活発に分泌されるので、遅くに就寝した人でも同じように分泌されます。また睡眠は、ノンレム睡眠だけでなくレム睡眠も重要なので、眠る時刻よりも必要な睡眠時間をしっかりとることが大切です」

【睡眠の新常識4】「レム睡眠は浅い眠りで、ノンレム睡眠のほうが重要」は間違い
「ノンレム睡眠、なかでも最も深いN3は疲労回復や細胞の修復、ストレス解消、免疫力の強化などの役割を担うので、ノンレム睡眠が重要なのは事実。ですがレム睡眠も、5%減少するごとに死亡率が13%上昇する、1%減少すると認知症リスクが9%上がるという研究結果があり、疎かにするのは危険。またよく勘違いされるのですが、『レム睡眠=浅い睡眠』ではありません」
【睡眠の新常識5】徹夜明けの脳は酔っ払った状態と同じ
「徹夜明けの脳は血中アルコール濃度0.1%の状態と同等で、酒気帯び運転の基準(0.03%以上)を大幅に超えた状態。睡眠不足は、論理的な思考を司る脳の前頭葉に影響を与えます。また、眠らないと記憶は定着しないので、一夜漬けも中長期的には非効率。ちなみに4時間睡眠が6日間ほど続くと、完全に徹夜したときと同じくらいに効率が下がるので慢性的な睡眠不足も要注意です」
【睡眠の新常識6】就寝前のスマホは絶対悪ではない。「何を」「どのくらい」見るかが重要
「スマホは、夕刻以降は自動的に画面が暗く暖色になり光量が抑えられるので、むしろリビングなどの明る過ぎる照明のほうが睡眠に与える影響は大きいと考えられます。問題は、光よりも見るコンテンツによって起こる脳の覚醒や、長時間の使用による睡眠時間の減少です。ゲーム、SNS、ショート動画のように操作をし続けるコンテンツはNGですが、例えば時間を決めて癒される動画を見るなど、リラックスにつながる使い方をするのであれば入眠の助けになる場合もあります」

【睡眠の新常識7】昼間の眠気は世界基準で見ると体調不良
「日本人の働く世代は睡眠不足が一般的になっているため、通勤途中の電車や仕事中にうとうとしている人を見かけるのは珍しくありません。しかし海外では昼間にうとうとしていると体調が悪いとみなされ心配されます。そもそも人間は基本的に、昼間は起き続けていられる生き物。つまり睡眠を十分に取っていても昼間に眠い場合は、身体に何らかの問題があると考えられます。例えば感染症にかかったり内臓に疾患がある場合、身体が回復しようとして昼でも眠くなることがあるんです」
【睡眠の新常識8】自称ショートスリーパーのほとんどは睡眠不足
「ショートスリーパーとは5時間以下の睡眠で健康な状態を維持できる人のこと。これは遺伝的なもので、研究によると10万人に約4人程度しか存在しません。また、訓練次第でショートスリーパーになれるという情報はウソで、必要な睡眠量は遺伝子と生まれもった体質で決まるため、訓練で変えることは不可能。自称ショートスリーパーのほとんどは睡眠不足の自覚症状が出にくいだけで、実際は十分な睡眠が取れておらず、本来のパフォーマンスが発揮できていない可能性が高いです」
【睡眠の新常識9】寝不足だとワクチンの効果が下がる
「睡眠不足により免疫機能が低下します。実際に、フランスの研究で、睡眠不足(睡眠時間6時間未満)になると免疫力が低下し、ウイルス感染症のワクチン接種後の免疫反応(効き目)が低下することがわかりました。また、東北大学の研究からは、がんの発症リスクが高まることも報告されています」
【睡眠の新常識10】眠れなかったら一度布団から出る
「眠れないときに布団の中に居続け悶々としていると、脳はそこを『眠れない場所』と認識してしまいます。また、眠らなければというプレッシャーが緊張を引き起こし、交感神経が活性化して余計に眠れなくなることも。本来、人が寝付くまでには5〜15分かかるので、もし20分ほど経って眠れない場合は一度布団から出て、リラックスできる音楽を聴いたり、読書をしたりして眠くなるのを待ちましょう。このとき、テレビやSNSなど刺激的なものを見るのはNGです」

※「GetNavi」2026年2-3月合併号に掲載された記事を再編集したものです。