本・書籍
2016/11/26 18:00

「雪まろげ」に「冬の月」――四季折々の和菓子が家庭でも簡単に手作りできる?

『はじめての手づくり和菓子』(安田由佳子・著/学研プラス・刊)は、和菓子店のショーケースに並んでいるような懐かしくてきれいな和菓子を、家で作れるように、親切丁寧に解説したレシピ本だ。

 

錬りきり、ういろう、寒天、葛菓子、蒸し菓子、求肥、焼き菓子など、四季折々の和菓子たちはどれも宝石のように美しい。

 

和菓子をつくっているとき、ふっと子ども心にかえることがあります。

(『はじめての手づくり和菓子』から引用)

 

そうなのだ。和菓子は昭和30年代に私を連れて行ってくれるのだ。

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わが家は戦前は和菓子店だった

私は昭和30年代に静岡で生まれ育った。子どもの頃に私が遊んでいた“ままごと道具”は和菓子を作るための古びた抜き型やこし器だったのだが、それは祖母が大事に持っていたものだった。

 

「戦争でお砂糖を取られちゃったからね、うちのお店はつぶれちゃったんだよ。おじいちゃんと私がやってた小さな和菓子のお店は清風堂って名だった。まぁ、おじいちゃんが道楽ではじめたような店だったけど、そりゃあ、きれいなお菓子をたくさん作ってたもんさ」と、祖母はままごと遊びをする私の傍らでよくそう話していた。

 

祖父は私が赤ちゃんの頃に他界していたが、絵心がある人だったようだ。家には祖父が描いたまるで生きているように川を泳ぐ鮎の絵が額に入って飾られていた。その繊細な筆使いを見ると、祖父の作った和菓子がどれほど美しかったか想像できた。戦争がなければ、私は和菓子店の子どもとして生まれていたのだと思うと、ほんとうに残念でならない。

 

異国で目覚めた和菓子づくり

和菓子は大好きだが、近所で買って食べられるうちは作ろうとは正直思わなかった。作ってみようかと思い立ったのは、40歳を過ぎてから、フランスで暮らしていた時期だ。

 

異国にいると、あんこが無性に食べたくなる。パリ市内にはあの有名な『とらや』もあったけれど高級なので、頻繁に買えるものではない。しかも暮らしていたのはパリの中心から電車で1時間ほどの郊外で日本食の食料品店などなかった。だから、日本の懐かしい味は自分で作るしかなかったのだ。

 

幸い、フランスのオーガニックストアには、アズキ・ジャポネ(日本の小豆)が売っていたので、それを買って、つぶあんを炊いていた。

 

フランス育ちの娘も日本人の遺伝子のせいか洋菓子より和菓子が好きで、おやつにどら焼きをリクエストしてくることが多かった。そうすると、あんを炊き、ハチミツやみりんを入れた自己流のカステラ生地をフライパンで1枚1枚皮を焼いて、それこそ一日がかりで、どら焼きを作ったものだ。

 

ところで、聞くところによると、最近はあんこに夢中のパリっ子が増えているようで、なんとパリでは、今、どら焼きブームだそう。日本食料品店、そして和食店のデザートメニューにも、どら焼きがあり大人気だという。

和菓子をつくると心がなごむ

本書の著者の安田由佳子さんは“和菓子教室ももとせ”を主宰している。

 

あんが炊き上がるときの香りにワクワクしたり、お餅を練ってそのふっくらとした生地に触れたり、手の中で丸めて形づくってゆく作業も、なんとも気持ちがよくて楽しいものです。お教室でも生徒さんが笑顔になる瞬間です。

それから、もうひとつの楽しみは和菓子に季節を映すということでしょう。(中略)そうして折々につくった和菓子をひと口いただくときには、なんだか少し、いい心持ちになるのです。家庭でつくる和菓子にはきっとそんな楽しみがあるのだと思います。

(『はじめての手づくり和菓子』から引用)

 

紹介されているレシピは特別な道具は使わず、一般家庭のキッチンにあるもので代用できるようになっている。手順も写真つきの解説なので、はじめてでも失敗なく作れそうだ。

 

季節の和菓子カレンダー

気になるレシピをちょっとのぞいてみよう。

 

これからの季節につくってみたいのは、

『雪まろげ』:大和芋を使って作る練きり。ふんわりとした雪の質感を思わせる、真っ白の上品な仕上がりに。

『冬の月』:栗蒸し羊羹とかるかんを合わせたお菓子。雪の舞う夜空に浮かぶ月を甘露煮の栗で表現。

 

年が明けたら、

『梅の香』:淡いピンクの美しい錬りきり。寒さの中で花を咲かせるの梅は縁起がよいとされ、その形を和菓子に。

『苺大福』:求肥の皮から透けて見える苺の紅色が映えるのがとてもきれい。酸味のある苺を使うとおいしくなるそう。

 

春が来たら、

『桜餅』:春の風物詩ともいえる和菓子。道明寺粉の生地で包あんし、塩漬けの桜の葉で巻いて彩りよく。

『ちょうちょ』:酸味がさわやかな杏あんを合わせた細工ういろう。鮮やかな黄色でお茶の席でも使われる上生菓子。

 

そして初夏から夏には、

『若鮎』:清流を泳ぐ鮎を表現した和菓子。関西風の求肥を入れて作るレシピで。

『金魚鉢羹』:寒天で作る見た目も涼やかな寄せもの。ワインを入れるので味わいもさわやか。

 

その他にも『あんみつ』、『どら焼き』、『水羊羹』、『わらび餅』、『栗饅頭』、『かりんとう』、『栗善哉』などなど、みんな大好きな甘味のレシピもあり、次はどれを作ろうかワクワクしてくる。

(文:沼口祐子)

 

【参考文献】

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かんたん、かわいい!はじめての手づくり和菓子

著者:安田 由佳子

出版社:学研プラス

 

人気の手作り和菓子。本書は、作りたいと思ったときにすぐに作れる手軽なものから、本格的な伝統菓子まで、ニーズに合わせた和菓子作りを初心者にも丁寧に解説したレシピ集。特別な道具がなくてもすぐに始められる、カジュアルでかわいいレシピブック。

 

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