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2017/11/15 17:00

電動アシスト自転車は“主婦”のもの?――BOSCHが提案する次世代ユニットが日本人のライフスタイルを変える

電気の力でモーターを動かし、軽くこぐだけでスイスイ進む電動アシスト自転車。日本でも、パナソニックやブリヂストン、ヤマハ発動機などさまざまなメーカーから発売されています。

 

日本における電動アシスト自転車のメインターゲットは、お子さんを乗せたり買い物で重い荷物を運んだりすることが多い主婦向けというイメージ。日常生活を便利にしてくれる、実用的な「道具」という印象です。しかし、自転車が盛んなヨーロッパなどでは、少し電動アシスト自転車の位置づけは異なるようです。

 

先日、ヨーロッパでの電動アシスト自転車市場を牽引するBOSCH(ボッシュ)が、各自転車メーカーとタッグを組み日本の電動アシスト自転車市場への参入を発表しました。このBOSCHの参入により、日本の電動アシスト自転車シーンはどのように変わっていくのでしょうか。

↑発表会に登壇したBOSCHの代表取締役社長、クラウス・メーダー氏。自転車のヘルメットをかぶってくるなどおちゃめな一面も
↑発表会に登壇したBOSCHの代表取締役社長、クラウス・メーダー氏。自転車のヘルメットをかぶってくるなどおちゃめな一面も

 

2.5時間の充電で最大100kmまで走れる

BOSCHは、ドイツを本拠地とする自動車部品や電動工具などを扱うメーカー。自動車に詳しい人やDIYが好きな人なら、一度はその名を聞いたことはあるのではないでしょうか。BOSCHは、ヨーロッパの電動アシスト自転車市場において高いシェアを誇っており、満を持して日本の市場にも参入することとなりました。

↑電動アシスト自転車の市場は年々拡大している。ヨーロッパでの市場が一番大きい。日本はアメリカ・カナダよりも普及している
↑電動アシスト自転車の市場は年々拡大しており、ヨーロッパでの市場がもっとも大きい。日本はアメリカ・カナダよりも普及している

 

とはいっても、BOSCHが電動アシスト自転車(eBike)そのものを作っているわけではありません。電動アシスト自転車の肝である、ユニットの開発・販売を行っているのです。日本市場においても、パートナーとなる各自転車メーカーと提携し、ユニットを提供する形での参入となります。

 

BOSCHが提供しているシステムは、ドライブユニット、ディスプレイ、バッテリー、充電器、そして販売店向けのサービスツールです。これらが、各メーカーの自転車に組み込まれ販売されます。

↑ペダル部に搭載されているのがドライブユニット
↑ペダル部に搭載されているのがドライブユニット

 

↑ユニットのなかにはモーターが搭載されている
↑ユニットのなかにはモーターが搭載されている

 

↑ディスプレイには走行中にさまざまな情報が表示される
↑ディスプレイには走行中にさまざまな情報が表示される

 

BOSCHによれば、ヨーロッパにおける電動アシスト自転車の市場は、以下の4つに大別されるということ。

●「ライフスタイル」……レジャー、旅行、通勤など
●「コミューター」……ショッピング、通勤、旅行など
●「ファミリー」……旅行、ショッピング、通勤など
●「スポーツ」……エクササイズ、旅行、通勤など

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そのような市場に合わせ、BOSCHではドライブユニットの出力やバッテリー容量などでいくつかの製品群をラインナップしています。そのなかから、日本に投入されるのが「Active Line Plus」です。これは、平坦な舗装路や緩やかな坂道を想定したライン。通勤通学や買い物などの日常利用向けです。バッテリーの容量は300Wh。2.5時間で満充電となる高速充電に対応。最大航続距離は100kmとなっています。

↑BOSCHは4種類の電動アシストユニットを販売しているが、日本に投入するのは「Active Line Plus」となる
↑BOSCHは用途の異なる4種類の電動アシストユニットを販売しているが、日本に投入するのは日常生活向けの「Active Line Plus」となる

 

たとえば、通勤や通学で片道5kmの距離を毎日走るとしたら、1週間に1回ほど充電すればいいという計算。充電自体はバッテリーを外して、家のコンセントで行えるので簡単です。

↑↑バッテリーは300Wh。家庭用のコンセントから充電できる
↑バッテリーは300Wh。家庭用のコンセントから充電できる

 

日本でも、都心に勤務するビジネスマンを中心に自転車通勤が流行しましたが、夏場などは汗をかいてしまい、就業前に着替えなくてはならないという声も多く、やめてしまった人も多いとのこと。しかし、電動アシスト自転車ならば、こぐ力は通常の自転車に比べはるかに負担が軽いため、夏場でも汗をかかずに通勤通学ができるそうです。

 

ユニットだけではなくサポート体制も丸ごと提供

今回のBOSCHに日本参入は、単に電動アシスト自転車ユニットを販売するだけではありません。販売店向けに「Bosch eBike Systems」という診断ツールを提供したり、同社の電動アシスト自転車を販売するためのトレーニング講習なども支援します。これらは、サービスパートナーである株式会社インターテックを通じ、販売店向けへの電話ホットラインや、補修部品の一括供給、トラブルや故障への対応などを行います。

 

BOSCHでは、製品だけではなくサポートまでを提供することで、販売店は安心してBOSCH製品を販売することができるようになり、ユーザーもわからないことや修理などを気軽に店舗や販売員に相談できるようになると説明。それだけ日本の市場を重要視しているということなのでしょう。

 

ペダルに足を置くだけで軽快に走行

さて、BOSCHのユニットを搭載した電動アシスト自転車の試乗体験会では、実際にActive Line Plusを搭載した自転車に乗ることができました。

↑筆者が試乗したのはこの白い車体の自転車
↑筆者が試乗したのはこの白い車体の自転車

 

最初に感じたのは、ペダルがとても軽いこと。極端にいえば、足を置いただけで走り出すといった感じです。坂道もほとんど負荷を感じることなく登ることができるので、これなら通勤通学で汗をかくこともないでしょう。もちろん、平坦な道ではペダルをこぐたびに、通常の自転車とは違う加速を味わえます。

 

ディスプレイには、航続距離や現在のスピード、バッテリー残量などが表示されます。また、左ハンドルにあるスイッチで走行モードを切り替えることも可能。一番消費電力が少ないEcoモードでも、十分アシストの力を感じられます。よりスピードを出したいというときは、TourモードやSportモードにすれば、自転車の爽快感を味わえます。

↑ディスプレには速度や航続距離などの必要な情報が表示される。表示や走行モードの切り替えはハンドル左側のスイッチで行う
↑ディスプレには速度や航続距離などの必要な情報が表示される。表示や走行モードの切り替えはハンドル左側のスイッチで行う

 

一番スピードの出るTurboモードは、日本の規制上時速24km以上は出ないようになっているため、すぐにエンジンブレーキがかかるような感じになります。加速したいときなどに使うのがいいでしょう。

 

BOSCHユニット搭載自転車は約20万円から

今回のBOSCHの日本市場参入にあたり、4社のブランドから新製品となる電動アシスト自転車が発売されます。

【corratec】

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E-POWER X VERT 650B
2018年2月頃販売予定
予価40万円前後

MTBのシャーシをベースに、Active Line Plusに合わせて設計。フレームは軽量かつ剛性を高めた独自の「FUSION TUBE EDGE」を採用しています。

 

【tern】

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VEKTRON
2018年3月頃販売予定
29万8000円(税別)

「都市生活での快適な移動手段」というコンセプトを掲げる同ブランドのVEKTRONは、工具不要で折りたためるのが最大の特徴。折りたたんだ状態で移動させることもできる。

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↑独自の機構でスライドさせるように折りたためる

 

【TREK】

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VERVE+
2018年1月販売予定
21万3000円(税別)

アメリカ最大の総合バイクブランドであるTREKからは、通勤通学や買い物などを想定し、乗り心地や安定性なども考慮された新ラインナップが登場。

 

【BIANCHI】

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Lucca-E
2018年5月以降販売予定
278000円(税別)

同ブランド人気の「PISA FLAT」シリーズをベースに、Active Line Plusに最適化した自転車。BIANCHIらしさはそのままに、電動アシスト自転車の快適さを味わえる。

 

いずれの自転車も、既存の自転車にユニットを付けただけではなく、Active Line Plusに合わせて新たに設計されています。タイヤが太く、安定性が高い車種が多いのは、電動アシストがあるためタイヤを細くして負荷を軽くする必要がないため。タイヤを太くすることで安定性が増し、より快適に走行することができます。

 

もっと遠くへ行ってみたいと思わせる電動アシスト自転車

今回の発表会や試乗体験会を通じて感じたことは、BOSCHの日本参入により、日本での電動アシスト自転車のポジションが変わるかもしれないということ。これまでの日本の電動アシスト自転車は、子どもを乗せても軽く走れることや、坂道も楽に登れるといった、実用的な面が重視されていました。

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しかし、BOSCHのActive Line Plusを搭載した自転車を体験してみると、少し考え方が変わりました。なにしろ、ペダルを漕ぐ力がわずかでいいのです。要は、自転車の運転で一番の負担となる「ペダルを漕ぐ」という作業がとても楽になるわけです。そうなると、もっと遠くへ行きたい、もっと長く運転したいという気持ちになりました。

 

そう、純粋に「自転車を運転したい」という気持ちが沸いてきたのです。これからの電動アシスト自転車は、「辛い作業を楽にする」ためのものではなく、「より自転車を楽しくする」という方向性の製品が増えてくるでしょう。より快適に、より遠くへ。自転車が単なる移動手段ではなく、私たちの行動範囲や興味の範囲を広げてくれる乗り物になっていくことでしょう。

 

BOSCHの提案する電動アシスト自転車は、国内メーカーのものに比べるとやや価格が高めですが、普及するにつれて手に届きやすくなっていくでしょう。電動アシスト自転車がごく当たり前の乗り物になったとき、私たちの生活がどのように変わるのか、期待が膨らみます。