デジタル
2017/11/17 17:00

コンビニの「充電器コーナー」、1社がめちゃくちゃ強かった! 年間800万出荷を誇る多摩電子工業の「人情モノ作り」

コンビニのスマホ充電器/モバイルバッテリーコーナー。多くの人が一度はお世話になった経験があるのではないでしょうか? ほぼどの店舗にも置いてあるこれらの製品、実は一社が非常に大きなシェアを持っているのをご存知でしょうか? 川崎にある多摩電子工業は、全国で年間なんと約800万台もの商品を出荷し、コンビニエンスストアでシェアトップランクを誇る企業。

tamas_01

 

今回は、開発・発売元の多摩電子工業に伺い、これら商品群の秘密を聞いてみました。さらに、インタビューを進めると今度はイヤホンにも力を入れているとのこと。隠れた大ヒット商品を生み出す同社の「モノ作り」の姿勢について掘り下げていきます。

tamadenshikougyou_sama
↑多摩電子工業・開発生産本部、原田広一さん(左)、出口和宏さん(右)。電子関連企業がズラリ軒を連ねる神奈川県川崎市のマイコンシティ。多摩電子工業もこの地に本社がありました

 

 

コンビニでトップランクのシェアを誇るスマホ充電器、モバイルバッテリー

――コンビニエンスストアでは様々な商品が売られていますが、ほぼ必ず見かけるのがスマホ充電器、モバイルバッテリーです。そのパッケージを見ると、ほぼ「tama’s」の文字があります。この開発元が多摩電子工業だったんですね。

 

原田広一さん(以下:原田) 他社さんの製品もコンビニエンスストアさんで売られていることもありますが、弊社のスマートフォン充電器、モバイルバッテリーは、トップランクのシェアを誇っています。

弊社の強みとしては、かなり長い時間をかけてコンビニエンスストアさんとの信頼関係を築けたこと。そして、開発面で言えば、社内で全て開発・製造・販売をやっていることです。弊社は中国に自社工場を持っているので、製造品質コントロールは完全に自社です。

他社さんはファブレス(注:工場を持たないこと)のところも多いのですが、弊社では一貫して自社でパッケージングするというところが強みだと自負しています。

 

――もともと、いわゆるガラケー時代から、携帯充電器の開発をされていたんですよね。

 

原田 そうです。創業当初は、自動車の車載アクセサリーの開発が中心だったのですが、やがて旧来型の携帯電話の充電器……乾電池タイプのものを開発してから、コンビニエンスストアさんとの流通の屋台骨が出来ました。

そこからスマートフォンの進化に合わせて、弊社も時代ごとに開発を進化させ、シェアを拡大していったという流れです。ですから、新しくこの分野に参入される他社さんよりは一日の長があると自負しています。

mobilebattery_01
↑多摩電子工業のスマホ充電器、モバイルバッテリー。コンビニの棚でよく目にする商品ばかりだ

 

 

始めたばかりにヤメられなくなる商品も

――ただ、素朴な疑問なのですが、これだけ速いスピードでスマートフォン、携帯端末が進化していくとなると、周辺機器の開発もよりスピードを求められるんじゃないかということです。例えば「iPhone 8が●月に出る」と言っても、詳細はその日までわからないわけですし。

 

原田 そうなんです。スピードは当然求められますので、「発売前に、どんな情報を得られるか」というところに一喜一憂するところはありますね。

ただ、実際に新しい端末が発売された際に「あれ、事前情報とか、想像とは違ってた!」ということはよくあることです。今年のiPhone 8ですとワイヤレス充電が入っていたり、それ以前でもイヤホン端子がなくなってる、ライトニングのコネクターになったなど、様々な進化がありました。あるモデルが出ると、以前のものが使えなくなることもあります。

こういうときに、その都度、我々も変わっていかなければいけません。それが大変ですが、同時に、それに逐一対応してきたことが、弊社が成長した要因でもありました。

 

――その開発の“読み”がズレると、とんでもない失敗にも繋がりそうですが。

 

原田 そうですね。ただ、これは失敗とは言えないのですが、手掛けたために続けなければいけなくなったケースとしてあるのが、携帯電話時代の変換アダプターでした。

今のスマートフォンはmicroUSB・ライトニングで端子がある程度統一されていますけれど、携帯電話時代は、au用、docomo用、Softbank用と、それぞれ違うものを作らなければいけなかったわけです。

それを始めてしまった以上、今もスマートフォンではない携帯電話のユーザーさんがいる以上、作り続けないといけなくなりました。

 

――市場は圧倒的にスマートフォンであっても、少ないガラケーユーザーさん向けの商品もハズすことは出来なくなったということですか。

 

出口和宏さん(以下:出口) 特にコンビニエンスストアさんだと、ご年配の携帯電話ユーザーの方もいらっしゃいますので。

ですので、単に「新しいものを追いかける」というだけでなく、旧来のものも同じように、生産し続けるというのが弊社です。

garake_01
↑いわゆるガラケーユーザー向け商品。売り上げとしてはスマホ関連機器に及ばないものの、ユーザーが存在する以上、開発を続けるのも多摩電子工業の信条だ

 

 

ハイレゾイヤホンの開発へ

――一方で、最近特に目にするのが多摩電子工業の「fineEars」というイヤホン群です。これはどういった経緯で開発されたのでしょうか。

 

原田 実はコンビニエンスストアさんでは、スマートフォン充電器、モバイルバッテリーだけでなく、イヤホンも弊社がトップシェアでした。大手電器メーカーさんがまだ参入する以前の話ですが、イヤホンだけでも弊社の何%かを占める売り上げを誇っていました。

もともと、弊社の中国の工場のトップがイヤホン関係の開発者で、主にアメリカ市場向けのオーバーヘッドのヘッドフォンを生産していたこともあり、音質チューンの力に長けていました。ですから、イヤホンも弊社の得意分野の一つだったんです。

 

出口 そういう経緯があり、ハイレゾに取り組もうと2年の時間を費やして開発したのが、その「fineEars」でした。ハイレゾのイヤホンを、この価格帯で買う方たちのニーズに対応して、ヘッド部はそのままで、ケーブルを替えられるようにし、例えばロック向きの音、クラシック向きの音と変えられるようにしました。この構造はMMCXという規格ですが、初めての経験でなかなか大変でしたけれど、かなり追い込んだ商品を開発することが出来ました。

finears_01
↑10月にリリースされたハイレゾのイヤホン「fineEars TSH-HR1000K」。本文にもあるMMCXという着脱式規格を用いながら、1万2800円(税込)というコストパフォーマンスを実現した注目商品だ

 

潜在ユーザーに支えられ、さらなる未来へ

――これまでのお話を伺うと、失礼ながら多摩電子工業の名前を知らなくても、多くのユーザーが助けられた商品ばかりだったのですね。

 

原田 そうかもしれないですね。

 

出口 弊社の名前を知らない方でも、カタログを見せると「あ、これ持ってる!」とか、そういった声はよくいただきます。

 

――多摩電子工業では、今後どんな展望を考えていますか?

 

原田 手掛けていこうと考えているのは、IOT関連の機材ですね。家庭内の電気機器を、音声コントロールしたりといったものにまつわる商品ですね。

おそらく未来はスマートフォンが核となり、生活に伴い様々なものを繋いでいくという世界観が浸透していくと思うんです。その世界観に、これまでに弊社が手掛けてきた商品開発と経験を、なんらかのカタチで組み込んでいくことは出来ないかなと思っています。

カテゴリーとして大きく変わることはないと思いますが、新しい時代に沿って少しずつ新分野にも挑戦していきたいと思っています。