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2019/6/24 21:59

「まずはグラウンド整備からでした」――中京大学女子ソフトボール部がボツワナ派遣で得たものとは【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。

 

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5月11日、南アフリカで行われた女子ソフトボールの東京五輪アフリカ予選で、ボツワナが1位通過を果たし、7月末にオランダで開催される欧州・アフリカ予選への進出が決まりました。2020東京五輪出場へ向け、その戦いからまだまだ目が離せません。そんな躍進目覚ましいボツワナの女子ナショナルチームをサポートすべく、2018年2月、そして今年の2月の2回、JICA海外協力隊としてボツワナで活動し、ナショナルチームとの試合や現地での技術サポートを行ったのが、中京大学女子ソフトボール部です。

 

2017年6月にJICAは、開発途上国におけるスポーツ分野の支援のため、中京大学と3年間の連携覚書を締結しました。アフリカのスポーツ分野で、初の大学連携となった中京大学(本部:名古屋市昭和区)の女子ソフトボール部で部長・監督を務める二瓶雄樹さんに、JICA海外協力隊としてのボツワナでの活動について伺いました。

 

↑中京大学女子ソフトボール部の二瓶雄樹 部長・監督

 

青年海外協力隊・中村隊員の存在が大きな後押しに

アフリカでトップクラスの実力を誇るボツワナ女子ナショナルチームですが、世界のトップと渡り合うには足りないところも多く、高レベルの練習や試合ができる相手を探していました。そんな折、JICAとの連携覚書を締結した中京大学の女子ソフトボール部がボツワナで技術指導をすることになったのです。二瓶監督自身、多数の女子部員を連れてのボツワナでの海外協力隊活動に不安がなかったわけではありません。その不安を解消し、途上国での活動への気持ちを後押ししてくれたのが、一人のJICA青年海外協力隊の存在でした。

 

大学、実業団でソフトボールを経験し、2017年1月に青年海外協力隊のソフトボール隊員としてボツワナに赴任した中村藍子さんです。彼女と事前に連絡を取ることができ、ボツワナの安全性や国民性、内実を聞けたことが大きかったようです。「海外にどんどん目を向けようという大学の考えもありましたし、またこういう機会はなかなかないことだと思いまして」と二瓶監督は経緯を語ってくれました。

 

↑中京大学女子ソフトボール部は、これまで2018年2月と2019年2月の2度にわたり、JICA海外協力隊の大学連携制度を活用してボツワナで活動しました

 

とてもフレンドリーな国民性、しかし時間には……

アフリカと聞くと治安が心配になるかもしれませんが、ボツワナは独立から52年間、戦争や内戦もなく非常に治安の良い国で、国民性はとにかくフレンドリー。

 

「スーパーに行けば、普通に話しかけてきます。日本人だと言うと『何しに来たんだ』と。『ソフトボールだ』と答えると、『俺もやっていた』、『今度試合がある』と言うと、『じゃあ行くよ』って、本当に見に来てくれるんです!」と二瓶監督。

 

↑いつでも「楽しむ」のがボツワナの国民性

 

ボツワナのソフトボールは、70年代初頭にアメリカ軍が広めたといわれ、現在、選手人口は4万人を超える国民的スポーツです。しかし国民性からなのか闘争心は低く、いつものんびりムード。試合開始が9時なら、9時に集合。通知しても来ない。中村隊員によると「そのあたりは仕方がない」ことだそうです。今回の遠征でも、ナショナルチームのメンバーが試合の予定の時間までに揃わないこともありました。

 

グラウンド整備の大切さも徐々に浸透

監督や選手を驚かせたもう一つは、グラウンドの状況です。特に2018年の1回目の遠征では、訪問の1か月前にようやくグラウンドの土をならすトンボが導入されました。グラウンド整備の習慣がなく、整備道具さえなかったのです。トンボも、現地の中村隊員が大工さんに作ってもらいました。

 

グラウンドによっては、木の根が張り、雑草も生え放題。内野を作るだけで4、5時間かかったことも。だから総じて守備力は非常に低く、ただ打って、投げるだけ。

 

↑グラウンド整備中。グラウンドが悪いと守備力が向上しないのです

 

「ピッチャーはそこそこ投げられる子もいます。ただ、力任せのストレートしかない。バッターも思い切り引っ張るプルヒッターばかり。でも親善試合の2日目には結構適応していましたね。また2019年の2回目の訪問ではグラウンドが整備されていて、とてもうれしかったです」と二瓶監督。

 

中村隊員も「JICA海外協力隊の世界日記」で、アフフリカ予選1位通過とともに、試合後のベンチにゴミひとつなく綺麗だったことをレポートしており、彼女たちの意識の変化が感じられます。

 

リスクを考えると何もできない、まずは“井”から飛び出そう

今回、初めて参加した森本美由選手と佐藤友香選手は、ともに最初はアフリカでの活動に不安があったそうです。しかし、貴重な経験ができ、新たな気持ちも生まれたといいます。

 

「初めての海外でしたが、今までにない経験ができて良かったです。プレー中に諦めちゃう子が多かったので、もし来年も参加できたら、諦めないで試合に勝つと楽しくなるよ、ということを教えたい」と森本選手。

 

佐藤選手は「外国の選手と一緒にやってみたいと思っていたので、今回ボツワナに行ったことで、これからもスポーツの海外支援に携わっていきたいという気持ちが強くなりました」と語ってくれました。

 

↑ボツワナの記念品を掲げて。二瓶監督(左)、森本選手(中央)と佐藤選手(右)

 

大学内でも今回のボツワナでのJICA海外協力隊としての活動を紹介したところ、興味を持つ学生が多かったそうです。遠いアフリカの話でも、すぐ近くに行った人がいると、その距離はすごく近くに感じるものです。二瓶監督は、「他大学との研究会でも積極的に発表し、広く周知していきたい。リスクを考えていては何もできません。“井の中の蛙大海を知らず”ではダメ、海外に行きたいと思ったらどんどん出て行かないと」と、ボツワナでの海外協力隊活動で得た教訓を語ってくれました。

 

二瓶 雄樹(にへい ゆうき)さん

中京大学スポーツ科学部競技スポーツ科学科講師、女子ソフトボール部部長・監督。高校、大学では硬式野球部で投手としてプレー。2007年に同大男子ソフトボール部、08年より女子部の指導に携わり、13年インカレ女子大会で同大を初優勝に導く。福島県出身。

 

【関連リンク】

JICA(独立行政法人国際協力機構)

中京大学現役学生の青年海外協力隊員

「JICA海外協力隊の世界日記」 自由人×ソフトボール in ボツワナ(中村藍子隊員)

中京大学(JICAと開発途上国支援のための覚書を締結 教員、学生がスポーツ指導で支援)