スズキ初の軽乗用EV「e-SKY」に試乗! EVを意識させない設計思想を強く感じた

ink_pen 2026/9/26
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スズキ初の軽乗用EV「e-SKY」に試乗! EVを意識させない設計思想を強く感じた
会田 肇
あいだはじめ
会田 肇

カーライフアドバイザー。カーナビやドライブレコーダーなど身近な車載ITグッズのレポートを行う他、最近はその発展系であるインフォテイメント系の執筆も増えている。海外で開かれるモーターショーや家電ショーにも足を運び、グローバルな視点でのレポートに役立てている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

スズキが軽乗用EV市場へ本格的に乗り出します。その第一弾となるのが「e-SKY」です。

ジャパンモビリティショー2025にコンセプトモデルとして出展され、今回試乗したモデルもそのスタイリングをほぼ踏襲したものとなっていました。細部の意匠には違いがあるものの、基本的なフォルムはコンセプトカーにかなり近い印象です。

↑軽自動車らしいコンパクトなボディにEVならではのスムーズな加速感を組み合わせたスズキ「e-SKY」

しかしe-SKYが興味深いのは、単に「スズキが作った軽EV」に留まらないクルマであるということです。開発陣が目指したのは、EVならではの先進性を前面に押し出すことではなく「現在軽自動車に乗っているユーザーが、生活スタイルを変えることなくEVへ移行できる」クルマを生み出すことでした。

その考え方を象徴するのが、開発コンセプトとして掲げられた「EASY TO SWITCH(いつもの軽から無理なくEVへ)」です。

スズキ初の軽乗用EVが目指したのは「いつもの軽」

ボディサイズは全長3,395mm×全幅1,475mm×全高1,625mm。全高は一般的な機械式駐車場に多い1550mm制限を超えるものの、軽ハイトワゴンとしてはごくなじみやすいプロポーションといえます。

↑ブルー、イエロー、コーラル系の3色を並べたe-SKY。ブラックルーフとの2トーンカラーによって、スクエアなボディを軽快かつ個性的に仕上げている

注目したいのは1,030kgという車両重量。床下に駆動用バッテリーを搭載するEVとしてはかなり軽量といえます。搭載するバッテリーはBYD製のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーで、容量は26kWh。一充電走行距離は310km(プロトタイプ参考値)を掲げています。

↑スクエアなフォルムを基本としつつ、角を丸めた柔らかな造形を採用。ブラックアウトしたルーフやピラーがボディカラーとのコントラストを生み、モダンな印象を強めている
↑リアまわりは縦型コンビネーションランプを両端に配置。ブラックルーフやリアスポイラーを組み合わせ、シンプルながら安定感のある後ろ姿に仕上げている
↑個性的な表情を作り出すe-SKYのLEDヘッドランプ。水平・垂直方向に配置した発光部を組み合わせ、ひと目でe-SKYとわかる
↑ADASのセンシングに使用するフロントグリル中央部のカメラ
↑フロントグリル内にもセンシング用のミリ波レーダーが配置されており、カメラと組み合わせて使う

e-SKYでは航続距離を延ばすためにバッテリーを大型化するのではなく、車体を軽くし、少ない電力を効率よく使う方向を選びました。交流電力量消費率は97Wh/kmとされ、モーター、インバーター、減速機を一体化した3in1ユニットをはじめ、空力性能や車体構造、薄型バッテリーの床下配置まで車両全体を最適化しています。

バッテリーを増やせば航続距離は伸ばせますが、その分だけ重量も価格も増えます。そこを効率によってカバーする考え方は、軽量化を得意としてきたスズキらしいアプローチと言えるでしょう。

乗り込んでも感じさせない「EVへの乗り換え」

運転席に座ってまず感じたのは、いい意味でEVらしさを強調していないことでした。

インテリアはシンプルながら明るい雰囲気が伝わってきます。インパネからドアトリムへ連続するラウンド形状のデザインに、メーターとインフォテインメントを組み合わせたワイドなディスプレイを配置。シフトも一般的なストレートゲート式です。

↑水平基調のインパネによってワイドな視界を演出。大型ディスプレイやデジタルメーターを見やすい位置に配置した運転席まわり
↑助手席前には奥行きのある大型トレーを用意。スマートフォンや小物類を気軽に置けるなど、日常での使いやすさにも配慮している
↑インパネ中央には大型ディスプレイを配置。オーディオや空調などの情報を集約し、スマートフォンとの連携機能にも対応する
↑デジタルメーターには速度やバッテリー残量、航続可能距離などEVに必要な情報を集約。運転支援機能の設定も確認できる
↑エアコン操作部にはタッチ式パネルを採用。温度や風量などをすっきりと配置し、中央には音量調整用ダイヤルも備える
↑ステアリング右側にはACCや車間距離、車線維持支援などの操作スイッチを集約。運転中でも直感的に操作しやすい配置とした
↑前席は身体を包み込むような立体的な形状を採用。明るいグレーを組み合わせたツートーン表皮が、室内を軽快に演出している
↑後席はシンプルなベンチタイプながら、頭上や足元にも十分な空間を確保。軽自動車としてゆとりを感じさせる室内に仕上げた
↑後席足元には最大1500Wまで使えるAC100V電源を装備。家電製品が利用でき、アウトドアや非常時にも役立つ
↑運転席右下には回生ブレーキ制御(ワンペダルドライブ機能など)用スイッチを用意。その下にあるのはステアリングヒータースイッチ
↑センターコンソールには前席左右のシートヒーターを装備。電動パーキングブレーキとオートホールド機能も備えている
↑左右分割式の後席シートバック
↑シートを倒せば荷室を大きく拡大できる。乗員数や荷物に合わせて多彩なアレンジが可能
↑荷室床下には充電ケーブルをすっきり収納できる専用スペースを用意。パンク修理キットなども効率よく収められている

最近のEVではスイッチ式やダイヤル式など独自のセレクターを採用するケースも多い中で、e-SKYでは従来の軽自動車から乗り換えても戸惑いにくい操作方法を選んだといえます。

一方で、助手席シートバックポケットを省略するなど、装備については必要十分に割り切っている部分も見受けられました。

この点について開発担当者に尋ねると、「軽自動車として手の届く価格帯をしっかり押さえたうえで発売したい」という回答でした。価格はまだ公表されていませんが、豪華さを競うのではなく、EVへの乗り換えを現実的なものにすることを優先したというわけです。

アクセルの踏み出しは穏やか、踏み込めばEVらしい力強さ

実際に走り始めると、「EASY TO SWITCH」の意味がさらに明確になりました。

↑ボンネット内にはモーターやインバーターなどEVならではの機器を高密度に搭載。限られたスペースを効率よく活用している

モーターの最高出力は41PS(47kW)、最大トルクは133Nm。アクセルを軽く踏み込んだときの反応は穏やかで、いきなり強いトルクが立ち上がるような唐突さはありません。

EVというとアクセル操作に対するレスポンスのよさが魅力とされますが、その特徴を強調しすぎれば、市街地や狭い住宅街ではかえって扱いにくくなる可能性もあります。そのあたりをe-SKYはよく理解して開発されたようで、アクセルを軽く踏んでいる限りは自然に速度を上げていきます。

ところが、アクセルをさらに踏み込むと印象が変わります。モーターならではのトルクがすぐに立ち上がり、軽自動車としては十分以上と思える加速を発揮したのです。必要なときにはEVらしい力強さを引き出せる一方、普段はそれを意識させない。この味付けがとても巧みであると思いました。

試乗後にこの自然な加速フィールについて開発担当者に話を聞くと、予想通り「街中や狭い道での使いやすさを重視した」との答えが返ってきました。

つまり、スペック上の速さではなく、日常で扱いやすいことを優先したのe-SKYの走りなのです。

サーキットでわかった、低重心がもたらす安定感

今回の試乗はサーキットという、e-SKYの日常的な使用環境とはかなり異なるステージでした。それでも、このクルマの素性を確認するには興味深い機会となりました。

特に印象的だったのがコーナリングです。床下にバッテリーを配置したことによる低重心化の効果は想像以上で、ハイト系ワゴンでありながら、コーナーでは車体が落ち着いています。ステアリング操作に対する動きも素直で、軽EVとは思えない安定感を見せてくれました。

↑背の高いスクエアなボディながら、低い位置に搭載したバッテリーが安定した姿勢に貢献。旋回時の動きも素直で扱いやすい
↑EVらしい力強い加速と低重心を活かした安定感のある走りが魅力。コンパクトな車体でコーナーも軽快に駆け抜ける

もちろん、e-SKYはサーキットでスポーツ走行を楽しむためのクルマではありません。しかし、交差点を曲がる、住宅街を走る、郊外のカーブを抜けるといった日常の場面でも、この低重心による安定感は大きな安心感につながるはずです。

タイヤを14インチとしたのも、そうした考え方の延長線上にあるようです。開発担当者によれば、大径タイヤによって見た目やサーキットでの性能を高めるのではなく、「街乗りでの乗り心地と小回り性能を重視した結果」とのことです。つまり、e-SKYが走る主戦場は、あくまで住宅街や狭い道路なのです。

↑足元には空力性能にも配慮したデザインのアルミホイールを装着。タイヤにはダンロップ「e.エナセーブ」165/65R14を組み合わせている

「多機能=便利」とは考えず、あえてシンプルさを重視

e-SKYでもうひとつ印象に残ったのが、操作系のシンプルさです。

最近のEVでは、走行モードだけでなく回生ブレーキの強さまで何段階にも切り替えられるモデルが増えています。それはEVの楽しさにつながる一方、EVに初めて乗るユーザーにとっては操作が複雑に感じることもあるでしょう。

↑オプションを装着したe-SKY。ボディ各部のアクセントやイルミネーションが、標準車とはひと味違う個性を演出する

そんな事情を考慮して、e-SKYでは、あえて複数のドライブモードを用意していません。

一方で「イージードライブペダル」を備え、スイッチひとつで減速特性を切り替えることができます。実際に使ってみてもアクセルを戻した際の減速感は自然であり、EV特有の回生ブレーキを強く意識させないものでした。

開発担当者は「機能を増やすと先進感は出るが、使いやすさが下がる」と説明。この言葉はe-SKYというクルマの性格をよく表していると思います。

充電の不安を減らす「つながるナビ」

一方、EVとして必要な機能については積極的に採用していました。

そのひとつがインフォテインメントシステムです。e-SKYでは、スズキの軽自動車として初となる10.1インチのディスプレイオーディオを搭載。さらにコネクテッドサービスの契約によって利用できる「つながるナビ」が用意されました。

このナビは車両のバッテリー残量や充電スポット情報などを考慮し、目的地まで安心して走れる充電ルートを提案してくれます。ガソリン車なら燃料が少なくなれば給油すれば済みますが、EVでは充電スポットの位置や充電時間まで含めたルート設計が重要になります。そこをクルマ側でサポートしてくれるというわけです。

↑充電口はボディ側面に配置。普通充電用と急速充電用の2種類のコネクターを備え、利用環境に応じた充電に対応する
↑充電中はメーターにバッテリー残量と充電完了までの時間を表示。充電状況を車内からひと目で確認できるようになっている

さらにスマートフォンからエアコン操作、ドアロック、車両位置確認、充電停止なども可能になる予定で、EVを日常的に使う上で役立つ機能はしっかり盛り込まれるとのことでした。

「EVだから」ではなく「軽だから」という答え

試乗を終えて感じたのは、e-SKYが徹底して「EVだから」という発想から距離を置いて開発されていることでした。

↑再利用も可能な自然素材を取り入れたe-SKY専用フロアマット。環境への配慮を意識しながら、ブルーの縁取りとロゴでEVらしさを演出
↑充電ケーブルや充電用コンセントもオプションで用意。リール式ワイヤーが付いて、充電時のケーブルの使い勝手を高められる

大容量バッテリーを搭載して航続距離を競うわけでもなく、モーターの大出力をアピールするわけでもありません。さらには巨大なタイヤや豪華なインテリアで先進性を演出するわけでもありません。

26kWhのバッテリーと1,030kgの軽量ボディを組み合わせ、日常使いで必要十分となる310kmの航続距離を確保したのです。もちろん、アクセルを踏めばEVらしい力強さを味わえますが、普段は穏やかで扱いやすく仕上げられています。操作系も従来の軽自動車から乗り換えて戸惑わないよう、できるだけシンプルな造りとなっていました。

その一方で、充電ルートを提案する「つながるナビ」など、EVだからこそ必要になる機能にはきちんとコストをかけられています。つまり、e-SKYは、削るところと残すところの優先順位が明快なのです。

↑リアに装着された「e SKY」の専用エンブレム。ブルーで表現した「e」の文字が、スズキ初の軽乗用EVであることを象徴する

日産サクラをはじめ、軽EVというカテゴリーにもすでに選択肢が存在します。そのなかでe-SKYはEVとしての特別感を売りにするのではなく、これまで軽自動車に乗ってきた人が「次も軽を選んだら、それがたまたまEVだった」と思える存在を目指しているように感じました。e-SKYの本当の価値は、EVを特別なクルマにしないことにあるのかもしれません。

写真:松川 忍/スズキ自動車

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