2025年1月30日に発表されたスズキ「ジムニー ノマド」は、わずか4日間で約5万台もの注文を集める異例の人気を記録。受注はすぐに停止となり、多くのユーザーが購入できない状況が続きました。
その後、スズキはインドにあるマルチ・スズキ工場の生産能力を強化し、2026年1月30日に受注を再開。そして7月1日、一部仕様変更を施した改良モデルとして正式に発売されたのです。今回はその新しい「ジムニー ノマド FC」(4WD/4AT、価格は税込292万6000円~)の試乗レポートをお届けします。
オフロード性能を守りながら、ターゲットを日常へ広げたノマド
今回の販売は、単なる再開にとどまりません。先進安全装備やコネクテッド機能を大幅に充実させながら、ジムニーらしい本格クロスカントリー性能をそのまま継承したことが最大の特徴となっているのです。
試乗会での商品説明や開発陣への取材、さらに実際の試乗を通じて見えてきたのは、「ジムニーの魅力をさらに広げるモデル」というノマドの本質でした。そこで開発陣が繰り返し強調していたのは、「オフロード走破性を犠牲にしない5ドア」という商品コンセプトです。
従来の3ドア・ジムニーは、本格的な悪路走破性能を最大限に活用するユーザーを中心に開発されてきました。一方、ノマドではその性能を必要としながらも、家族や仲間との日常使いまで視野に入れたユーザー層をターゲットに加えています。
そのために採用されたのが、340mm延長されたホイールベースです。
ホイールベースの延長となれば、一見してジムニー本来のオフロード性能にとってマイナスになるのではないか。そう考えがちですが、ノマドではホイールベースの延長を何度も検討し、後席や荷室を拡大しながらもオフロード性能を維持するため、「必要最小限」の延長に抑えたそうです。

もちろん、ラダーフレーム、駆動方式や変速を手動で切り替えられる副変速機付きパートタイム4WD、3リンクリジッドアクスル式サスペンションといったジムニーシリーズのコア技術は一切変更されていません。
つまりノマドは「5ドアSUV」というよりも、あくまでもジムニーならではの「本格クロスカントリー4WD」であることを最優先に開発されたモデルに変わりはないのです。
5ドアながらジムニーらしさを崩さないデザイン
とはいえ、5ドア化で難しいのは、ボディバランスです。リアドアを追加すると間延びした印象にどうしてもなりがちですが、ノマドは一目でジムニーとわかるスクエアなシルエットを維持することに成功しています。
フロントには専用メッキグリルを採用し、リアには「NOMADE」専用エンブレムを装着。さらに仕様変更に合わせて新色「グラファイトグレーメタリック」を追加し、ツートーン2色、モノトーン5色の計7色をラインアップしています。
インテリアは基本デザインを踏襲しながら、機能性を重視したシンプルな造形を継承し、その一方で、装備面では最新モデルにふさわしい進化が図られました。

ADAS性能を大幅に進化させ、居心地のよさも確保
進化のもっとも大きなポイントがADAS(先進運転支援システム)の大幅な改良です。
従来のデュアルセンサーブレーキサポートは「デュアルセンサーブレーキサポートII」へ進化し、車線逸脱抑制機能や全車速追従式アダプティブクルーズコントロール(4AT車)、カラーマルチインフォメーションディスプレイ、スズキコネクトなどを新たに採用しました。



また、細部の改良も施されており、ルームランプのLED化やメーター表示のカラー化などが施されていることも見逃せません。一方で、電動パーキングブレーキ(EPB)は採用されていませんでした。ここからは、利便性よりもジムニーらしいシンプルな構造を優先したことが窺えます。
ノマドで使い勝手のよさを実感するのは後席です。ホイールベースの延長によって膝周りのスペースを確保し、シートクッションやシートバックを厚くすることで快適性を向上させています。
開発陣によれば「シエラが荷室の使いやすさを優先したのに対し、ノマドでは後席を積極的に使うことを前提に設計した」と説明しています。4名乗車時でも十分な荷室容量を確保し、ファミリーやアウトドア用途にも対応できる実用性を備えたというわけです。


実際に試乗してみると、後席スペースは従来より確実に広くなっているのが実感できます。とはいえ、ミニバンのような“広大”という印象ではなく、コンパクトSUVとして標準的なスペースというイメージです。ただ、リクライニングは1段階のみとなり、もう少し角度があってもよかったかなと感じました。

ホイールベース延長がもたらした落ち着いた乗り味
実際にステアリングを握って印象に残ったのは、ホイールベースの延長によって生まれた走りの落ち着きです。
市街地では、従来のジムニーシリーズに見られた細かなピッチングが穏やかになり、段差を越えた際の上下動も抑えられています。乗り心地には依然として硬さが残りますが、ショートボディよりも車体の動きがゆったりとしており、ひと回り大きなクルマに乗っているような安定感が感じられました。



一方で、運転席からの見切りの良さやメカニカルな操作感など、ジムニーらしい魅力はそのまま受け継がれています。
速度をやや高めたコーナリングでは、ステアリングを切り込んだあとに、もうひと舵加えたくなる場面がありました。試乗後に開発者へこの現象を確認したところ、「ラダーフレーム構造の影響もあるかもしれない」とのことでした。とはいえ、そこに不自然さを感じることはなく、車両の動きを感じながら操るジムニーらしい操縦感覚ともいえます。

そうした意味で快適性を追求したSUVではありませんが、シエラよりも落ち着きが増し、日常でも扱いやすい一台へと進化したといえるでしょう。
悪路では変わらぬ実力を発揮
ロングホイールベース化されたノマドですが、オフロードへ足を踏み入れるとその本質が見えてきました。
重量増やホイールベース延長による影響はほとんど感じられず、副変速機付きパートタイム4WDと3リンクリジッドアクスル式サスペンションが確実に路面をとらえます。
この日の試乗では前後輪が直結された状態になる4L(4ローレンジ)を維持したこともあり、その圧倒的な駆動力とコントロール性によって急な上り坂や凹凸が激しいコブのあるシーンでもグイグイと走り抜けてくれました。


ブレークオーバーアングルはわずかに小さくなっていますが、一般的な林道やキャンプ場へ向かうような悪路では不満を感じる場面はほとんどないと考えられます。むしろ車体の安定感が増したことで、安心してアクセルを踏み込めるシーンも増え、本格クロスカントリー4WDとしての実力は十分に維持されているといえるでしょう。

本格クロスカントリー4WDながら、日常のパートナーとしても高い完成度を発揮
ジムニー ノマドは、単なるジムニーの“5ドア版”ではありません。
ラダーフレームや副変速機付きパートタイム4WDといった本格クロスカントリー性能を維持しながら、後席の居住性、荷室の使い勝手、高速道路での快適性、安全装備まで大きく進化させています。しかもジムニーらしさはそのままに日常性能を高めたことにこそ、最大の価値があるということができます。
約5万台もの注文が殺到した理由は希少性だけではないでしょう。趣味性の高いジムニーを、家族や仲間と共有できる一台へと進化させたことが、多くのユーザーの支持を集めた最大の理由なのです。販売再開によってようやくその魅力を手にできる環境が整いました。
ジムニー ノマドは、本格クロスカントリー4WDでありながら、日常のパートナーとしても高い完成度を備えた一台です。その成熟した走りと実用性は、ジムニーシリーズの新たなスタンダードとなる可能性を十分に感じさせてくれたといえるでしょう。
【フォトギャラリー】(タップで拡大)
撮影/松川忍
