本人に訊け〜明日からモノ選びや暮らし方が変わるかも。
今回は約10年前に発売された書籍『誰もいない場所を探している』。著者は徳島県にあり全国に多くのファンをもつアアルトコーヒーの店主、庄野雄治さん。コーヒーブームの波に乗らず、大幅な規模拡大もせず、我が道を歩み続けている。同書を偶然手に取り、「これからの時代を生きるヒントが書かれている」と感じたブックセラピストの元木忍さんが、庄野さんのブレない生き方の核心を訊いた。

■7冊目
『誰もいない場所を探している』
(庄野雄治・著/ミルブックス/刊 990円)
■今回の“本”人
アアルトコーヒー店主·コーヒーロースター庄野雄治
1969年徳島県生まれ。大学卒業後、旅行会社に勤務したのち、2004年に焙煎機を購入しコーヒーの焙煎を始める。2006年徳島市内に「aalto coffee(アアルトコーヒー)」を開店した。ほかに著書『コーヒーの絵本』『たぶん彼女は豆を挽く』(ミルブックス)などがある。
人生で一度買ってもらえたらいいと思って始めた自家焙煎珈琲店
――庄野さんは、20年以上コーヒーロースターを続けています。この『誰もいない場所を探している』は、2015年に出版された本なんですよね。私は数か月前に初めて読んだのですが、まるで未来を予見していたかのような内容だと感じました。まず、出版の経緯から伺えますか?
「僕は世間的には“遅い”と言われる36歳から焙煎を始めました。『もう自分には何もない』と思ってお店を始めたので、自分がどの程度の人間か、身の程は知っているわけです。しかも、個人店はどう頑張っても、仕入れから焙煎まで、大手企業の技術力には勝てない……じゃあどうするか? と考え抜いて、“誰もいない場所”に辿り着いたんです。そんな“凡人”な僕の生き方が誰かの役に立てばうれしいと、出版しました」
――凡人ではないですよ! 著書にもありましたが、そもそも“コーヒーが好きでコーヒーロースターを始めたわけではない”というところから非凡です。
「飲食はやってみたいけど大変そう、でも焙煎ならイケるって思い込んでいたんです。33歳で焙煎機を買って初めてコーヒー豆を焙煎したときは、まずかったですね〜。びっくりしました。毎日作っては捨てて、を繰り返していました。でもやるしかない。家族もいるなかで大金はたいて焙煎機を購入したのに、そのコーヒーがおいしくないから、もうインチキやるしかないわけです」
――インチキ!?
「インチキっていうのは、売り方です。誰もやっていない場所で売る。地域に根ざしてリピーターを作るよりも、日本人口の約1億2000万人が、人生のうち一度でいいからうちのコーヒーを買ってくれるためにはどうしたらいいかを考えました。お金も力もないから、考えるしかない。コーヒーのうまい・まずいは主観なので、それなら大手企業に勝てる“鮮度”で攻めようと。また、20年ほど前のコーヒーは今みたいにおしゃれな商品ではなかったので、目を引くパッケージにして、雑貨店にあるような雰囲気で販売しました」

“誰もいない場所”はコーヒーフェスより小学校のバザーにある
――それで大成功したわけですから、すごいですよ。コーヒーブームに乗って大きくしていこうとか、2号店を作ろうとは、思わなかったのでしょうか?
「組織が嫌だから、ひとりで始めたんですよ。だからひとりでやれる範囲で止めておこうと思っていました。僕は本当に運が良くて、ありがたいことに徳島県の小さなお店でも全国誌に取り上げてもらうことが続いたんです。でもね、『ダメだ、大きくしちゃ』って思っていました」
――王道を選ばないところが、庄野さんらしいですね。
「小さい頃から“みんな”が好きなものがわからない人間だったんです。ある種のコンプレックスかもしれません。例えば、フリマとかコーヒーフェスみたいに同業者が集まる場所で売っても顧客まで届かないと思っていたから、そういう場所には絶対に出ないですけど、娘が通っている小学校のバザーには出店しました。そっちには出るんかーい! って(笑)」
――世の中の多くの人は“みんな”が集まる方へと導かれてしまいますからね。私たちも、庄野さんのように我が道を進んでいくためにはどうしたら良いのでしょうか?
「どうなんでしょうね? 自分を決めるのは他者ではありますが、それに引っ張られすぎないこと。自問自答し続けて、出た答えを肯定してあげればいいのではないでしょうか。自分がいいと思ったものが、世の中に肯定されるかどうかはわからないですよ。でも自分自身が肯定できているのなら、絶望する必要はないと思うんですよね。現に10年前に出した本が、令和の今、元木さんに届いているわけですから。失敗は糧になるし、どんどん失敗していいと思います」
――なるほど。
「僕は、人間は成長しないと思っています。経験値が増えれば動じなくなるので、これを成長という人もいるかもしれないけど、ただ単に経験値が増えただけ。成長し続けるって、次々に強いヤツと戦い続けないといけない……そんなの大変ですから、Life goes onでいいんです」
価値基準は「かっこいい」かどうか
――かっこいいなぁ〜。
「自分の中で『かっこいい』かどうかは大事にしています。振り返ってみると、全部そうでした。儲かるかとかラクかなんてより、かっこいいかどうかが人生の価値を決めています」
――「かっこいい」を基準にするのは勇気がいることですよね。
「お店を始めた頃は、食えるかどうかで“誰もいない場所”を必死に探していました。でも意識して探さなくても20年も続けていたら、『自分は一人しかいない』と気づきました。当たり前のことなんですけどね。そうそう、今年から、今さらですがメルマガを始めました。やっぱり、みんなが捨てているようなツール、“誰もいない場所”に宝物があると思っているんですね」
――本当に20年、ブレないんですね! 最後になりますが、これからやってみたいことや夢を聞かせてください。
「夢はないんですよね。毎日途中だと思って生きているので。毎晩たくさん酒を飲むんですけど、翌朝起きないかもしれないと思って寝ているんです。いつ終わってもいいから明日のこと……いや、明日のことも考えていないかな(笑)」
――「誰もいない場所を探している」は、成功論の本ではないんですね。自分の居場所を探し続ける人への応援歌のようです。庄野さんの言葉に触れながら、あらためて“自分らしく生きるとは何か”を考えさせられました。
【庄野さんに訊いた! オススメコーヒーグッズ】


ナビゲーター
ブックセラピスト・元木 忍
Gakken、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て独立。出版業界で培った知見を活かし、書店経営や選書活動を行う。東日本大震災を機に「人を支える本」の価値を再認識し、現在はブックセラピストとしての活動に加え、企業の事業戦略やコミュニケーション設計のアドバイザーも務めている。
※「GetNavi」2026年8月号に掲載された記事を再編集したものです。
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