家を守る日陰者のヒーロー! 10年以上壊れずに一瞬の電気事故を防ぐパナソニックの「ブレーカー」【連載:日常の黒幕・舞台裏の支配者】#1

ink_pen 2026/7/4
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家を守る日陰者のヒーロー! 10年以上壊れずに一瞬の電気事故を防ぐパナソニックの「ブレーカー」【連載:日常の黒幕・舞台裏の支配者】#1
藤山哲人
ふじやま てつひと
藤山哲人

あらゆる家電を使い込んで比較し、性能を数値やグラフにする技術系気電ライター。「マツコの知らない世界」番組史上最多の6回(TBS)はじめ出演番組100本以上。ほかにもWeb媒体やラジオのレギュラーを持つ。

誰もが何気なく使っていたり、社会インフラとなってわれわれの生活を支えていたりする製品なのに、作っているメーカーをまったく知らない、そもそもその製品の存在すら知らない。本連載では、そんな「日常の黒幕、舞台裏の支配者」にスポットライトを当て、それがなければどのような世界が広がるのか、そこにどんな技術が使われているかなどを探っていきます。

ブレーカーがない世界は街中で電気火災が発生し業火に包まれる

私たちが生まれてから死ぬまで毎日身近で働き続けているのに、その存在を忘れがちな「ブレーカー」。過電流や電線ショートなどで発生する火災から、私たちの命と財産を毎日守り続けてくれています。

連載第1回目は、われわれの生活になくてはならないブレーカーを取り上げます。まずは下のショッキングな映像を見てください。

フラッシュが目に直接当たったようにまわりが白く光り、赤い閃光がブレーカーと電線を走ります。同時に10m先に雷が落ちたような爆発音。この映像では筆者は悲鳴を押さえていますが、1回目の実験では叫んでしまいNGになっています(笑)。
※映像は工業用の大きなブレーカーの場合です

↑実験後のブレーカー。電線が焼けただれているが、ブレーカーはほぼ無傷。本来なら交換だが、まだ壊れていないため再度実験したところ正常に動作した

ブレーカーは契約以上の電気を使ったり、ネズミが配線をかじったり家具が電気コードを踏みつけて電線が露出してショートすると、自動的に電気を切って火災事故を防止する安全装置です。

↑どんな家にも必ず設置されている家庭用のブレーカー。部屋やコンセントに対応する小さなブレーカー(右の緑)と、家全体を守る親玉のブレーカー(中央の赤)がある

ブレーカーの大手、パナソニック スイッチギアシステムズにブレーカーのない世界を尋ねたところ、下の絵のような地獄絵図になるそうです(AIで作成)。

↑家から閃光が出たとたんに落雷のような音がし、街のあちこちで電気火災が発生。電柱の装置も火を噴き、業火に包まれる(※わかりやすくするために誇張して表現しています)

昼夜を問わず街のあちこちで火災が起き、街全体に煙と臭いが立ち込めます。夜は花火のように赤や青の閃光のあとに、落雷のようなボンッ! という音と救急車や消防車のサイレンの音が鳴り響き、夜なのに街がぼんやり赤く照らされ、安眠できない日々が続きます。

「令和4年版 消防白書」(総務省消防庁)の世界各都市(地域)の火災状況を見ると、世界の出火原因のトップは電気、たばこ、放火と続きます。しかし東京消防庁の調べによると、放火、たばこ、ガスコンロなどが続き、ようやく5位に「コンセント」が入っています。この差は日本製ブレーカーの性能や安全、防火や耐久性の差に他ならないでしょう。

↑世界では電気による火災(赤い部分)が原因のほとんどを占める(出典:消防庁「令和4年版 消防白書」より筆者まとめ)
↑東京では電気火災の割合は低い(出典:東京消防庁「令和7年版 火災の実態(確定版)」より編集部まとめ)

このように日本は世界でも稀に見る電気火災に強い国で、国民の財産と命、そして安全をブレーカーが守っている国と言えます。この高い安全性は世界でも認められ、パナソニックは東南アジアやインドにも現地工場を設立し、世界の電気の安全を守っています。

0.02秒で電気を遮断して火災を防ぐ

もし災害や事故などで電線がショートしても、ブレーカーが落ちるまでモタついていれば、電線が猛烈に発熱し、即火災や人身事故につながります。そのためブレーカーは、わずか0.02秒~0.05秒で電気を切ることが求められるのです。100m走のウサイン・ボルト選手もスタートの合図に反応するまで0.145秒かかるとされ、一般的には約0.2秒とされています。ブレーカーの反応速度は、超一流のアスリートよりも格段に速いのです。

↑ボルト選手がスタート合図を聞いてダッシュした瞬間、すでに1.54m先にブレーカーが走り抜けているほどの速さ。オリンピックでこのスタートダッシュの違いは、ほぼ致命的ともいえる差。※試合では0.1秒未満の反応はフライング判定となる

またブレーカーには電気の使い過ぎを防止する機能があります。電子レンジと炊飯器を同時に使ったら、キッチンの小さなブレーカーが落ちた経験があるでしょう。実はこれも火災予防の一環です。

コンセントや壁の裏を通っている配線には流せる電気に上限があり、それを越えると発熱します。ドライヤーを使っているうちに、コードが少し暖かくなったと感じる人は多いと思います。これは気のせいではなく、安全な範囲で電気(電流)が流れてコードが少し発熱しているからです。

部屋やコンセントに割り当てられている小さなブレーカー(分岐ブレーカー)は一般的に、同時に家電を20A(2000W)以上使うと、自動的に電気を遮断するようになっています。ただ、少しだけ安全マージンが見込まれているので、20A(2000W)を越えた瞬間にコードのビニールが溶け出しショートすることはありません。なお、1つのコンセントで使えるのは15A(1500W)までです。

↑壁や天井の裏には、コンセントやスイッチをつなぐ配線があり、上限の電力が決まっている。それ以上の電力が流れると発熱し火災につながるので、電気の使い過ぎの場合はブレーカーが遮断する

炊飯器を使っていることを忘れて電子レンジを使おうとした場合、すぐに気づいてレンジを消せばブレーカーが落ちることはありません。しかし数十秒~数分も使っているとブレーカーは落ちます。いうなれば電気の使い過ぎに気づく執行猶予期間が与えられているとも言えるでしょう。

ショートや漏電に対して、ブレーカーがモタついていると、人命に関わる感電事故になったり、壁の中の配線のビニールが熱で溶け、結果としてショートしたり、災害などで電線がショートして、火花が建物などに引火して火事になるので即反応します。しかし安全マージン内での電気の使い過ぎに対しては、執行猶予期間を持たせた、余裕を持った電気を遮断するという、2面性を持っているのです。

こうして人命や財産を守る確実な安全性を保ちながら、電気の使い過ぎに対しては使いにくさを感じさせない寛容性を持たせるため、2つの超精密な調整技術が入っています。

それが次で説明する「バイメタル」や「電磁引き外し機構」という精密な独自技術です。

長期間ノーメンテナンスでも確実に動作する技術

0.02秒の一瞬に賭けて電気を遮断するブレーカーですが、冷蔵庫やエアコンのように、壊れて買い替えることはありません。おそらく家を建てたときに設置したままなので、10年、20年と経っている家庭も多いでしょう。家電なら壊れて当然の年月ですが、ブレーカーは「調子が悪くて買い替えた」なんて人はいません。

↑最近はあまり見かけない黒いブレーカー。田舎の実家に帰るとこの20年、あるいはそれ以上経ったブレーカーがまだ残っている。動作はするが、買い替えが推奨されている

それなのにブレーカーは20年経った家でもしっかり動作しますし、災害でブレーカーが動作せず火事になったという報道も耳にしません。なぜでしょう?

災害時の電気火災は電力復旧時に起きる

阪神・淡路大震災や東日本大震災で注目された、災害時に起きる電気火災は「ブレーカーが原因」ではありません。震災時には、自宅から避難する際には「必ず大きなブレーカーを切って避難する」とアナウンスされるのですが、慌てていると、これを忘れてしまうのです。そして公民館などで避難中に電気が回復すると、倒れたストーブの電気がつき、火災へとつながります。これは「通電火災」と呼ばれ、10年ほど前から政府や消防署などが大々的に注意喚起しています。

最近では、大きな地震が発生すると自動的に大きなブレーカーを落とす「感震ブレーカー」があり、政府の推奨などもあって多くの新築に設置されるようになりました。

↑地震が起きても、自宅にいて電気がきている間はブレーカーを落とさず、避難用の照明などを確保。地震後に停電してから復旧した際に、自動的に電気を遮断する感震ブレーカー

ブレーカーは何十年もショートした瞬間の0.02秒を見守り続け、錆びや経年劣化で固着したり、部品が折れたり削れたりして動作しなくなることがほとんどありません。

「数十年間メンテナンスなしに、かつ確実に100%動作しなければならない」。これがブレーカーに求められる常軌を逸した信頼性です。しかも構造が最も簡単と言われるタイプでさえも、次のような複雑さです。

↑「構造が簡単なタイプです」と見せられた、ブレーカーのスケルトンモデル。樹脂の部品と金属の銅、細かな部品が組み合わさって、ショートの検出から0.02秒で電気を遮断する。しかも10年以上も確実に動作するから驚き

ショートなど重大な事故を検出すると、上の写真の中央少し右にある電磁石がスイッチのロックを外し、瞬間的に電気を遮断。これが「電磁引き外し機構」です。

また電気をたくさん使うと自動的に切断する仕組みは、規定以上に電気が流れると熱くなって曲がり出す金属「バイメタル」を使い、スイッチのロックを外して電気を遮断する、というもの。

バイメタルが温まるまでに時間がかかるので、炊飯器と電子レンジを使ってもすぐにレンジを切れば、ブレーカーが落ちることなく、安全かつ便利に使えるようになっています。

さらに複雑なものになると隙間なく部品が組み込まれ、腕時計並みの精密機械です。

↑こちらは複雑なタイプ。これだけ密集していてたくさんの部品が使われているのに、10年以上も部品同士が連携して動くのはすごい技術。バラしたら元に戻せないレベルの複雑さだ
↑市販されているブレーカーは中が見えないので簡単そうに見える。写真左が簡単なタイプ、右が複雑なタイプ。上部のスイッチが上がっている状態が遮断中。それぞれのブレーカーには適材適所がある

これら1つひとつの部品が、錆びて固着することも、折れたり曲がったりすることも、すり減ったりバネが弱まることもなく機能します。つまり部品の1つひとつに、経年劣化に対する耐性を持たせ、それが組み合わさっても、100%確実に連携するのです。

長期間壊れない信頼性で国内シェア50%

愛知県瀬戸市にあるパナソニック スイッチギアシステムズで生産されるブレーカーは1か月間で110万個。1.1秒に1個生産されているという計算ですが、1つでも不良品が出せないシビアな世界です。

↑ロボットが1cm程度の部品を1つひとつ正確な位置に置いていく

パナソニックのブレーカーは国内シェア50%を占め、トップです。ちなみに、壁にあるスイッチやコンセントの差し込みも、工場は異なりますがパナソニック製で、こちらも国内トップでシェア80%を占めています。

パナソニックといえば、洗濯機やテレビ、エアコン、乾電池といった家電製品が思い浮かびますが、実は住宅やビルの財産と人命を守る、ブレーカーやコンセントの国内トップメーカーであり、世界でも第2位のメーカーなのです。

その歴史も長くブレーカーは1935年(昭和10年)から瀬戸市に工場を構え90年(2026年現在)以上の歴史があります。日本の電化とともに歩んできた企業であり、電気の標準規格を作ってきたプロ集団なのです。

↑パナソニックのインド工場。こちらはコンセントとブレーカーを製造。生産は熟練した工員さんたちによる手作業。インドは発展途上なので、まだ完全自動化には至っていないが、将来的には自動化を計画している
↑ベトナム工場でもコンセントとブレーカーを製造。コンセントのラインは大部分が自動化されているが、複雑なブレーカーは手作業で作る
↑熟練工がこれらの細かい部品を手際よくセットしていく

誰にも知られずに人命と財産を守るのが裏方の美学

創業から90年以上で日本のトップシェア。コンセントも合わせて2030年に世界ナンバーワンを目指す企業であるパナソニック スイッチギアシステムズを知る人はほとんどいません。それどころか、ブレーカーがたくさん詰まった箱である「分電盤」が、家のどこにあるかを知らない人も多いでしょう。

でも、それでいい。それが裏方の美学。

家族全員、分電盤がどこにあって、居間のブレーカーはこれ! と知っている――。それはブレーカーが頻繁に落ちていることに他なりません。契約容量ギリギリたくさんの家電を使っていたり、何らかで漏電したことがあったり、家電などがショートして火事になる手前でブレーカーが落ちたなど、差し迫る危機に何度も遭遇しなければ、ブレーカーは誰にも知られることなく、家族を、家を見守っています。

↑ブレーカーが詰まっている分電盤は洗面所や玄関、玄関の収納ボックスに隠してある場合もある

デザイナーやエンジニアの間では「最高のデザインは存在を忘れさせること」と言われます。誰に教わることなくハサミや包丁の使い方がわかるのと同じように、壁のスイッチやコンセントの使い方もわかる、それもひとつのデザイン。分電盤やブレーカーは、その究極で「それがあること」すら忘れられた存在であることが一番。一度設置されたら存在を忘れられて、初めて「平和な日常」があるのです。

ブレーカーは、ゆりかごから墓場まで誰もが1日24時間、関わっています。私たちの財産と安全と命を守ってくれるけど、誰にも称賛されない影のヒーロー。そのヒーローを世に送り出し、月110万個の状態をチェックする。その人々こそヒーローの中のスーパーヒーローと言えるのではないでしょうか。

誰にも感謝されず、社名すら知られていない、でも社会には絶対に必要不可欠な会社と人。パナソニック スイッチギアシステムズの人々が守っているのは、ブレーカーという製品ではなく、日本の「当たり前の日々」そのものだったのです。

彼らは白い分電盤の中に隠れて、今日起こるかもしれない0.02秒の瞬間に備えています。

↑今回取材にご協力いただいたスーパーヒーローの皆さん。左からパナソニック エレクトリックワークス 電材&くらしエネルギー事業部電路盤システムSBU電路海外事業推進部商品技術課 大井戸敏宏氏、パナソニック スイッチギアシステムズ 商品技術部 水野洋二部長、パナソニック エレクトリックワークス 電材&くらしエネルギー事業部電路盤システムSBU電路商品技術部 一村省互部長
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