東京から少し離れた郊外でペンションを経営する親子と、ひょんなことから住み込みでバイトすることになった不思議な男性の姿を描いたドラマ『ペンション・恋は桃色』。リリー・フランキーさんと斎藤工さんがW主演を務め、伊藤沙莉さんのほか豪華なゲスト俳優たちによって何気ない日常が綴られていくこの作品は、放送開始以来、多くのドラマファンから注目を集めている。そしてこのたび、待望のseason4がスタート。最新作ではおなじみとなったペンションから場所を移し、思いがけないエピソードがいくつも同時に展開。そこで主人公の1人、シロウを演じたリリーさんに作品が完成した今の思いをたっぷりと伺った。

【リリー・フランキーさん撮り下ろし写真】
作品のテイストは同じでも、映像や展開に新しい楽しさを感じてもらえるはず
――ファン待望の『ペンション・恋は桃色』のseason4がついに配信スタートしました。
リリー 僕も事前に完成した作品を観ましたが、安定のほっこり具合で安心しました(笑)。
――振り返ると、season1が作られたのが2020年でしたので、7年目に突入したことになります。
リリー 最初は深夜に地上波でこっそり放送していたんですよね。それから少し期間が空いて、2024年にseason2が配信されて。ただ、『2』を撮ったときから、なんとなく『3』と『4』をやる流れはすでにできていたんです。ですから、今回の『4』ももちろん嬉しいんですけど、それよりも『5』があるのかどうかということが早くも心配で(笑)。
――(笑)。今回の『4』はこれまで舞台となっていたペンションが登場しないという点からも新鮮さを感じました。
リリー シロウさんとハルのペンションは改修工事の必要があるということで、その間、知り合いのジョージ(高木完)が経営するペンション「UNITY UNITY」でお世話になっているんです。山に囲まれていた場所から海の見える土地へと変わったことで、映像に映る風景も大きく違いますし、シロウさんが莫大な改修費に頭を抱えるというシリアスな展開も描かれている。作品全体のテイストは相変わらず同じでも、今までとは違った楽しさを感じてもらえると思います。
――ペンションが変わったことで、やはり演じるうえでも気持ちに変化はありましたか?
リリー そこはもう明確に出ますよね。他人の家に居候しているようなものですから。『男はつらいよ』でいえば「とらや」の調理場が水漏れしちゃったせいで、知り合いのだんご屋を手伝いに行ってる感じじゃないですか。でも、この設定が結果的に良かったなと思います。だって、さすがに他人のペンションで働いてるエピソードでここまで続いたシリーズを終わらせることはないでしょうし、“あ〜、まだまだ続くんだろうな”って、みんな思ってくれますから(笑)。
――なるほど(笑)。また、今作ではシロウさんが病気を患うという不穏な展開もあります。
リリー この作品は家族の物語でもある以上、どうしても加齢というのは避けることができないテーマなんです。シロウさんとヨシオって、いってみればピーター・パンみたいな人間で、どこか地に足がついてないところがある。とはいえ、その横でハルが大人になっていくに連れて、親が弱っていく姿も描かざるを得ない。それもあって、実をいうとseason1の頃と比べて、シロウさんって年相応に少しずつ変化しているんですよね。もともと彼は恋愛体質の男なので、年齢よりも若く見えるようにしていたんですが、今回は白髪もあまり隠さないようにしていて。実際にseason1が始まった頃は50代だった僕が今では60代ですし、沙莉も20代から30代になった。そうした見た目の変化も、そのまま役の中に取り入れているんです。

血の繋がっていない家族の絆を今作ではより色濃く描いてます
――家族の在り方が描かれていく中で、シロウさんとハルは血が繋がっていないものの理想の親子のように感じます。
リリー ハルは本当にかわいくてしょうがないですね。僕にとっても理想の娘です。今回のseason4では、他人のペンションにいるからこそ、余計に親子感が出ていますし。ハルが「私、お父さんのペンションに生まれて良かった」みたいなことをさらっと言ってますけど、父親としては泣けてきます。そこにはきっと、清水(康彦)監督の理想の娘像が投影されているんでしょうね。演じている沙莉もハルとそんなに性格が離れていない。だから、僕としてもすごく気持ちが入ります。
――そういえば、season3のラストでシロウさんへの誕生日プレゼントとしてハルが細野晴臣さんの『恋は桃色』をカラオケで歌い、その姿を見てシロウさんが涙を浮かべていました。あれは台本どおりだったのでしょうか?
リリー いえ、あのシーンは自然と泣けてきたんです。もうね、僕はハルがどうというより、沙莉が何かしているだけで泣けてくる(笑)。
――まさしく親の心境ですね。では、リリーさんから見て、シロウさんも理想の父親像だと感じられますか?
リリー 少なくともハルにとってはそうでしょうね。ハルもシロウさんも、血が繋がっていないことをさほど気にしていませんし。このドラマは、血が繋がっているほうが家族の絆が強いのか、それとも一緒にいるほうが強いのかというのがテーマになっているんですけど、これって是枝裕和監督の作品に通じるものがある。清水監督と是枝裕和監督は、ずっとそうやっていろんな家族の形を模索しているような気がします。
――血の繋がりで言えば、正真正銘の他人であるヨシオのことも、2人は家族同然に受け入れています。
リリー そうなんです。そこも面白いところで。少し前に、社会の中で“絆”という言葉が安売りされて使われているなと感じることがありましたよね。親子や家族の絆って、そんな一日や二日で簡単にできるものじゃなく、長い時間をかけて培ってきたものがあって初めて生まれる。そこを今作ではしっかり描いているなと思います。
――ヨシオに関しては父親の仕事を継ぐかどうかという問題が過去にも描かれていて、実は只者ではないなという印象を視聴者に与えていました。今作ではペンションの改修費を両親に借りに行くエピソードがあり、さらにヨシオの実態が見えてきました。
リリー びっくりしましたよね。まさか、彼の実家があんなにでっかい家だとは思いませんでしたから。あのレベルの金持ちなら、景気よく改修費を出してくれよと思いましたよ(笑)。ただ、そう考えると、ヨシオが家を継げば解決することってたくさんあるんです。だって、ヨシオが社長になって、そこにハルが嫁げば、すべてが丸く収まるでしょ。なんなら、ヨシオがペンションを福利厚生施設として買い取ってくれればいいわけだし、「UNITY UNITY」と提携すれば、みんなが幸せになれる。
――たしかにそうですね(笑)。
リリー だから、もしいつか最終回を作ることになったら、最後にヨシオが外車に乗ってスーツ姿で現れて終わってほしいです。『プリティー・ウーマン』のリチャード・ギアですよ。金に物を言わせるあたりは少し違うかもしれませんけど(笑)。
――season4では拝金主義だったジョウジさんが心を改めるエピソードがありましたが、そのテーマをもう一度ひっくり返すような展開ですね。
リリー そうそう。資金繰りでひーひー言ってるシロウさんの前にヨシオが颯爽と現れて、「ハル、シロウさん。世の中で一番信用できるものを持ってきましたよ。やっぱり最後の最後に一番裏切らない絆は金ですからね」って言って、現金が詰まったジュラルミンケースを広げてほしい。それを見て、ハルとシロウさんが「わーい! やったー!!」って大喜びする。『恋は桃色』らしいハッピーエンドですよ(笑)。
本当のフーテンは、もはやシロウさんじゃなくヨシオですよ
――シロウさんのような生き方は憧れますか?
リリー どうでしょうね。ぷらぷらしてるように見えますが、あれでシロウさんは意外とちゃんとしてますからね。毎日働いてるし、ハルのこともしっかり面倒みてる。それに、シロウさんは男女問わずコミュニケーション能力が高い。そこは憧れますね。
――惚れっぽいし、惚れられやすくもあります。
リリー そう。シロウさんって、惚れっぽい性格なだけじゃなく、フラレても、すぐ違う人を好きになるでしょ。あれ、いいよね(笑)。僕はもっとしつこくて、追いすがっちゃうほうなんで。その意味では、シロウさんって寅さんに近い。きっと、監督も最初はシロウさんに寅次郎を投影していたんだと思います。でも、気づいたら、ヨシオのほうが寅さんになっちゃってましたよね。彼こそ本当にフーテンですから(笑)。時代劇で例えると、浮世離れした金持ちの息子がちょっと城下町に降りてきたような感じ。しかも、今回のseason4ではヨシオのほうに恋愛模様が巻き起こるから、シロウさんはロマンスの担当まで奪われちゃいました(笑)。
――ヨシオとハルの恋の発展に期待していただけに、ヨシオの元カノであるカコ(長谷川京子)の登場は少しやきもきしました。
リリー しかも、ものすごくこじらせた描き方でしたよね。もちろん、普通にカコとの恋を再燃させちゃうと、ハルとヨシオの関係性が薄くなっちゃうっていう危惧もあったんでしょうけど。それにしても、京子ちゃんとキスをするんだか、しないんだかだけのくだりを何回も引っ張るのはどうかと思いましたよ(笑)。それでも、あそこだけは監督が絶対に譲らなかったんです。間違いなく、監督は思い残し症候群なんでしょうね(笑)。

最終回は細野晴臣さんに『恋は桃色』を歌ってもらいたい
――あらためて、こうしてseason4まで続いていることにはどのような思いがありますか?
リリー 純粋に嬉しいです。今、長くシリーズが続いているドラマってほとんどないでしょ。『相棒』ぐらいじゃないですか。できれば、ライフワークのスタイルでずっと続けていきたいですね。そもそも、このドラマに関わってる人間は誰も仕事だと思ってないかもしれませんけど(笑)。
――肩肘張らずに挑める作品ということでしょうか?
リリー というよりも、マッサージとか心のメンテナンスに近い感じかもしれないですね。本当は、どんな仕事でも心からリラックスして臨みたいんです。でも、楽しさだけでドラマは作れないということもわかっている。けれど、『ペンション・恋は桃色』に限ってはそれができるんです。これはseason1のときから感じていることですし、そこから本当に何ひとつ変わってないんですよね。
――season1のときは「ドラマ研究会のようなもの作りができる場所」とコメントされていましたね。
リリー そうでしたね。だからなのか、season1のときはまだ物語自体をすごく細かく作っていた印象があります。だって、シロウさんが恋に落ちるエピソードが1シーズンで2回も出てきますから。あきらかにテレビというものを意識しすぎていた。で、その結果、season1が終わったあとに、みんな気づいたんです。「もっとダラダラやろうよ」って(笑)。適当にやるということではなく、みんなで楽しんで作る。そこが、このドラマの良さに繋がっていると思うんです。
――たしかに、“登場人物のセリフや動きを何ひとつ見逃さないぞ!”という感覚で観るドラマではなく、友人たちの何気ない会話を聞いてるような日常感が堪らないです。
リリー ただ、セリフ量は意外と多いんですよ。基本的にペンションの中で完結している密室劇みたいなものですし。だから覚えるのが大変で、みんな撮影の合間に台本とにらめっこしています(笑)。
――ときどきアドリブのような掛け合いも見られますが、それも台本どおりなんですか?
リリー 完全にフリーでやっているのは、工くんが仲間たちと居酒屋でしゃべっている部分だけですね。それ以外は結構台本に忠実です。たまに相手のリアクションに対してアドリブを入れることはありますが、物語とまったく関係のない話をするということはないです。それに、基本的に清水監督は一回しか撮らないんです。しっかりとセリフを言えようが言えまいが、ほぼ一回しか撮らない(笑)。だから、ゲストで来られた俳優さんたちは、みんな最初、“えっ!?”って驚かれます。作り方としては演劇に近いかもしれないですね。
――そうなると、たしかにセリフをしっかり覚えていかないと怖いですね。
リリー にもかかわらず、セリフ覚える時間もあまりないんです。朝早くにみんなで集まって、リハーサルもほとんどなくいきなり撮影が始まるし、その日の撮影が終わって宿泊先に行くと、先に戻っていた(鈴木)慶一さんがいつもお酒の用意をしてるし(笑)。大先輩がお酒の席を作って待ってる状況で、台本を見てセリフを覚えるような無粋なことはしたくないですから(笑)。
――それでも無事に作品を完成させられるところに、皆さんの役者としてのすごさを感じます。
リリー キャストもそうですが、この現場はスタッフもすごく優秀なんです。若くて、すごく動きも判断も早い。だって、もしこの現場に職人気質のスタッフさんがいたら、絶対に怒ると思いますよ。「そんなんで、いい画は撮れねぇよ!」って。でも、それだと一生終わらない(笑)。ウチはもう、“職人”と“こだわり”禁止ですから。逆に言えば、それだけ監督への信頼が絶大なんです。特に監督の編集技術はずば抜けている。清水監督は、「素材さえ渡せば、俺がいかようにも編集してやる!」って人ですし、その結果、低予算かつ短期間でドラマを作ってしまうから本当に素晴らしい。しかも、ひっそりと誰にも気づかれず、season4まで作っちゃって。なかなかないですよ、こんな作品は。
――そういったお話を聞くと、season5への期待が高まります。
リリー もし「じゃあ『5』をやらせてあげるから、それで最後にしましょう」っていうのなら、そのときは細野晴臣さんに出ていただき、『恋は桃色』を本人に歌ってもらいたいですね。season1では三倉茉奈ちゃん演じるマキが歌い、season3ではハルも歌ってくれてますから、やはり最後はご本人に締めてもらいたい。
――でも、細野さん演じる祖父のキヨシはseason1で他界してしまっていますが……。
リリー いや、この際、亡くなってるとか、どうでもいいじゃないですか(笑)。別に亡霊でも構わない。今さら破綻のしようがないドラマになってますし。それに、細野さんが歌うなら、慶一さんも楽器を弾かざるをえないでしょ。じいちゃんが歌う姿の幻影をハルやシロウさん、それにヨシオが見つめながら幕を閉じる。それ以上に最高のエンディングはないですよね。
ドラマ『ペンション・恋は桃色 season4』
FODにて全話配信中(全5話)
https://www.fujitv.co.jp/pension-koihamomoiro4/
(STAFF&CAST)
企画:橋爪駿輝
監督・脚本:清水康彦
主題歌:細野晴臣「恋は桃色(New ver.)」 (ビクター/スピードスター)
出演:リリー・フランキー、斎藤 工、伊藤沙莉、山口智子、細野晴臣(回想)、長谷川京子、柏木 悠(超特急)、高木 完、鈴木慶一(moonriders)、大水洋介(ラバーガール)、JOY、吉田大八、辻 凪子ほか
(STORY)
シロウ(リリー・フランキー)とハル(伊藤沙莉)が営むペンション「恋は桃色」は設備の劣化のため、改修工事を行うことに。住むところと働く場所を失った2人は、同じくペンションを経営する友人・ジョウジ(高木 完)の元を訪ね、住み込みで働きだす。しかし、いつの間にか拝金主義になっていたジョージやその息子のヤマト(柏木 悠)とは経営理念が合わず、2人は戸惑う日々を送ることに。そんな彼らの前に、家族同然で「恋は桃色」でバイトをしていたヨシオ(斎藤 工)が突然姿を現す。
撮影/干川 修 取材・文/倉田モトキ


