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2024/2/2 10:30

石田卓也「3人それぞれ、このシーンに対する秘めた思いは強く、本番前は絶妙な緊張感と距離感を保っていました」映画『罪と悪』

罪の真実と正義の在り方を問う衝撃のノワール・ミステリー『罪と悪』が、2月2日(金)より公開。長編デビュー作となる齊藤勇起監督のオリジナル脚本作品で、心に傷を持つ朔を演じる石田卓也さん。朔ら幼なじみ3人が再会を果たすことで、ある事件によって止まっていたそれぞれの時間が動き始めていきます。幼なじみ役の高良健吾さん、大東駿介さんといった同世代俳優と火花を散らした撮影エピソードのほか、現在、俳優業とともに農業もされている石田さんが農業を始めたことによる自身に変化についても語ってくれました。

 

石田卓也●いしだ・たくや…1987年2月10日生まれ。愛知県出身。2005年、ドラマ「青春の門・筑豊編」でデビューし、同年公開された『蝉しぐれ』でキネマ旬報新人賞を受賞。主な出演作に『キトキト』(2007年)、『グミ・チョコレート・パイン』(2007年)、『リアル鬼ごっこ』(2008年)、劇場アニメ『時をかける少女』(2008年)など。Instagram

 

【石田卓也さん撮り下ろし写真】

 

10代半ばから一緒に頑張ってきた同世代俳優との再会

──普段は農業もされている石田さんが、本作への出演を決めた理由は?

 

石田 脚本を読ませてもらったときに、直感で「こんな作品を待っていた!」と思ったんです。偶然にも朔も農家をやっていますし、彼の内面的なところも理解できるというか、自分と重なるものが少なからずあったので、これは絶対にやりたいなと。今回、脚本も書かれた齊藤勇起監督は僕が出演した『モンゴル野球青春記』(2013年)で助監督をされていたご縁もあって、朔役に僕を指名してくれたそうですが、お話しを頂いた時は純粋にうれしかったですね。

 

──30代になられて、同世代の俳優である高良健吾さん、大東駿介さんと一緒に男臭いドラマに出演できるということも魅力的ですよね。

 

石田 男臭さに加えて、本作品はコミカル要素も一切ありません。そして2人とは10代半ばぐらいから、ずっと一緒に頑張ってきた同世代の俳優です。健ちゃん(高良)は同じ作品に出演したことがあるし、大東くんも『リアル鬼ごっこ』(2008年)で一緒でしたけど、やはり10代後半ぐらいの記憶で止まっているんですよね。そこから数年経って、またこのタイミングで一緒に作品を作れることに、この作品に出てくる3人のような、巡り合わせというか運命を感じました。

 

──久しぶりに再会するという設定は、劇中の3人の関係性にリンクしますね。

 

石田 そうなんです! ただ、幼なじみの設定だったんですよね。幼なじみの空気感って、現場入って「久しぶり!」という感じではなかなか出せないから、撮影に入る前に、本読みやコミュニケーションを取る場を設けていただきました。それによって、現場では3人それぞれが絶妙な空気感を保っていたと思います。齊藤監督がある程度の方向性を提示して、あとは僕たちに任せてくれたこともありがたかったです。初監督作で、自分のオリジナル脚本で、そこまで僕たちを信じて、任せてくれるっていうのは、なかなかできないことだと思うんですよね。本当に感謝しています。いろいろな監督の助監督をされて、経験を積んでこられた齊藤監督だからこその懐の深さを感じました。

 

役作りで大切にしたのは、歪んだ自己愛からくる正当性

──そんな中で、石田さんが朔を演じる上で心がけたことは?

 

石田 周りの人間から「おまえ、それ違うだろ?」って言われようとも、揺るがない正当性ですね。朔は非常に繊細な心を持った人間で、自分を守るための行き過ぎた自己愛が朔という人間を作り上げたんだなと感じたので、芯の部分は非常に大切にしました。それ以外のことは意識しなくても、相手が出してくる芝居に対して、自然と出てくる気持ちを表現していった感じです。本当に相手のセリフのニュアンスが変わるだけで、受け取るものって変わってくるから面白いですし、それがこの仕事をしていて楽しいところだと思います。3人がそこにいれば自然とシーンが出来上がるんです。

 

──3人が対峙するクライマックスの撮影エピソードは?

 

石田 齊藤監督の穏やかな人柄もあって、実は現場の空気感もそこまでピリピリしていなかったですし、撮影時間もそんなにかからなかったんですよ。ただ、3人それぞれこのシーンに対する秘めた思いは強く、本番前は絶妙な緊張感と距離感を保っていました。緊張し過ぎているわけでも、緩み過ぎているわけでもない。そんな空気感がたまらなく好きでした。それもあって、僕たちが本読みでやっていたものを遥かに超えて、3人の魂が語り合うシーンになったと思います。

 

自然に寄り添いつつ、やれることをやっていく農業の面白さ

──話はさかのぼりますが、農業を始められた理由は?

 

石田 もともと健康に興味があって、「自分の体内に取り入れるものが、どのように作られているのか?」ということを知りたくて、農業を始めたんです。国内の自然栽培農学校に通いながらオーガニック農家で働き、その後、海外のオーガニックファームを巡って農業修行をしていました。農業は自然が相手なので、なかなか自分が思うようにいかないんですよね。人間が自然に対して何か強制するのではなく、自然に寄り添いつつ、僕達は自然に対して少しお手伝いをさせてもらう。そんな考え方、生き方に魅力を感じました。

 

──農業をやられていることで、俳優活動に還元していると思われることは?

 

石田 心に余裕というか、ゆとりみたいなものが出てきました。現場にいる時も、自分の中ではゆっくりと時間が流れているように感じます。若い時はどうしても、一生懸命が故に”我”が前面に出てしまって、俯瞰で見ることができていなかったと思います。今は、自分の中でどうこうしようというよりは、自分はどういう立ち位置にいた方がいいのか、ということを客観的に見られるようになりました。あとは、純粋に俳優業は心身の健康が一番大切だと思うんです。そういったところからも、自然の中で汗を流して心身のバランスを整えてくれる農業を始めて良かったと思います。

 

──Instagramでは高良さんとアウトドアされている写真もアップされていますが、個人的にハマっているものは?

 

石田 最近は機会がある時に陶芸をしています。初めて陶芸をしたのは15歳の時でしたが、とても楽しかった記憶があります。もともと土を触ることが好きなのかもしれません。土を触っていると気持ちがいいですし、時間を忘れて没頭できます。今はまだ始めたばかりで作品にもなりませんが、作っている時間を楽しんでいます。陶芸作家さんの作品を見たり収集したりするのも好きで、益子の陶器市にも何度も行きました。作家さんの個性を出した作品が多くて1つひとつを見ているだけで楽しめます。今日は特に気に入っている飛騨高山の陶芸家・中西忠博の作品を持ってきました。この唯一無二の色合いと、風土を感じさせるこの素朴さを見ているだけで、感性が刺激されます。いつの日か自分でも納得のいく作品が作れたら最高に幸せです。

↑飛騨高山の陶芸家・中西忠博さんによる作品

 

 

 

罪と悪

2月2日(金)より公開

(STAFF&CAST)
監督・脚本:齊藤勇起
出演:高良健吾、大東駿介、石田卓也、村上淳
市川知宏、勝矢、奥野壮、坂元愛登、田代輝、柴崎楓雅、石澤柊斗、深澤幸也、
/佐藤浩市(特別出演)、椎名桔平

(STORY)
ある日、14歳の正樹の遺体が橋の下で発見。彼の同級生だった春、晃、双子の朔と直哉のうち、1人が犯人と思われる老人を殺し、殺害現場となった家に火を放つ。それから22年後、刑事になった晃(大東駿介)が父の死をきっかけに帰郷。久々に会った朔(石田卓也)は引きこもりになった直哉の面倒をみながら実家の農業を継ぎ、春(高良健吾)は地元の不良たちを集めた闇の仕事も請け負う建設会社を経営していた。やがて、かつての事件と同じように、橋の下で少年の遺体が発見される。

公式HP https://tsumitoaku-movie.com/

(C)2023「罪と悪」製作委員会

 

撮影/中田智章 取材・文/くれい響 ヘアメイク/KEIKO スタイリスト/櫻井賢之