Vol.163-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は「半固体電池」を採用したモバイルバッテリーの話題。リチウムイオン電池ながら“発火しにくい”というメリットと、課題に迫る。
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モバイルバッテリーの発火事故はなぜ起きるのか? シンプルにいえば、モバイルバッテリー内のリチウムイオン電池が異常に過熱し、内部の有機溶剤が発火点に到達した結果として「燃える」ことになる。
半固体電池が安全と言われるのは、内部で液体の有機溶剤ではなく「ゲル状の有機溶剤」を使うことにある。有機溶剤であることに変わりはないのだが、ゲル状になっていることで漏れ出したり、有機溶剤の成分が揮発しづらくなったりしている。結果として、高熱を発する異常過熱に至りづらく、従来のものよりも安全……と言われているわけだ。
だが、半固体電池は絶対に燃えないのか、というとそうではない。半固体電池も、発電の仕組みはリチウムイオン電池と変わらない。有機溶剤を使っているのは同じであり、それを“液体のまま使う”か“ゲル状にして使う”かの違いでしかない。コストに加えてサイズ、低温時の特性など、半固体電池のほうが不利な部分もまだある。
モバイルバッテリー最大手のアンカーは、2026年の新製品でも半固体電池を採用しなかった。同社は複数の製品で焼損事故を起こしており、リコールしたものもある。それでも同社が半固体電池を採用しないのは、むしろ従来型であっても管理の徹底で対応可能と判断しているためだ。具体的には、バッテリー自体の管理や経年劣化対策、バッテリーを包むボディへの難燃性素材採用などの施策となる。同社はこの施策を「Neo Lithium-ion Battery」と呼んでいる。
これは決して的外れな話ではない。
スマホやPCなど、リチウムイオン電池を内蔵している製品は多数あるものの、それらでの半固体電池の採用例は現状ほとんどない。使っているバッテリーの生産ライン自体が異なること、小型・軽量かつ大容量であることが求められることなどが理由だ。その中で発火事故が起きないよう、徹底した品質管理が行われている。
過去にスマホやPCでも事故が起きることはあったが、それを教訓に管理徹底が進み、事故の大半はモバイルバッテリーになっていった。それだけ、モバイルバッテリーの生産管理や使用状況に課題があるということでもある。アンカーが「管理徹底」の方向に動くのは、リチウムイオンの利点を重視したうえでの判断だと思われる。重要なのは、その公約をどこまで徹底できるのか、ということだ。
そしてもう1つ、バッテリーの焼損事故については見逃されがちな点がある。燃える原因も、すべてがバッテリーの中だけにあるのではない、という点だ。
それはどういうことなのか? 次回解説していくことにしたい。
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