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2023/4/29 11:30

超シンプルなルックスに宿る、アンダーアーマーの本気度/大田原 透の「ランニングシューズ戦線異状なし」

ギョーカイ“猛者”が走って、試して、書き尽くす! 「ランニングシューズ戦線異状なし」

2023「アンダーアーマー」春の陣④「UAフロー ベロシティ ウインド2」の巻(前編)

 

アメリカ・ボルチモアで誕生したアンダーアーマー(以下、UA)。ご存じのようにUAは、コンプレッションウェアという新たなジャンルを“開拓”し、アメリカンフットボールを皮切りに、野球やサッカーなどの競技スポーツに次々と大きな影響力を及ぼし、瞬く間に世界ブランドに成長した。

 

しかし、こと陸上長距離の競技では、UAの存在感は、他競技に比べて、必ずしも強大とは言えなかった。もちろん、そんなポジションに甘んじないのも、UAたるところ。この春UAは、ガチの厚底カーボンシューズ「UAフロー ベロシティ エリート」を発表して話題になったばかりだ。

 

今回は、“ジョギングもするし、レースにも出たことある”という方々のための一足について、話を聞くことに。お答えいただくのは、UAのシューズを担当する松原恵治さんである。

↑今回お話を伺った、アンダーアーマーのシューズを担当する松原恵治さん(ドーム マーチャンダイジング フットウェア プロフェッショナル)

 

「前回ご紹介した『UAホバー マキナ3』はクッション性重視のモデルでした。今回ご紹介する『UAフロー べロシティ ウインド2(以下、ウインド2)』は、初心者や中級者でも、“スピードを出したい”という方向けのシューズです。もちろん、厚底カーボンを履かれるような上級者のトレーニング用にも最適です」(松原さん)

↑2022年3月から登場している「UAフロー ベロシティ ウインド2(FLOW VELOCITI WIND2)」1万8700円(税込)。サイズ展開:メンズ25.0~30.0㎝、ウィメンズ22.5~26.0㎝。 カラー展開:メンズ3色、ウィメンズ2色

 

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超シンプルなルックスに隠された、UAの最新技術

ウインド2は、カーボンプレートやソールに複数の素材を組み込んでいない分、自分自身の脚力を活かせるシューズだと松原さんは語る。たしかに、アッパーも、ソールも、ゴテゴテした部材は一切ない。重量は220gと超~軽く、シンプルそのもの。踵のUAロゴ以外、正直、派手なところが全くない。

 

シューズ内での踵と爪先の高低差であるオフセット(ドロップとも言う)は8㎜。転がるように足が前に出るロッカー構造(揺りかごのようなソール形状)もきつくない。ソール厚も25㎜とマキナ3よりも8㎜ほど薄い(トラックで使用できるシューズの厚みは、2024年11月以降は再び規制が厳しくなり20㎜になるが、現在は25㎜)。

 

スペックだけ並べると、派手さはさらになくなるのだが、実は、ウインド2のアッパーとソールには、UAの最新技術が惜しげもなく投じられているという。

↑エンジニアードメッシュのアッパー、靴裏にはラバーも貼られていないスマートな横顔に、ひと際UAのロゴが目立つ

 

軽量かつ堅牢なアッパー=ワープ

「アッパーには、ワープという素材を用いています。ワープには、伸び止めのステッチの技法が使われています。モノメッシュの織ものに対して、テープを渡してステッチで止めるため、いわば刺繍を施しています。昔の、カンガルー皮の野球やサッカースパイクで用いられていた伸び止めの手法の延長です」(松原さん)

 

機能性を持たせた刺繍なので、薄く、軽量でありながら、しっかり足を包むため、ブレが生じにくいと言う。踵やシューレースのはと目のかがりにも、タタミ縫いと呼ばれる刺繍の技法も用いられおり、日本の畳のように目の詰まったかがりで強度を高めている。

↑俯瞰して見ても、シンプルそのもの。なお、右足の中足部のミッドソールには、チップが埋め込まれ、GPSウォッチがなくても、距離やスピード、歩幅などを計測できるUA独自のアプリ「MAP MY RUN」と連動できる

 

「UAはアパレルを作ってきましたから、こうしたユニークな発想のプロダクツが生まれます。足の甲が当たるタンも、シューズとほぼ一体になった特徴的なガセットタンを採用しているので、ワープとの相乗効果で、よりフィット感が得られます」(松原さん)

 

タンと言うより、スリットがあるブーティー構造と言った方が分かりやすい。などと、アッパーのテクノロジーに目を奪われがちだが、もっと凄いのはモノコックのソールだ。

↑黒のメッシュに、黒のテープを張り巡らせ、黒の糸でステッチしているので分かりにくいが、軽量で堅牢なアッパーであるワープ。ソールは一見2層に見えるが、1層のみだ

 

アウトソールを必要としないフローフォーム

従来のランニングシューズは、ミッドソールに、ゲルや気体やEVAといった衝撃吸収材&高反発な発泡素材、安定した走りを生むためのシャンクなどをてんこ盛りに搭載してきた。さらに靴裏には、耐摩耗性の高いラバーを貼るなど、複数の異素材を組み合わせて、はじめて高機能な一足のシューズとして成立させることができたのだ。

 

ところが、ウインド2には、一枚のソールだけで、靴裏のラバーも存在しない。アウトソールとミッドソール一体の「フロー」という素材が単体のみ。見た目、発泡成形のサンダルのようだが、果たして大丈夫なのだろうか?

↑フローのソール面。どれだけ路面をグリップするか、次回、検証しながら走る

 

「フローは、スナッピーで良く弾けます。クッション性も、反発性も高く、グリップがある上に、耐摩耗性もあるので、アウトソールのラバーを必要としません。使用状況にもよりますが、600~700㎞くらいまでは全く問題ないと考えています」(松原さん)

 

研究段階において、フローは反発性に優れた素材として生まれたという。しかしフローには、高いグリップ性も併せ持つことが判明。であれば、アウトソールの機能を持たせられると、さらにブラッシュアップされたという。

 

従来のランニングシューズ作りを一新する可能性を秘めたフローは、単一素材にも関わらず、極めて高い機能性を有するのだとか。先ほど“サンダルのよう”と書いたが、謝罪せねばなるまい。フローは、とんでもないハイスペック素材なのだ。

↑新装となった「UNDER ARMOUR BRAND HOUSE 新宿」にて(右が筆者)

 

ラインナップを急速拡充、UAランニングの本気度

ウインド2に搭載された、アッパーのワープ素材、ソールのフローフォームは、UAの最上位レース仕様のカーボンシューズにも使用されている。ちなみにウインド2も、マキナ3と同様にスマートシューズの機能性がある。UAは、着実にランニングシューズのバリエーションを増やし、走る人たちのレベル、そしてニーズに応え得るラインナップを急ピッチで充実させている。

 

「こうした流れは、もちろんブランドにとってはプラスです。これからは、専門店や量販店に並ぶUAのシューズの顔触れも、変わってきます。“ランファスト”のためのエリート向けから、よりトレーニングにフォーカスしたウインド2、そして“ランロンガ―”を標榜するマキナ3などのクッション系で、真正面からランナーに向き合います」(松原さん)

 

各社の研究開発のスピードが驚くほど上がり、ますます激しさを増すランニングシューズ戦線。UAランニングの本気度は、やっぱりタフで、ガチだ……。次回は、やわなランナーを代表して、筆者が実際に履いて、走って、(負けじと、テンション高めで)確かめたい。

 

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撮影/中田 悟

 

 

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