【インタビュー連載・心と体に響くプロダクトデザインの深淵】#3 エプソン家庭用プロジェクター「Lifestudio Flex」

ink_pen 2026/7/2
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【インタビュー連載・心と体に響くプロダクトデザインの深淵】#3 エプソン家庭用プロジェクター「Lifestudio Flex」
神野恵美
かみのえみ
神野恵美

ライター・編集者・家電評論家。"家電裏番長"として、世の中にあるさまざまな便利家電・ガジェットを駆使して生き延び、マザーとの二刀流もそろそろやれやれ卒業。料理、掃除、洗濯、野球、旅行、音楽、映画鑑賞などなど周りが呆れるほど趣味人間。"モノ"よりも実は"コト"優先で生きている。

プロダクトの企画・開発担当者らへのインタビューを通して、「なぜこの道具は心地よいのか?」という問いに対するつくり手たちの思想と哲学をハードとソフトの両面から探っていく本連載。

近年、家庭用プロジェクター市場に次々と新しいスタイルの製品が登場する中で、エプソンが新たに打ち出したのが「Lifestudio Flex」シリーズ。単に映像を映す機器ではなく、生活空間そのものの質を高める“インテリアプロダクト”として成立させることを目指した意欲作で、スタンダードモデルとして、2025年10月にEF-71、72が発売。それに続く新製品として、4月にSpecial EditionとしてEF-73が発売になりました。

今回はその「Lifestudio Flex」シリーズに注目。製品の企画、設計、デザインを担当したメンバーに、開発背景からプロダクトの思想、設計・デザインに込められた思いなどを訊ね、空間の質を高める発想から生まれた製品群の哲学に迫ります。

エプソン 「Lifestudio Flex Special Edition EF-73」

●サイズ/質量: W190×D198×H250mm/3.9kg ●方式:3LCD ●光源:3LED(3原色LED) ●スクリーン解像度:4K相当 ●光出力・カラー光束(最大):1000lm ●スクリーンサイズ:30型~150型 ●スピーカー:Sound by Bose 5W + 5W ステレオ、デュアル・パッシブラジエーター搭載 ●消費電力:137W/0.5W(明るさ切り替え「高」/スタンバイ時)

“空間の質”から逆算して生まれたシリーズ

「Lifestudio Flex」シリーズの起点となったのは、映像体験だけでなく、過ごす空間そのものの心地よさを高めたいという発想だった。

最初に開発されたのは「Lifestudio Flex EF-72」。2025年10月の発売から8か月以上が経つが、「リビングに出しっぱなしでも恥ずかしくない」「インテリアの一部として置ける」「日常空間に自然に溶け込む」といった点が高く評価され続けている。ビジュアルプロダクツ事業部 VPデザイン部の川部源太氏は次のように語る。

「従来のプロジェクターは、使う時だけ設置し、使い終わると片付けられることも少なくありませんでした。私たちは、映像を映している時間だけでなく、使っていない時間の佇まいまで含めて大切にし、置いてあるだけで空間が美しく見える存在を目指しました」

↑先行して開発・発売された EF-72。天板に木目のデザインを施すなど、ナチュラルテイストのやさしい家具調のデザインが目を惹く
↑ EF-72のリビングでの使用を想定したイメージ。とてもプロジェクターとは思えないビジュアルでインテリアとして違和感なく空間に佇む

スタンダードモデルに続いて発売した「Special Edition」── 2モデルを展開する理由

シリーズ全体としての方向性は“生活のさまざまなシーンになじむプロジェクター”。

開発自体がスタートしたのは2023年度下期。しかし、「開発を進める中で、より空間や素材へのこだわりが強いお客様像や、ベッドルームでの過ごし方への理解が深まり、それらの知見を反映する形で2024年12月からSpecial Editionの企画が立ち上がりました」と川部氏。

そして後継のハイグレードモデルとして、EF-73が4月に発売となった。EF-72の開発途中でのユーザー調査から得た知見を反映し、およそ1年遅れての企画のスタートだったものの、発売は半年差まで詰めることができたという。ビジュアルプロダクツ事業部 VP開発・企画設計部の湊祥平氏は2つの製品の違いを次のように明かした。

スタンダードモデルが“暮らしに自然になじむ”存在だとすれば、EF-73は“空間価値をさらに高める”ためのモデル。黒を基調とした落ち着いた佇まいに加えて、ガラス天板、微細ラメ、スウェード素材など、素材選定からして明確に方向性が異なります

価値を発揮するシーンとして想定したのが“ベッドルーム”。リラックス時間のための佇まいの美しさを支える細部のこだわりとは?

EF-73の開発の中で特に重視されたのが、寝室でのリラックスタイムだ。現代の寝室は、ただ寝る場所ではなく、家族と離れて自分の好きなコンテンツに没入するプライベート空間としても使われている。一方で、映画や動画を楽しむ際には、映像だけでなく空間全体の雰囲気を整えることが求められるようになっており、プロジェクター自体がその空間の一部として自然に溶け込み、雰囲気を高める存在である必要がある。

「寝室は“自分を満たす時間”を過ごす場所になっています。だからこそ、プロジェクターが空間の雰囲気を壊さず、むしろ高める存在であるべきだと考えました」(川部氏)

インテリアとして成立させるために、使っていない時間の佇まいまで徹底的に作り込まれている。中でも特に目を惹くのは背面の処理。プロジェクターは排熱のため“穴が目立つ”のが一般的だが、今回のモデルは背面ですら非常にすっきりしている。川部氏は次のように説明する。

↑EF-73の背面。排熱のためのルーバーや接続などのインターフェースが集約されており、メカニカルさが際立ってしまう部分だが、極力目立たないデザインになるように苦慮したところだという

例えば、部品分割線を極力減らして、レンズ周りはあえて円形パーツを採用して視覚ノイズを最小化しています。また、部品の合わせやディテールの見せ方にもこだわり、丁寧に仕上げ、排熱構造についても、側面から吸気しつつ、正面や主視認面にはルーバーを目立たせない構成としています。背面側も黒い帯の中にルーバー類をまとめることで、視覚ノイズを抑えています。排熱とデザインの両立は難易度が高く、設計チームと初期段階から密に検討したところです

↑プロダクトの“顔”にもなるフロント側は部品の分割線を可能な限り少なくすることでスッキリと仕上げた。プロジェクターのレンズ周りは四角いパーツが用いられることが多いが、あえて円形を採用しているのも特徴だ

素材選び──“家具に近い質感”を追求

シリーズ共通の思想として、“機器っぽさ”を排除することも掲げられた。「家具やインテリアで使われる素材感や質感を参考にし、木目やファブリックの色味を空間になじむトーンに調整しています。触れたときの手触りまで丁寧に作り込んでいます」と川部氏。

また、Special Editionとして、EF-73ではさらに上質な素材が選定されている。

天板にはスマートフォンにも使われる2.5Dカットガラスを採用し、月明かりに照らされた湖面のような奥行きと陰影を表現しています。微細なラメも封入し、気づくと美しい程度の控えめな輝きに仕上げています。指紋が目立ちやすい素材のため、美しさを保てるような表面処理も施しています

↑Special Editionの仕様として、天板には2.5Dカットガラスを採用。さらに微細なラメを混ぜ込み、月明かりに照らされた湖面をイメージした演出まで施されている
↑ラメの量や色味、散らし方などさまざまに条件を変えたサンプルをいくつも作り、検討がなされた

“黒”という色がもたらす静けさ

Special Editionのもう1つの象徴とするのが、カラーだ。ブラックカラーが採用されたのは、単なる色としてではなく、“空間に静けさをもたらし、上品さと普遍性を備え、長く使い続けられる色”として選ばれたとのことだ。

「背景には、コロナ禍以降、タイムレスな価値を求める傾向が強まったこともあります」と川部氏。実際に製品を見ると、黒物家電にありがちな“重さ”がなく、むしろ柔らかさすら感じる点が印象的だ。同じ形状でも、素材・色・質感の選び方でここまで印象が変わるのかと驚かされる。

↑Special Editionではブラックを基調としたカラーが選ばれた。一般に硬質になりがちな黒だが、素材選びや質感、角を少なくして丸みを持たせた形状といった工夫により、重苦しくなく柔らかさを携えた佇まいに仕上げられている
↑スタンドのポール部分の検討サンプル。色味はもちろんだが、ヘアライン、サテン調の粗さなど表面の処理によっても異なる表情となる
↑台座部分に用いられたスウェード素材も触り心地や起毛具合、色味などをいくつものサンプルを比較・確認しながら選定されたという

“使いたいときにすぐ使える”体験

一方、家庭用プロジェクターは、操作のストレスをなくすことも重要な要素。そこで、操作性やUXにももちろん力を入れた。ビジュアルプロダクツ事業部 VP営業部の黒木雄介氏はこだわりのポイントを次のように説明した。

初回起動時にはウィザード画面が設定を案内するため、初めて使う方でも迷わず使い始めることができます。本体を上に傾けると、リアルタイムで自動補正が働き、細かな設定なしで自然に投写できる仕様を採用しています

Special Editionではさらにワイヤレス充電を搭載。Qi充電に対応したスマートフォンを置くだけで充電が始まる体験が加わったことで、寝室での使い勝手が大きく向上している。

↑Lifestudio Flexシリーズは、プロジェクターだけでなく、アンビエントライト機能も持つ。さらにEF-73では、足元の台座部分にQi充電に対応したワイヤレス充電機能も搭載する

あえて“小さくしない”という選択──サイズへの思想

近年は小型プロジェクターが増えているが、Lifestudio Flexシリーズは小箱のような大きさであえて一定のサイズを確保している。これは小ささを追求するよりも“空間に置いたときの美しさと機能性の両立”を優先した判断。その理由を湊氏は次のように説明した。

インテリアとして成立させるためには、空間の中で落ち着いて見えるプロポーションであることが重要です。一方で、排熱構造や静音性を両立するには内部スペースが欠かせません。さらに、スピーカー容量が不足すると音質面にも影響し、大きすぎるとインテリア性が損なわれてしまうため、デザインと設計の両面から最適点をすり合わせていきました

↑ベッドルームでのEF-73の使用イメージ。アンビエントライト、スマホ充電、リラックスタイムのための映像機器という三位一体の一台だ

Lifestudio Flexは、「プロジェクターをどう使うか」ではなく「プロジェクターがある空間でどう過ごすか」を徹底的に考え抜いたシリーズ。さらに、スタンダードモデルでは“暮らしに自然になじむ”を追求する一方で、Special Editionは“空間価値を高める”を目標に掲げたモデルだ。Special Editionは、寝室でのリラックスタイムを大切にしたい人にとって、単なる映像機器ではなく空間を整えるための道具として魅力的な選択肢に映るだろう。

↑インタビューに答えていただいた、Lifestudio Flexシリーズの開発メンバー。セイコーエプソン ビジュアルプロダクツ事業部 VPデザイン部 川部源太氏、VP開発・企画設計部 湊 祥平氏、VP営業部 黒木 雄介氏

まとめ:インタビューを通じて著者が感銘を受けた「プロダクトの思想と哲学」

従来のプロジェクターは“映像を見るための機器”という位置づけでした。
それを“置いてあるだけで空間が美しく見える”、“片付ける前提ではなく、出しっぱなしでも成立する”というインテリアプロダクトとしての思想を徹底しました

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