空気が乾燥する冬には、肌の乾燥が気になります。とくに “手荒れ” は、よく目につくうえ、放置するとひび割れやあかぎれなどを引き起こし、痛みやかゆみを悪化させる可能性もあります。昨今では乾燥以外にも、ウイルス対策としてのアルコール消毒が、手荒れをますます悪化させる原因に。つらい手荒れを防ぐためのハンドケアについて、エステティシャンで美容ライターの寒川あゆみさんに教えていただきました。
角質と角質層の乱れが肌荒れを引き起こす
肌が乾燥するのは、水分と皮脂が不足して潤いがなくなっていることが原因です。この乾燥と密接な関係にあるのが表皮にある角質層。角質層のバリア機能が正常に働いていると、肌の水分を保ち蒸散を防ぐとともに、アレルゲンなどの侵入や外部刺激から肌が守られます。ところが、空気の乾燥やスキンケアを怠ってしまうことで、このバリア機能が低下してしまうのだと、寒川さんはいいます。
「皮膚を覆っている角質がうるおいを失ってめくれあがった状態になっていると、その隙間から紫外線や花粉などのアレルゲンが入り込みます。それが、肌表面に炎症を引き起こすのです」(エステティシャン・美容ライターの寒川あゆみさん、以下同)
また、アルコール消毒液などがしみて痛みをともなう場合も。これは、乾燥状態によって皮脂膜の分泌が少なくなる、角質層の乱れや炎症が原因だそう。
「角質層にあるバリア機能には陽イオン(+)と陰イオン(-)があり、このバランスが乱れバリア機能が低下することで、アルコール消毒液や外部刺激によって手荒れや『しみる』現象が起こるのです」
乾燥を加速させる3つのNG行動
乾燥による手荒れを進めてしまうNG行動には、以下の3つが挙げられます。
1.濡れた手にアルコール除菌をする
手洗い後、水分をそのままにしておくと乾燥の原因になります。そこにアルコール消毒液などを上乗せすることは、肌のバリア機能が低下しているところに追い打ちをかけるようなもの。
「手洗いの後は、必ず水分を拭き取ることが大事です。タオルなどで拭き取る際には、ゴシゴシと強く擦るのではなくポンポンと優しく叩くようにして丁寧に水分を取ってあげてください」
2.40℃以上のお湯で手を洗う、または水仕事をする
冬は寒いので手洗いや水仕事をするときには、お湯を使う機会が増えます。ですが、お湯は肌のうるおい成分が溶け出しやすいものなので注意が必要です。なるべく水かぬるま湯(40℃未満)を使うようにしましょう。
3.紙類、布類に触れたあとに保湿ケアをしない
紙類や布類も手の油分・水分をうばってしまうものです。適切な保湿ケアをせずに作業を続けたりすると、切り傷にもつながりかねません。
寒川さんによると、手袋も場合によっては手荒れを悪化させる原因になるのだとか。
「乾燥によって肌がささくれのように荒れている状態で手袋を着用すると、繊維が引っかかって余計に肌を痛めてしまう可能性があります。どの場合でも、手荒れ予防・悪化対策に大事なのは、こまめにハンドクリームなどで保湿をしてあげることです」
保湿成分配合のハンドクリームで乾燥対策
手荒れ予防に欠かせない保湿。真っ先に思いつくのはハンドクリームを塗ることですが、より効果的に保湿するためのハンドケアのポイント4つを寒川さんに教えていただきました。
ポイント1.乾燥前にケアをする
「手荒れ対策は、乾燥後ではなく乾燥し始める前に行うことが大切です。昨今では、新型コロナ感染予防で手洗いやアルコール消毒によって肌に刺激を与える頻度が増えたこともありますので、『ハンドケアは手がカサカサしてから』と思わずに、少しでも乾燥しているなと思ったらこまめに行うようにしてください」
ポイント2.化粧水で肌にたっぷり水分補給をする
「前述の通り、日常生活を送っているだけで肌は乾燥している状態だったりします。この状態だと、ハンドクリームを塗っても馴染みづらいので、まずは化粧水で肌にたっぷり水分補給をしてあげてください。そうすることで、ハンドクリームの保湿成分がより肌に浸透しやすくなります。肌が弱い人は、なるべくノンアルコールの化粧水を選ぶのことも肌への刺激を抑えるポイントです」
ポイント3.保湿成分のあるハンドクリームを選ぶ
「ハンドケアに使用するハンドクリームは、セラミドやヒアルロン酸、スクワラン、ホホバやマカダミアなどのオイル類など、保湿成分が入っているものを選ぶとよいでしょう。手の皺なども気になる人は、エイジングケアの効果があるレチノール成分が入っているものなどを選んでみてください」
ポイント4.手荒れが進んでしまったら、まずは傷の保護・ケアをする
「手荒れが進行して炎症したり傷のようになったりすると、化粧水やハンドクリームがしみて痛みをともないます。まずは、乳液やワセリンで患部を保湿・保護して、それから化粧水、ハンドクリームの手順でハンドケアをしてあげてください。しっかり傷を治療したい場合には、グリチルリチン、ビタミンなど抗炎症作用がある成分が入ったハンドクリームを選ぶのも効果的です」
朝の保湿は油分多めがポイント! 時間別ハンドケアでしっかり保湿
何かと忙しい朝には、ハンドケアをせずに済ませてしまうこともあると思います。ですが、実は朝こそ保湿をしておくべきだと、寒川さんは言います。
「外を出歩くことが多い日中は、紫外線やウイルスなどの外部刺激が多いので、長時間うるおいがキープできるよう、油分の入ったハンドクリームを朝に塗布することをおすすめします。たるみやシミ、シワなども気になる人は、紫外線対策としてUVカット効果があるものを選んでください」
夜には、朝までうるおいをキープできるよう時間をかけたハンドケアをしてあげましょう。
「化粧水でたっぷり水分補給をしてからハンドクリームを塗ると、寝ている間にうるおいが肌に浸透していきます。ハンドクリームは、さらりとしたものよりこっくりタイプを選んで、たっぷりと塗り込むことで、翌朝までしっとり感をキープできます」
もしも、あかぎれ・ひび割れになってしまったら……細胞の再生を促す「EGF」とは?
日常的にハンドケアを行っていても、手荒れが酷くなって「ひび割れ」や「あかぎれ」になってしまうことも。ひび割れは皮膚が乾燥し亀裂が入ってしまう状態、あかぎれは肌表面のガサつきやひどい荒れ、出血などをともなう状態のことで、それぞれかゆみや痛みも引き起こします。
「出血と痛みをともなう『あかぎれ』の対処法で、絆創膏を思い浮かべる人は多いでしょう。傷口を一時的に保護する分にはよいですが、長時間貼ったままだと角質がふやけてしまい傷口の修復が遅れてしまうので、長くても1日で交換することをおすすめします」
これらの対処法のひとつとして、寒川さんが最近注目しているのは「EGF」という上皮細胞の再生を促進させるタンパク質。肌や唾液、母乳などにも含まれており、ケガをしたときに傷口をなめると比較的治りが早くなるといわれている理由もこのEGFが作用するためです。
「EGFは1962年にアメリカの生物学者スタンレー・コーエン氏によって発見され、ノーベル生物学賞を受賞した成分です。肌の再生などの治療における有効性が認められて、これまでに皮膚再生医療の分野で使用されてきましたが、当初は非常に高価だったため一般的には使用されず、軍など限られた機関のみの利用でした。遺伝子工学の発展にともない、今では大量生産されるようになり、日本でも2005年に厚生労働省より化粧品への配合が認められました」
EGFには、次の3つの効果があります。
・新陳代謝を活発にする
・美肌効果がある
・傷の治りを早める
そのため、ひび割れやあかぎれの傷口の治療にも有効的だといえるのです。
「EGF配合のハンドクリームがあれば、それを塗るのが望ましいです。ですが、今はまだハンドクリームに配合されていることが少ないので、EGF配合の化粧水や美容液を塗布した後、ハンドクリームやワセリンなどでのケアが身近でしょう。傷薬を塗布して対処する人もいると思いますが、ひび割れ・あかぎれともに基本的な原因は乾燥ですので、『保湿』も忘れないようにしてください」
また、2月~4月に飛散ピークを迎える「花粉」も手荒れの原因になるのだそう。
「飛散している花粉は肌にも付着します。肌のバリア機能が壊れていると、表皮に花粉が入り込んでアレルギー反応による手荒れを引き起こす可能性もあります。外出先から戻ったら、まずは手洗いでしっかり花粉を肌から落としましょう。そのうえで保湿をすることで、正常なバリア機能に立て直すことができます」
手荒れの予防対策は難しく考えず、まずは「手洗い」、それからしっかりと水分を拭き取った上で「保湿」をすること、と寒川さん。この手順を意識し、日常的にケアしていきましょう。
プロフィール
エステティシャン・美容ライター / 寒川あゆみ
大阪 谷町九丁目 エステティックサロン private salon Laule’a 代表。サロン業のほか、美容ライターとしてWEBメディアへの記事執筆、専門学校、企業向けにレッスンなど美容家としても活動中。自身が20代半ばまでニキビ肌に悩んだことやダイエットなどに興味を持ったことから美容・エステティックの道へ。個人サロンを運営しながら、「美容をもっと近くに」「美容をもっと楽しく」「なりたい自分になるために」を軸に発信している。
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