インターホンで感染症の流行がわかる!? なぜパナソニックは“共有端末”をメディアに選んだか

ink_pen 2026/8/26
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インターホンで感染症の流行がわかる!? なぜパナソニックは“共有端末”をメディアに選んだか
畑野壮太
はたのそうた
畑野壮太

元ゲットナビ編集部員のフリーライター。"体験を分かりやすく言語化する"を信条に、アイテム、イベントなど、オールジャンルに取材を行う。また、自身のアイテムレビューサイト「reviewfun」も運営している。

スマートフォンは、現代において最大のメディアといっても過言ではないだろう。その画面には、ニュースや広告、動画、SNSの書き込みなどを通じて、日々さまざまな情報が届く。そしてそのデバイスを、ほぼ全ての人が持っている。そんな時代において、パナソニック エレクトリックワークス株式会社(以下、パナソニック)が「暮らしのメディア」として活用しようとしているのが、マンションの各住戸に設置されたインターホンだ。

2024年4月にGetNavi webでも紹介した「まちベル」は、近隣店舗の広告やクーポンを届けるサービスとして始まった。それから約2年。現在は地域や生活に関する情報に加え、感染症の流行予測まで配信するサービスへと領域を広げている。同社はなぜ、インターホンをメディアの起点として選んだのか。「まちベル」のこれまでと現在から、その狙いを探る。

地域広告から「くらしのメディア」に変貌した「まちベル」

「まちベル」は、マンションの各住戸に設置されたインターホンへ、広告や地域・生活情報を直接届ける情報配信サービスだ。居住者は無料で利用でき、情報は朝9時と16時の最大1日2回配信される。届いた情報はその場で確認する必要はなく、「お知らせ」の一覧から好きな時間に閲覧できる。現時点で対応するのは、インターネット接続に対応したマンション向けインターホン「Clouge(以下、クラウジュ)」だ。

↑パナソニックのインターホン「クラウジュ」

パナソニックは、マンション向けインターホンの国内大手でもある。2024年の前回取材時には、担当者が同市場で約50%のシェアを持つと説明していた。新たな情報端末を一から各家庭へ普及させるのではなく、同社が長年手がけ、暮らしの動線上に設置されているインターホンを情報の入り口として活用する。これは、その大手メーカーである同社だからこそ生まれた発想ともいえる。

2024年4月の正式リリース時、主な配信内容は、マンション近隣の店舗や商業施設による広告やクーポン、新店・イベント情報などだった。新聞折込の減少や、ポスティングを禁止するマンションの増加によって、地域の事業者が住民へ情報を届けにくくなるなか、住戸内の画面を新たな広告媒体として活用したわけだ。以前の記事では、そんな「地域の広告媒体」としての可能性を紹介した。

そのサービスは、2025年8月にアップデートされ、広告に加えて、自治体からのお知らせや防災、子育て、地域イベント、ライフハックなどのコンテンツを扱うようになった。それとともに、パナソニックが掲げる「まちベル」の位置づけも「地域情報コミュニケーションサービス」から、暮らし全体を豊かにする「くらし情報サービス」へと変わった。地域の店舗へ足を運ぶきっかけをつくるだけでなく、日々の生活に役立つ情報を届ける。「まちベル」は広告の配信面から、暮らしに寄り添うメディアへと役割を変えようとしている。

↑「まちベル」で配信された地域のイベント情報。画面には画像が表示されているが、これを切り替えるとテキストによる説明も表示される。また、QRコードを配信し、スマートフォンから別のページを閲覧するよう誘導することも可能だ

なぜ、インターホンなのか?

スマートフォンであらゆる情報を受け取れる時代に、なぜインターホンを活用したのか。両者の大きな違いは、スマホが基本的に個人の端末であるのに対し、インターホンは家族全員が同じ機器を使う「共有端末」であることだ。

「クラウジュ」は、子どもから高齢者まで使いやすい操作画面を備え、玄関やリビングなど日常の生活動線上に設置されている。新たなアプリや専用端末の存在を家族一人ひとりに認知してもらわなくても、来客対応などで普段から触れる画面に情報を届けられる。インターホンは、個人の関心や利用習慣に左右されやすいスマホとは異なり、年齢や性別を問わず、家族全員にリーチできる端末なのだ。

とはいえ、生活空間に広告や情報が届くことを、わずらわしく感じる人もいる。そこで「まちベル」が重視しているのが、情報を強制的に見せないことだ。情報が届いても画面を開くかどうかは居住者に委ねられており、必要なときに自分の意思で確認できる。

↑トップ画面からお知らせ一覧に遷移すると「まちベル」で配信された情報が表示される。新着時の通知に関しては、新たなお知らせが届いていることのみが小さく知らされるため、大きく目立たない

この距離感は、利用者にも受け入れられているようだ。2025年にパナソニックが実施したアンケートでは、回答者267人の約97%が今後も利用したいと答えた。また、地域情報や地域広告、広域広告といった配信内容についても、それぞれ8割以上が好意的に評価しているという。

スマホは、個人向けにパーソナライズされたたくさんの情報を、素早く届けることに長けている。一方のインターホンは、家族の生活空間に、その地域で暮らす人に必要な情報を静かに置いておける。「まちベル」が目指しているのは、スマホの代わりになることではなく、スマホとは異なる情報との接点なのだ。

感染症の流行予測で「行動につながるメディア」へ

その「まちベル」が今夏から新たに扱い始めたのが「こころとからだの健康」に関する情報だ。その第1弾として、2026年7月から東京都、8月から大阪府で、感染症流行予測コンテンツの配信実証を行っている。実証期間は6か月を予定する。

採用されたのは、東北大学と株式会社J-sysの共同研究事業で開発された感染症流行予測システムだ。このシステムはすでに自治体や病院でも導入・活用されており、信頼性も申し分ない。「まちベル」に導入されるサービスでは、自治体などの情報に基づく感染症流行の「警報」「注意報」に加え、AIが感染症の増加または減少傾向を予測し、病名や対象地域とともにインターホンへ表示する。より詳しい情報は、画面に表示されるQRコードを、スマホでスキャンすることで入手できる。

↑感染症流行情報の画面。警報、注意報とともに、病名が示されている。なおこれらの情報は、居住する都道府県に対応したものが表示される

健康情報のなかでも感染症が選ばれた背景には「まちベル」の利用者層がある。利用開始時のアンケートによると、利用者の88%はファミリー世帯であった。そのような世帯では、保育園や学校で感染症にかかった子どもから家庭内へ広がるケースが多い。また、高齢者が感染症にかかると重症化するリスクが高い。子どもから高齢者までが利用するインターホンと、感染症情報は相性がよいと判断したという。

ただし、パナソニックが目指しているのは、感染症の流行を知らせることだけではない。本当の狙いは、情報を目にした居住者に、手洗いやマスクの着用、人混みを避けるといった予防行動を促すことにある。

同社が実証実験開始に先駆けて開催した発表会では「雨の天気予報を見て傘を用意するように、感染症の情報も日常的に気にして、警報が出ているときには予防をしてもらいたい」との説明があった。地域広告を見て近隣の店舗へ出かけることも、感染症情報を見て手洗いを徹底することも、情報を実際の行動につなげるという点では共通している。「まちベル」は、単に情報を届けるだけのサービスから、暮らしのなかに小さな変化を促すメディアへ進化しようとしている。

野心的な目標から垣間見える、パナソニックの自信

パナソニックは「まちベル」の導入拡大に向けて、野心的な目標を掲げている。2026年6月時点では東京都内の5エリア、約4500世帯で展開しているが、同年度中には大阪、神奈川、千葉にも導入地域を広げる計画だ。さらに、2027年度に1万世帯、2030年度には10万世帯への普及を目指している。

↑「まちベル」のこれまでの成長と、今後の導入目標数(パナソニックの発表資料より)

一見すると高い目標にも思えるが、その導入先は新築マンションだけを対象にしているわけではないため、普及の余地は広いといえる。マンションのインターホンはおよそ15年を目安に更新されるので、そのタイミングで対応機種の「クラウジュ」が採用されれば、既築物件にも「まちベル」を導入できるのだ。日本国内の新築市場は縮小しているのが現実だが、その一方で好調なリニューアル需要を取り込めるという見込みが、同社の自信を支えている。

高い導入目標を掲げる背景には、電気設備を販売して終わるのではなく、導入後もサービスを提供し続ける事業へ転換したいという狙いもある。パナソニックはこれを、顧客とつながり続ける「循環型ビジネス」と位置づけている。インターホンというハードを起点に、広告や地域情報、健康情報を継続的に届ける「まちベル」は、その考えを象徴するサービスのひとつだ。

もちろん、導入世帯を増やすだけで「まちベル」が「暮らしのメディア」として定着するわけではない。居住者が継続して画面を開きたいと思える情報を選び、地域や生活に合わせて届け続けられるかが重要になる。

「まちベル」が目指すのは、スマートフォンに取って代わることではない。個人のスマホに情報が集中する時代だからこそ、家族が共有し、地域との接点を持つための情報の入り口を暮らしのなかにつくることだ。来客を知らせる設備だったインターホンは、日々の発見や行動を生み出すメディアになれるのか。感染症流行予測の配信は、その可能性を測る新たな一歩になりそうだ。

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