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2022/7/12 19:00

「組織のネコ」とは? 楽天大学学長に聞く、組織の中で自分らしく働く処世術

あなたは、今の“組織”で無理せず、楽しく働けている……?「楽天市場」出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立し、社内で唯一、兼業・勤怠自由のワークスタイルを確立した正社員として知られる仲山進也さん。リモートワークや副業など、新しい働き方のスタイルが模索されている時代に、組織の“イヌ”ならぬ、組織の“ネコ”という働き方を提案しています。これからの自分にはどんな働き方が合っているのか、そんな疑問を持つすべての人に読んでほしいのが、『「組織のネコ」という働き方』。ブックセラピスト・元木忍さんが聞き手となり、同書に込められた“自分らしく働く”術を、著者である仲山さんにうかがいます。

 

『組織のネコという働き方 「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント』
1760円/翔泳社

楽天という大企業にいながら兼業自由・勤怠自由の正社員となった著者が説く、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、主に組織の「ネコ・トラ」として幸せに働く方法を紹介する。

 

自由な働き方の定義をちゃんと言語化したかった

元木忍さん(以下、元木):私たち現代人が“自由に働く”って、具体的にどういうことなのか? 仲山さんの著書『「組織のネコ」という働き方』は、それをすごくわかりやすく、なおかつ面白く教えてくれる本だと思いました。今の時代、“自由に働く”というと、自分のやりたい仕事だけをやってイヤなことはしないとか、独立・起業して組織に属さないとか、そんな働き方ばかりがイメージされがちですよね。

 

仲山進也さん(以下、仲山):はい。わがまま放題、好き勝手に仕事ができるというニュアンスだけで“自由な働き方”をとらえてしまうケースは、よくあると思います。

 

元木:ユニークな本書が生まれた背景は、そのあたりにありそうな気がします。

 

仲山:そうですね。僕は社員20人程度だったころの創業間もない楽天に入社して、2000年に「楽天大学」という出店者同士の学び合いの場を設立しました。その後、社内で唯一の「兼業自由・勤怠自由の正社員」という働き方になって、「会社に行っても行かなくてもOK」というプレースタイルを2007年から続けています。

 

「自由に働く=好き勝手やっている」と思われがちなのに引っかかりを感じたことが、この本の出版につながったと話す、著者の仲山進也さん。

 

元木:楽天って規律はわりと厳しい会社ですよね。そんな中で自由に働ける人は珍しいのでは?

 

仲山:そうですね。社内で「仲山は自由でいいよな……」みたいに言われることもあったのですけど、モヤッとしたのを覚えています。「自由でいいよね」の言外に、「こっちはちゃんと働いているのに、好き勝手やれていいよね」というニュアンスをなんとなく感じたからかもしれません。

 

元木:まるでちゃんと仕事をしていないと言われているような……。

 

仲山:自分では「好き勝手」にやっているとは思っていないので、僕のような働き方がどうしたら「変人」に見えないようになるか、“自由な働き方”を言語化したいというのが本をつくった背景にあります(笑)。

 

組織のネコという選択肢がある

元木:そして数年を経てたどり着いた答えが、“組織のネコ”という働き方だったわけですね。本書には自分が組織のネコ派か、イヌ派かを診断できるチェックリストがついていますが、これは面白いです。勤め人を経て独立した私はやっぱり、100%ネコでした(笑)。簡単にいうと、組織から与えられた職務を忠実に遂行するのが得意なのはイヌ。逆に、組織の指示命令が自分の価値観に反する場合は自分の考えややり方を大切にしようとするのがネコ……といったところでしょうか。

 

組織の動物4タイプ。ネコはトラに憧れ、イヌはライオンに畏怖の気持ちを持つ……。4種類の動物の相性、関係性をわかりやすく示した図。

 

 

仲山:元木さんのように10項目すべてが当てはまって、組織を出て独立したような方は、“ネコ道”まっしぐらですね(笑)。逆にあまり当てはまらなかった方は、組織のイヌとして“イヌ道”を進んでいけばよいと思います。ネコがよくて、イヌがダメということではなく、“違い”があるだけのことなので。よいのは“健やかなイヌとネコ”で、よくないのは“こじらせたイヌとネコ”ですもし10項目のうちひとつでも当てはまるものがあって、なおかつ今の仕事や職場に問題やモヤモヤを感じているならば、この先ずっと同じ働き方だと健康によくない可能性があります。こじらせちゃう。

 

元木:仲山さんご自身はやはりネコですよね?

 

仲山:そうなんですが、大学を卒業して就職した最初の会社では、言われた仕事を言われた通りにやっていました。 “イヌの皮をかぶったネコ”状態。

 

元木:たしかに、その働き方は不健康な感じがします。

 

仲山:この本にも登場するレオス・キャピタルワークスの藤野英人さんがおっしゃっているのですが、今の日本企業には2タイプあって、“令和4年型企業”と“昭和97年型企業”に分かれると。高度経済成長期に急成長を遂げたけれど、事業や組織の賞味期限が切れかけていて、すでに時代に合わなくなった社内文化を引きずったまま今に至っているのが“昭和97年型企業”です。

 

元木:つまり後者の企業は、平成の間に何も変われなかったということですか。

 

仲山:その通りです。月曜日の朝がくるのが憂鬱だったり、正月や連休明けがツラくて仕方ない会社員の多くは、昭和97年型の企業で“イヌの皮をかぶったネコ”として働いている人ではないかと思います。昭和まではイヌの皮をかぶって会社の言うことさえ聞いていればみんなハッピーに暮らせたんです。でも賞味期限が切れかけてくると、それまでと同じことをやっていても同じ結果が出なくなり、もっと無理してがんばることで数字をつくろうとしがちになります。それによって健やかさが失われて、こじらせた人や精神を病む人が増えていくという……。

 

元木:あると思っていたレールの先がなくなってしまった……ということですかね。

 

仲山:もともとネコな人がイヌのふりをしている状態は、本来の性質に合っていない。でも、「働くとは組織のイヌとしてふるまうこと」と思い込んでガマンしながら働くも、結果が出ないのでしんどくなっていきます。そんな人たちに、「組織のネコ」という働き方の選択肢もあると伝えたいんです。楽天市場の出店者さんでも、“イヌの皮をかぶったネコ”な店長さんが、楽天大学で“ネコまっしぐら”な店長さんたちと出会って、思い切って自分を出してお客さんと接するようになると、売り上げが上がったり「仕事が楽しい」と思えるようになったりするんです。身近な人がそうやって変化していくのを見た別の店長さんが、「私にもできるかも!」という気持ちになって、実際に変わっていくということがよくあります。

 

元木:なるほど。そのあたりに、昭和97年型企業が変わっていくチャンスもありそうですよね。そういう“ネコな人”あるいは“ネコな自分を取り戻した人”が成功体験を重ねていくと、そのうち仲山さんのように仕事を心から楽しむ“トラ“になれるってことでしょうか?

 

仲山:この本では、組織にいながら自由に働いて成果を出していく人のことを“組織のトラ”、“トラリーマン”と呼んでいます。さっき話に出た藤野さんが名付け親です。その藤野さんに「仲山さんはトラですね」と認定していただいたのですが、自分ではわかりません。トラになれるかどうかは周囲の評価かなと思います。一方の“ライオン”は組織を統率する従来型の企業エリートですから、肩書に「長」がついているわかりやすい存在です。ぼくが出会ったトラっぽい人たちは、肩書に「長」がついている人もいれば、その人のためにできた肩書がついている人、肩書は平凡な人など、いろいろなパターンがありました。

 

100%ネコ派のタイプだけれど、企業に勤めていた時は“イヌをかぶって”いたこともあった……という元木忍さん。

 

こじらせたイヌ・ネコになっていないか?

元木:逆に、“こじらせたイヌ・ネコ”の人は、これからの時代どうしたらいいのでしょう?

 

仲山:“こじらせている”とは、たとえば、ネコであれば最初の話にあったような自由の意味を履き違えているタイプ。組織で大切なことに対して「なんでやらなきゃいけないんですか」「やりたくありません」などとわがままを言う状態ですね。こじらせたイヌは、指示されたことしかやらず、思考停止してしまっているパターンです。それが極まると、不正を指示されたらそのままやってしまう、というようなことが起こってしまいかねません。

 

元木:イヌにしてもネコにしても健やかでいるのが大事ということですね。ちなみに、“ネコの皮をかぶっているイヌ”というのもいたりしますか?

 

仲山:本には書いていないのですが、いると思います。いわゆる“意識高い系”って揶揄されるようなタイプの人が、イヌなのに「私は自分の価値観を大事にしています」と言っているケースとか。「うちの会社はイケてない」と言いながら、自分で変化を起こそうとするわけではなく、「早くこんな制度をつくってくれたらいいのに」と他人のせいに思っているような。

 

元木:あぁ……なんとなくわかります。自分がどっちのタイプか見極めるのは、実は難しい?

 

仲山:賢い人ほど自分をごまかせてしまいますからね。でも着ぐるみを着て運動したら効率が悪いのと同じで、本来の性質と違うふるまいをしていたら、そのうち必ずパフォーマンスや成長に悪影響が出てくると思います。そういうとき、「無理していないかな?」と立ち止まって、ふりかえりをできることが大事です。

 

世の中には、“イヌの皮をかぶったネコ”な自分に気づいていない「隠れネコ」がまだまだたくさんいるという。イヌとネコ、あなたはどちらだと思いますか?

 

“他由”で選んでいないかを自分の心に聞いてみる

元木:ここで最初の“自由に働く”という話に戻りたいのですが、ネコだから自由、イヌだから不自由というわけではないんですよね。

 

仲山:そうです。自由とは“自分に理由がある”ことだと考えています。対義語は“他由”(造語)で、指示されたからやっている、というのが他由で動いている状態です。

 

元木:他由ですか。なるほど。

 

仲山:自分の欲求で動いていても“他由”な場合があります。たとえば頑張って稼いで高級ブランドのバッグを持ちたい、という動機が、“他人からチヤホヤされること”だったら、それって他人に理由がありますよね。逆に人から言われた他由な仕事であっても、自分で解釈して意味を感じられる状態に転換できたら、それは “自由”な仕事といえます。

 

元木:そういう“自由”な選択ができる健やかなイヌとネコがいる組織は、いいものを生み出せそうですね。

 

仲山:イヌとネコは得意な仕事が異なります。ネコは新しい価値を生み出すのが得意で、イヌは業務を改善しながらきちんと回していくのが得意。トラ・ネコ派が立ち上げたスタートアップがある程度軌道に乗ったら、今度は業務をちゃんと回していけるイヌ派の人が転職してきて活躍するというケースはよくあると思います。

 

元木:もうひとつこの本のいいところは、他者との違いを理解して、人に優しくなれることだと思います。とくに私の場合は、若い人との付き合い方、コミュニケーションの取り方で参考になる部分が多いと感じました。

 

仲山:“強みを活かす”ってよく言われるじゃないですか。これって言い換えると“他者との違いを活かす”ことなので、旧来型の組織が社員に対してやってきた“凹を埋める”というやり方だけでは、強みは活かせないんですよね。決められたことを指示通りこなすことはできない、その代わり得意なことで価値を生み出す、という“組織のネコ”が増えていくと、今後は評価の仕方も変わってくると思うんです。このあたりは、次の本のテーマとして考えています。

 

元木:それも楽しみですね。発売したら、またぜひ紹介させてください!

 

『「組織のネコ」という働き方』とあわせて読みたい、仲山さんの著書。

 

【プロフィール】

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長 / 仲山進也

北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。