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2021/11/22 20:00

ヨーロッパ主導で始まり新世代によって変貌を遂げる「南アフリカワイン」の歴史と注目ワイナリー

自宅でワインを楽しみたい、できれば産地や銘柄にもこだわりたい、ワインを開けて注ぎ、グラスを傾ける仕草もスマートにしたい……。そう思っても、基本はなかなか他人には聞きにくいもの。この連載では、そういったノウハウや、知っておくとグラスを交わす誰かと話が弾むかもしれない知識を、ソムリエを招いて教えていただきます。

 

「ワインの世界を旅する」と題し、世界各国の産地についてキーワード盛りだくさんで詳しく掘り下げていく当連載は、フランスをはじめとする古くから“ワイン大国”として名を馳せる国から、アメリカなどの“ワイン新興国”まで、さまざまな国と産地を取り上げてきました。最終回となる今回は、南アフリカのワイン。寄稿していただくのは引き続き、渋谷にワインレストランを構えるソムリエ、宮地英典さんです。

 

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第1回 :フランス 第2回:イタリア 第3回:ドイツ 第4回:オーストラリア 第5回:アメリカ
 第6回:ニュージーランド 第7回:日本 第8回:チリ 第9回:スイス 第10回:スペイン&ポルトガル

 

南アフリカワインを旅する

アフリカ大陸の南端に位置する南アフリカ共和国。主要産地であるケープタウン近郊は、雄大な自然に囲まれ、“世界中でもっとも美しいワイン産地”のひとつとして数えられます。

 

この国におけるワイン造りの歴史は、オランダの東インド会社の入植とともに始まりました。初代総督ヤン・ファン・リーベックの1659年2月の日誌には、こう記録されています。「今日、神を賛美します。ケープのブドウから最初のワインが造られました」。

 

19世紀前半、イギリスがケープタウン周辺を支配下に治めてから、酒精強化ワインやブランデーはイギリスに輸出されるようになりました。そして害虫フィロキセラがヨーロッパに蔓延した19世紀半ばに、南アフリカワインはヨーロッパ中で消費され、大きな市場をつかむことになります。現在のヨーロッパ・スタイルの味わいの基礎を形作ったのも、この頃だと考えられます。

 

ところが、フィロキセラ禍から立ち直ったヨーロッパは輸入ワインに頼る必要がなくなり、20世紀に入ると、南アフリカではブドウの余剰問題が深刻化することになります。そして20世紀を通じて南アフリカのワインを統制する役割を担った“KWV”=南アフリカブドウ栽培者協同組合が設立されました。KWVは、現在に通じる豊かな自然環境の保護やワイン法の制定、ブドウ畑の登録制度など、現代南アフリカワインの礎を築いた側面と、厳しい統制によって生産者の創意を長く委縮させたという、功罪を併せ持つ存在でした。

 

大きなターニング・ポイントは、1991年にアパルトヘイト政策が廃止され、1994年にネルソン・マンデラ政権が誕生したことです。国際的な孤立から解放された南アフリカワインは輸出拡大へと舵を切り、ヨーロッパのワインを知った若手世代は、次々に新しい個性的なワインを産み出すようになりました。アパルトヘイト時代に比べると輸出量は20倍以上にもなり、ワイン生産量で世界第8位のワイン大国に変貌を遂げました。つまり、南アフリカのワインの新しい歴史は、ほんの四半世紀前に始まったばかりなのです。

 

これから期待される南アフリカの社会の進化、有色人種の権利拡大は、より一層の変化を南アフリカワインにもたらしてくれるのではないでしょうか。

1. コンスタンシア
2. ケープタウン
3. ステレンボッシュ
4. ケープ地方スワートランド
5. ケープ・サウス・コースト、ウォーカー・ベイ

 

1. ケープタウン郊外 コンスタンシア
− “南アフリカワイン”をヨーロッパに知らしめた伝説の甘口ワイン −

ケープタウンは、南アフリカに3つある首都のひとつ。ポルトガルの航海者、バルトロメウ・ディアスが発見した喜望峰を抱える都市です。東インド会社の入植後、初めてワインが植えられたのもケープタウンでした。そして18世紀後半にケープタウン南郊のコンスタンシアで小粒のマスカット「ミュスカ・ド・フロンティニャン」が主体となった遅摘みの甘口ワイン「ヴァン・ド・コンスタンス」が生まれます。当時、まだ砂糖が上流階級向けの嗜好品だった時代に、「ソーテルヌ」や「トカイ」といった甘口ワインと並んで、ヴァン・ド・コンスタンスはヨーロッパに南アフリカワインを知らしめ、王侯貴族に愛されました。顧客リストにはヨーロッパだけではなく、ジョージ・ワシントンやトーマス・ジェファーソンといった名前が並び、かのナポレオンもセント・ヘレナに幽閉されてなお、ヴァン・ド・コンスタンスを愛飲したと伝えられています。

 

ところが、この伝説の甘口ワインはフィロキセラの被害に遭い、一度は生産が途絶え、ワイナリーは幾度となく所有者が変わります。そして20世紀後半、クライン・コンスタンシアの所有者となったダッジー・ジョースト氏がワイナリーを復活させ、1985年に新しいヴァン・ド・コンスタンスのファースト・ヴィンテージをリリースしました。18世紀から19世紀にかけて、南アフリカワインを代表する名声を獲得したこのワインの再生は、国内外で大きな話題を呼び、現在に至ります。

 

乾燥させた小粒のマスカットから造られ、創出当時のゆがんだボトルを模した500mlのボトルに詰められたワインは、蜂蜜や桃のような豊かな甘みと、複雑さを演出するスパイスのニュアンスに加え、南アフリカワインの長い歴史を含んだ素晴らしい味わいを楽しませてくれます。

 

Klein Constantia(クライン・コンスタンシア)
「Vin de Constance2016(ヴァン・ド・コンスタンス2016)」
1万2000円
輸入元=ラフィネ

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