日本代表は惜しくも決勝トーナメント初戦で敗退したものの、“過去最強布陣”で沸かせたFIFAワールドカップ2026。同大会の公式スポンサーであり、VARのレビュー用モニターを提供するなど大会を強力にバックアップしたのが、家電メーカー大手のハイセンスだ。
日本市場に製品を投入したばかりの“RGB MiniLED”は最先端のバックライト技術であり、同社が世界初で実用化。リーディングカンパニーとして“Origin”を自負する。今回は、その開発力と製造技術、さらに世界と日本におけるマーケティング戦略を、本拠地である中国・青島(チンタオ)で取材した。
この前編では、「RGB MiniLED」の仕組みと、現地で見た研究開発と製造のハイライトをレポートする。
目次
躍進するハイセンスの“次”を占うRGB MiniLEDとは何か?
ハイセンスは、グローバルでの売上が2025年に5兆円(2244億元)に達した、大手家電メーカーだ。なかでもテレビ事業は日本市場においても強い存在感を放っている。
2025年にはレグザ、アクオスに続くシェア第3位、直近の2026年第一四半期ではいよいよ第2位へと躍り出た。しかも首位のレグザはハイセンスの傘下ブランドとなっており、ハイセンスグループで実に4割を超えるシェアを確保したことになる。

そのハイセンスが日本市場で現在、フラッグシップに位置付けるのが、2026年5月に満を持して日本発売となった「RGB MiniLEDテレビ」。この“RGB MiniLED”とは何か、簡単におさらいしておこう。
従来単色で発光していたバックライトのLEDに、赤・緑・青(RGB)の3色の発光体を内蔵。それぞれを独立して駆動し光源自体から色を生成することで、より純度の高い、美しい映像を再現できる仕組みだ。
この技術を搭載したハイエンドモデルが、日本市場では今年5月に発売したRGB UXSシリーズ。ちなみに、2026年のCESでは、早くも次世代機として、Red・Green・Blueに加えスカイブルーシアン第4色LEDをバックライトに導入した「RGB MiniLED evo」をお披露目している。

今回、このRGB MiniLEDテレビの製品特性、マーケティング戦略などを本社幹部にインタビューし、R&Dセンターや製造工場を見学する機会を得て、中国・青島を訪れた。

【R&Dセンター】直下型・MiniLED・RGB MiniLEDの構造とメカニズムを比較
青島で訪れた関連施設のうち、R&Dセンターではまず、RGB MiniLEDの優位性を、同社従来のMiniLED/同社従来の直下型LEDと比較しながら確認できた。

パネルを外しバックライトを露出した状態で、RGB MiniLED、MiniLED、直下型LEDのデモボード(100インチ)が並んでいる。各上はその完成品。

・直下型LED
液晶パネルの背後に光源となるLEDを配置する方式。LEDのサイズが比較的大きく、同じ面積に設置できる光源数が限られる上、光を拡散するレンズによってディスプレイ全体が厚くなる。現在ではコスパ重視のエントリーモデルに採用される。

・MiniLED
同じく、直下型で、青色LEDをフィルターで白色に変換した上でカラーフィルターによって着色する仕組み。従来のLEDより小さなLEDを高密度に敷き詰めることで、きめ細やかに制御でき、高コントラストで高精細な映像を表現できる。最新のハイスペックな液晶テレビに採用されている。

・RGB MiniLED
先述の通り、LEDに赤・緑・青(RGB)の3色の発光体を内蔵。それぞれを独立して駆動し光源自体から色を生成する。


横並びで配置された3色の発光素子が独立して発光している様子がわかる。上部は、青や白の映像が表示されているエリアのため、RGBが均等、または青が強く発光している。一方、下部は、黄色や緑の映像が表示されているエリアのため、赤と緑の素子を強く発光させ、バックライトの段階で「黄色」を作り出している。
この3種で同時に同じ映像を再生したのが下の写真だ。バックライトのみの状態では、左の従来LEDと右のMiniLEDは光源のサイズなどは異なるものの単色で光っているのに対し、中央のRGB MiniLEDは、バックライトの段階ですでに最適な「色」と「明るさ」のベースが作られていることがわかる。


日本のユーザーが重視する肌の質感などの微妙なニュアンスも、濁りのない正確な表現力で描き出せることが見てとれるだろう。
このRGB MiniLEDについて説明してくれたR&Dセンターの研究者は、「RGB MiniLEDは、最高で最良のディスプレイ技術」と話した。それは「ハイセンスは、アメリカのCTA(Consumer Technology Association:全米民生技術協会)という機関と連携し、業界で初めてこのディスプレイ技術の規格を策定・定義したから」だという。
「『一流の企業は基準をつくる』と言います。今回のCTAの規格策定に参加したことで、ハイセンスは、テレビ業界における単なる”フォロワー”から、“リーダー”もしくは“チェンジャー”へと進化したと捉えています」とも話し、次世代のディスプレイ市場を見据えた明確な戦略がうかがえる。この戦略について深掘りすべく、記事後編では本社に場所を変え、幹部にインタビューを敢行した。
ここではその前に、同じくR&DセンターでRGB MiniLEDの実用化にも貢献した研究開発施設を見ていこう。
【R&Dセンター】製品開発を支える各種試験設備とその役割とは?
青島のR&Dセンターでは、研究施設の一部も見学することができた。写真とともにレポートする。
ここでは、4つの試験室を見学した。ちなみに試験とは、研究や技術開発が目的で、生産ラインで製造された製品の検品や品質チェックとは異なる。
1か所めは、周囲を黒い遮光カーテンで覆った、多軸駆動型の配光測定システムを導入した試験室だ。テレビやディスプレイの画質性能や、RGB MiniLEDをはじめとする新技術の評価のために使われる。

黒の黒さやコントラスト比、色域などを正確に評価できるほか、画面を正面から見たときと斜めから見たときで、画質がどのように変化するか、また場所によって明るさや色にムラ(輝度ムラ・色ムラ)がないかをポイントで検証できる。

2か所目は、EMC=Electro-Magnetic Compatibility(電磁両立性)試験用の実験室だ。

ここではテレビが不要な電磁波を発していないか、また静電気や雷サージ、電源ノイズなどの外部要因を受けても正常に動作するかを検証している。

3か所目は、音響試験室。外部からの騒音を完全にシャットアウトし、さらに室内での音の反射をゼロに近づけるための特殊構造をもつ完全無響室だ。

蛍光灯の反射板を含め、壁面・天井全面の表面がパンチングメタル。その内側に吸音材が詰められている。また、床は全面グレーチングで、その下部に吸音材を貼ったもうひとつの床が見える。

この試験室では、次の2点をチェックしている。まずは、テレビに内蔵されたスピーカーが、低音から高音までの全帯域でバランスよく、歪みなく出力できているか。音の指向性を評価したり、サラウンドの効果測定を行ったりしている。
そして、本体から微細なノイズが発生していないかの検出も行う。美しい音響が狙い通り発揮され、無駄な音に邪魔されていないことは、プレミアムな視聴体験に不可欠な条件だろう。
音響については、最新のRGB MiniLED搭載モデルの上位機種に搭載された、デビアレ製オーディオシステムについても、検証が欠かせない。
【R&Dセンター】「デビアレ」のオーディオシステムを再現する意外な仕組み
RGB MiniLED製品の100インチ・85インチモデルには、フランスのオーディオブランド「Devialet(デビアレ)」と共同開発したサウンドシステムを搭載している。
フラッグシップスピーカー「ファントム」に代表される「対向式ウーファー」構造が、デビアレオーディオの強み。通常、ウーファーが高い出力により激しく前後に動くことでそれが筐体に伝わり、音の歪みにつながってしまうが、向かい合わせることで打ち消し合うため、筐体の振動が抑制され、ピュアな低音だけが響くという仕組みだ。

ハイセンスのRGB MiniLEDテレビでは、テレビの薄い筐体でそれを成立させるために再設計。ディスプレイの裏側にウーファーを逆向きに作用するよう並べて配置した。この独自の「対向式ウーファーモジュール」は、日本をはじめ世界各国で特許出願中だという。
また、通常は低音を拡張するためのバスレフポートが設けられるが、内部で風切り音を発生させる原因になるため排し、ウーファーのユニット数を増やすことで出力を高めている。

R&Dセンターの内部には、「ハイセンス/デビアレ共同オーディオラボ」が設置されており、デビアレの音響システムとRGB MiniLEDテレビ製品と比較しながら、デビアレ社の基準に品質が達しているかをチェックしているという。


以上の研究成果である、RGB MiniLEDテレビとは、どこでどのように製造されているのか? 続いて、工場へ足を向けよう。
【製造工場】製造工程へのAI導入とその効果は?
ハイセンスはテレビの製造拠点を世界7箇所にもつ。今回訪れたのはマザーファクトリーで、青島市内の経済特区「黄島(ホアンダオ)区」にある。ここは家電製造の一大集積地であり、他社メーカーも軒を連ねる。ハイセンスの主軸となるテレビの製造拠点「海信視像科技黄島工場」も、この中にある。

同工場のラインでもっとも強調され、目についたのは“自動化”と“AI導入”による先進性である。
日本の家電メーカーでも、自動化やAIの導入はたしかに進んでいるが、一部分に留まり総じて工員が多い、という工場はよくある。人件費などを抜きにして語れば、人かマシンかAIか、その配分はまさに適材適所であるべきで、一概に全自動が正解とは言えないだろう。だが少なくとも、パネルの安全かつスムーズな運搬、液晶フィルムの剥離、バックライトの接着といった、繊細かつ塵などが大敵となる作業においては、人よりマシンのほうが得意なはず。しかもそういった工程が、ディスプレイ工場では梱包に至るまでの工程の多くを占める。
実際、基盤の運搬工程では背面の変形などの不良率を92%ダウン、基盤への糊付けでは不良率を45%ダウンなど、AIを組み込んだ自動化は目覚ましい効果を挙げているという。
また、最新のRGB MiniLEDテレビを製造するうえでは、バックライト(基板)の構造が非常に複雑で、取り付けには高い精度が要求されるため、検査工程を増やしているという。そこでもAIを活用した自動化が精度アップに貢献している。


黄島工場の工場長を務める、ハイセンス ディスプレイ事業部の聶 均(じょう きん)氏によると、10年前には自動化率は約10%にとどまっていたというが、「現在では全体で約40%、最新のラインで71%に達しています」。

とはいえ、無人化をこれ以上に徹底した工場はほかにもある。筆者は他社の液晶ディスプレイを製造する工場にも足を運んだことがあるが、それらに比べればチェッカーとして、またマシンの動作が非効率になる工程を中心に、人が配置されている様子だった。
「人による作業の方が効率的でコストが低いワイヤー接続などの工程は、あえて人を残すという判断もしています」(聶 均氏)
その理由のひとつとして、「地域の雇用にも関わる問題ですから、そのバランスは重要」とも強調。青島、ひいては中国きってのグローバルブランドとしての使命も感じさせた。
ここまでRGB MiniLEDの技術と、それを実現した研究開発現場、さらに製造現場と見てきたが、最後に本社でマーケティング戦略を取材。このインタビューの模様は後編でレポートする。
取材・文・撮影/和田史子(GetNavi編集部)





