究極のゴールは「“ローカル家電ブランド”として認識されること」。ハイセンスが日本のプレミアム市場で認知されるには?

ink_pen 2026/7/20
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究極のゴールは「“ローカル家電ブランド”として認識されること」。ハイセンスが日本のプレミアム市場で認知されるには?
和田 史子(GetNavi編集部)
わだ ふみこ
和田 史子(GetNavi編集部)

1999年創刊の雑誌『GetNavi』編集長。女性誌や情報誌などの編集を経験した後、2017年学研プラスに入社。ウェブメディア『GetNavi web』編集部にて文房具ジャンル等を担当、『文房具総選挙』の企画運営に携わる一方で、企業受託案件なども多数担当。また20-30代女性向けのライフスタイルウェブマガジン『@Living』編集部を兼務し、家時間の快適化を多角的に発信。2021年にGetNavi web副編集長、2022年より@Living編集長、 2024年7月にはGetNavi web編集長に就任し、2025年にサイトのフルリニューアルを果たす。2025年12月号(10月24日発売)より現職。

日本代表は惜しくも決勝トーナメント初戦で敗退したものの、“過去最強布陣”で沸かせたFIFAワールドカップ2026。同大会の公式スポンサーであり、VARのレビュー用モニターを提供するなど大会を強力にバックアップしたのが、家電メーカー大手のハイセンスだ。

日本市場に製品を投入したばかりの“RGB MiniLED”は最先端のバックライト技術であり、同社が世界初で実用化。リーディングカンパニーとして“Origin”を自負する。今回は、その開発力と製造技術、さらに世界と日本におけるマーケティング戦略を、本拠地である中国・青島(チンタオ)で取材した。

前編ではRGB MiniLEDの技術と、それを実現した研究開発現場、さらに製造現場と見てきたが、この後編では、本社で幹部たちにマーケティング戦略を取材した。

↑ハイセンスは中国東北部に位置する青島(チンタオ)市を本拠地とし、本社、R&Dセンター、マザー工場などを構えている。写真は本社ビル。

ハイセンスが次世代の主軸に有機ELではなくRGB MiniLEDを選んだ理由

次世代のフラッグシップ技術として掲げる「RGB MiniLED」の全貌と、最重要市場と位置づける日本への戦略とは? 本社会議室で、ハイセンスのマーケティングやプロモーション、ブランディングなどを担う事業会社、ハイセンスグローバルマーケティングセンターの幹部に、直接話を聞くことができた。

↑ハイセンスグローバルマーケティングセンターの社長を務める、方 雪玉氏。
↑ハイセンスグローバルマーケティングセンター内のアジア太平洋地域センター社長と、日本法人、ハイセンスジャパン株式会社社長を務める、張 喜峰氏。
↑ハイセンスグローバルマーケティングセンター ディスプレイ製品プロモーション部部長、明 兆亮氏。

従来、テレビ市場のプレミアムモデルにおいて、画質を極める選択肢として挙げられてきたのが「有機EL(OLED)」だ。そもそも、ハイセンスが次世代の主軸としてRGB MiniLEDを選んだのはなぜなのか?

「OLEDはコントラスト比が高く、とても薄い。非常に良い技術だと思います。ただOLEDは、20年という時間をかけて発展してきましたが、グローバル市場全体で見ると年間600万台程度で足踏みしています。また、その技術の属性と製品の特性上、これ以上サイズを85インチ、100インチ、120インチへと拡大していくことは構造的に難しいのです。また、コストが非常に高く、製品価格を下げていくことができません。ですから、OLEDが普遍的な技術や製品になるのは正直、難しい。これからも存在し続けるでしょうが、あくまで特定の一部の人たちのニーズを満足させるものに留まると予想しています」(ディスプレイ製品プロモーション部部長・明 兆亮氏)

これに対し、ハイセンスが「ディスプレイ技術の新たな頂点」として推進するのがRGB MiniLEDである。

「大画面化への制約がなく、コストパフォーマンスにも優れるRGB MiniLEDこそが、すべての家庭に最高の体験を届ける次世代の画質技術だと考えています」(明氏)

またこの技術の標準化においても、業界内で先手を打ったという。

「これは現在、グローバルで公認されている最も優れたディスプレイ技術です。アメリカのCTA(消費者技術協会:CESの主催団体)という機構が、世界で初めてハイセンスと連合してこのRGBというディスプレイ技術を定義しました。これまでOLEDのほか、従来のMiniLED、QLEDなどが誕生してきましたが、業界内の機関が共同で技術定義を行う前例はありませんでした。今回初めてCTAがメーカーと一緒に定義したということからも、RGBの業界における重要度が分かります」(明氏)

競合他社もRGB技術を採用した製品の展開を始めており、プレミアムテレビ市場での競争は本格化しつつある。その中で、ハイセンスは先行者としての圧倒的なアドバンテージを強調する。

「私たちは他社よりも6ヶ月から8ヶ月早く、前倒しでRGBの製品を市場に投入しました。かつてのフォロワーから今日のパイオニアになれた背景には、2つのチップ技術(ダブルエンジン)があります。一つは、数年前に弊社が買収した、LEDチップ・モジュールを専門とする『Changelight(乾照光電)』のチップ。もう一つが自社の画質処理チップ『Hi-View Engine』です。自社で研究を続けてきたからこそ、リードを保つことができるのです」(明氏)

ちなみに『Hi-View Engine』とは、傘下であるTVSレグザ社と共同開発したエンジン。高度なノイズ低減や美肌処理などの基本アルゴリズムをベースにしており、「RGB MiniLED」をはじめ、ハイセンスの強みである超大型液晶パネルなどのハードウェア性能を最大限に引き出すための最適化が行われている。

「市場でリードし続ける唯一の方法は、常に次の世代を研究し続けることです。私たちは3色(RGB)のMiniLEDを実用化した後、すでに4色(RGB evo)の実用化へとフェーズを移行しており、今後は5色やそれ以上へと色彩表現を進化させていきます」(明氏)

色彩表現の面では、テレビのプロモーションでは「鮮やかさ」や「輝度」が強調されがち。だが、日本の消費者は肌のニュアンスなど、人間の目に映る「微妙で繊細な色合い」にこそ本質的な価値を見出す傾向にあるが?

「現在の業界競争は、画面を不自然なほど派手に、明るくする方向へ走りがちです。しかし、ハイセンスがRGB MiniLEDで提唱している価値は『Natural and Real(自然でリアル)』『Eye Comfort(目に優しい)』『Energy Efficiency(省エネ)』の3つです。私たちは、むやみに眩しい鮮やかさを競うのではなく、より人間に近い自然な色彩を目指す『Go Green』の方向へ向かっています。そしてこれを支える強みとして、自社製チップのほかに、レンズ構造を含めた独自の設計、そして一連のカラーマネジメントシステムを自社で開発・管理しています」(明氏)

AIへの対応がもたらす価値の変革

スマート化や操作性の向上、AIの搭載が当たり前となった現代において、テレビには画質の美しさ以外の「価値軸」が求められている。

「今や操作性やAIの搭載などは、EVに先進機能が標準装備されているのと同じで、最低限の要素です。スペックの数値だけで少し他社を上回っても、決定打にはなりません。私たちが歩むべきは、数値の競争ではなく『ハイセンスとは何者か』というブランドのパーソナリティを明確に伝える差別化戦略でしょう。他社とのゼロサムゲームではなく、消費者の生活に寄り添ったベネフィットをわかりやすい言葉で対話し、市場で共生していくことを目指します」(明氏)

なかでもAIシフトについては、ハイセンスは企業組織と製品の両面からそのビジョンを明確に持っている。

「私たちにとって、AIはやるかやらないかという『選択問題』ではなく、必ずやらなければならない『必答問題』なのです。初期のAIは効率を高める道具でしたが、現在は企業のプロセスと組織の再構築を始めています。製造ラインの工程を大幅に簡略化し、組織の階層をフラットにすることが可能です」(グローバルマーケティングセンター社長・方 雪玉氏)

そして製品としてのテレビ、さらには家電全体へもAIは浸透していくと強調する。

「すべての家電にAIが入ります。テレビであれば、サッカー視聴時に現場の不快な雑音をノイズキャンセリングし、実況解説の声だけを強調します。冷蔵庫なら中の食材の賞味期限を計算して事前にアラートを出す。さらに、人間を危険や負担から解放する『フィジカルAI』として、工場での重労働をロボットが代替する取り組みも進んでいます」(方氏)

グローバルでの最先端技術やAIの実装、そして画質思想を確立したハイセンスは、これらのアセットを引っ提げて世界各国の市場展開を加速させている。ここからは、同社が最も攻略の難易度が高く、かつ最重要であると定義する「日本市場」を中心としたマーケティングおよびブランド戦略へと話題を移そう。

ハイセンスが日本市場を重要視する理由

ハイセンスのグローバル戦略において、日本は最も重点的に発展させるべき市場の一つと位置付けられている。そこには、市場規模の大きさに加え、ブランド全体の「質」を高めるための試金石としての役割があるという。

「日本を重視する理由は2点あります。第1に、エアコン年間1000万台以上に代表される大きな市場規模。第2に、品質への要求が極めて高いこと。日本のユーザーを満足させることができれば、そのノウハウを世界中に展開して全体の品質を底上げできるのです」(方氏)

日本法人社長の張喜峰氏も、日本の消費者が自社を成長させてくれると語る。

「日本の消費者はディテールや美学への追求が凄まじい。これが我々の研究開発、製品企画、デザインを極限まで突き詰めるようプッシュしてくれるため、私たちは絶えず進歩できるのです」(ハイセンスジャパン社長・張 喜峰氏)

しかし一方で、世界的なシェア拡大の一途をたどるハイセンスにとっても、日本はまだ“プレミアムブランド”化を完全に果たせていない挑戦の地でもある。

「テレビ市場で国内シェア2位へと浮上したことは大きな成果ですが、『ハイエンドブランド』としては、日本の消費者の認知度においてまだまだ大きなギャップがあると認識しています。プレミアム市場で真に選ばれるブランドになるために、私たちは今後も努力を続けなければなりません」(方氏)

日本での本格的なハイエンド化に向けて、ハイセンスは世界最先端の技術にローカルの信頼を掛け合わせる戦略を進めるという。

「一言でまとめれば、日本におけるハイセンスのポジショニングは『世界をリードする最先端技術』+『日本の高い品質基準』+『現地に深く根ざしたローカライズ運営』の融合で実現するものです。まだ日本へ導入できていない素晴らしい技術や製品もたくさんありますが、発展の段階に応じて段階的に投入し、一歩一歩信頼を積み上げていきます」(張氏)

現地パートナーや流通チャネルとの信頼関係構築において、方氏は自身の直近の訪日エピソードを明かした。

「先週日本を訪れた際、往復6時間をかけてある大手量販店の社長と1時間だけ面談をしました。これこそが日本市場への『真実の愛』です(笑)。木曜日に訪日を決めて、金曜日には日本の大手3大チャネルとの会談が決まりました。これは過去16年間で築いてきた深い信頼関係があるからこそ、これほど迅速な意思決定ができるのです」(方氏)

製品の導入とチャネルとの信頼構築の先にある、ハイセンスが日本市場で目指す究極のゴール。それは「中国発のグローバルブランド」という属性さえもユーザーが意識しなくなるような世界だ。

「さきほどお伝えした努力の結果として、ハイセンスを日本の暮らしにフィットした“ローカル家電ブランド”として認識していただくことを、我々は理想としています。(日本国内にもR&Dを置くなど)現地に根差した研究開発・生産・販売・サービスを通じて、日常生活の中に自然に溶け込み『日本で事業を展開し、日本の家庭にサービスを提供する家電ブランド』として認識されること。それが最も重要な目標だと考えています」(方氏)

日本における「プレミアムブランド、ハイセンス」の鍵を握るのは、白物家電?

インタビューでもあったように、ハイセンスブランドはグローバルの市場ではすでに、コスパが高いブランドではなく、“プレミアムブランド”と位置付けられている。ところが元来、国産もしくは日本発のテレビブランドが市場を独占し、白物家電においてはいまだ日本発のブランドがひしめく日本市場においては、「コスパが良いブランド」というイメージがいまだ根強い。それだけ強固なブランド認知と、品質に相反する値頃感への信頼性を確立している、とも言えるのだが。

テレビは2025年に日本史上でシェア第3位まで達している上、2026年の第一四半期ではレグザに続く、第2位に躍り出た。また白物家電でも、昨年からファミリー向けの新製品を積極的に展開するようになっているほか、R&Dを日本国内におき、全国のサポートネットワークも海外ブランドでは類を見ない充実ぶりだ。

今後も「コスパの良いブランド」であり続けるのか、日本市場においても「プレミアムブランド」と認識されるようになるか。筆者はこの数年がターニングポイントになると見ている。

今後のブランドイメージを変革するのは、「ハイセンスの製品が自分の暮らしを変えてくれる」「この製品や機能は今までにない」と感じさせる新奇性と、ユーザーからの愛着だろう。スペックではなく、その先にあるライフスタイルをユーザーに認識させ、ブランドへの最大の信頼=愛着を醸成することが、プレミアムブランドへの道筋ではないだろうか。

今回中心に見てきたようなRGB MiniLEDに代表される技術やスペックの先進性は、そのベースとなるものだ。

もう一つ、現時点ではテレビ事業ほど存在感を示せていない白物家電は、ライフスタイルへの影響度が高いプロダクツであることを考えれば、テレビ以上にキーとなりそうだ。この記事ではRGBミニLEDをトピックとしたテレビ事業に対するマーケティングや技術開発、製造工程などを見てきたが、現地では白物家電についても確認することができた。その模様は続報として別の記事でレポートする。

取材・文・撮影/和田史子(GetNavi編集部)

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