コロナ禍をきっかけに一気に普及した在宅勤務。しかし最近では、在宅勤務を縮小し、オフィスへの出社を増やす企業も目立ってきました。
その背景のひとつとして注目したいのが、オンラインでは生まれにくい「インフォーマルコミュニケーション」です。会議や打ち合わせではなく、廊下での立ち話や休憩中の雑談など、目的を定めないコミュニケーションが、情報共有やアイデア、社員同士の関係づくりにつながることもあります。
なぜ今、企業は「雑談」を取り戻そうとしている?
在宅勤務を導入した企業のなかで、出社を増やす動きが広がっています。例えばGMOインターネットグループは2026年、在宅勤務の推奨を終了しました。また、LINEヤフーやホンダなどでも、働き方を見直し、出社を増やす動きが見られます。
もちろん、「在宅勤務より出社の方が優れている」という単純な話ではありません。リモートワークには通勤時間削減や集中しやすさなどのメリットがある一方、「用事がなければ話さない」というコミュニケーションになりやすい側面もあります。
そこで改めて注目されているのが、雑談や立ち話などの「インフォーマルコミュニケーション」なのです。
出社するからこそ生まれるコミュニケーションとは?
出社回帰が進むなかで、改めて問われるのが「オフィスに集まる意味」です。社員が同じ場所に集まっても、それだけで自然なコミュニケーションが生まれるとは限りません。カフェスペースや休憩スペースを設けても、利用する人が限られ、「場所はあるけれど交流にはつながっていない」というケースもあります。
では、人が自然と集まり、偶発的な会話が生まれるオフィスには、どのような工夫が必要なのでしょうか?
2,000社以上のオフィス構築を支援してきた株式会社ソーシャルインテリア代表取締役社長の町野 健氏(以下、町野氏)に、これからの時代のオフィスづくりについて詳しくお話を伺いました。

株式会社ソーシャルインテリア
https://socialinterior.com
オフィスづくりのプロが考える「出社する価値」
まずは、最近のオフィスづくりにどのような変化が起きているのか、そして対面だからこそ生まれるコミュニケーションの価値について伺いました。

――在宅勤務から出社へ戻す企業が増えていますが、オフィスづくりを支援するなかで、企業の働き方にどのような変化を感じていますか?
町野氏:完全出社に戻す企業ばかりというわけではなく、週3日出社・週2日在宅といった「ハイブリッド型」を選択する企業が非常に多いですね。
その一方で、全出社にする会社も出てきており、一概にどちらか一方に偏るというよりは、それぞれの企業の考え方や「意志」が色濃く現れる、非常に面白い節目(グラデーションの時代)だと感じています。
――強制的に出社させるのではなく、社員が「行きたくなるオフィス」にするために、企業にはどのようなアプローチが求められますか?
町野氏:オフィスに人を集めるためには、ハードウェア(空間やデザイン)の整備だけでは不十分です。それと同時に、制度や社内イベントといった「ソフトウェア」を機能させることが重要になります。
「絶対に出社しなさい」と強制するだけでは、社員の気持ちは離れてしまいます。そうではなく、会社を好きになる「仕組み」の整備が不可欠です。
例えば、当社では月1〜2回は全社会議を開催しています。そこでは業務報告だけでなく、あえて「仕事の話は一切禁止して、5分間『週末何をしたか』を話す」というアイスブレイクの時間を設けています。これがきっかけで「あ、そんな趣味があったんだ!」と会話が弾み、組織の一体感や愛着が自然と芽生えていきます。
さらに、社員が「おすすめのお菓子」を持ち寄ってプレゼンし合うちょっとしたイベントを企画したり、ゲーム大会を開催しています。こうして仕事中の適度な気分転換を促すことも、社員の自発性を引き出す良いアプローチになります。
――雑談や立ち話などの「インフォーマルコミュニケーション」は、仕事や組織にどのような効果をもたらすのでしょうか?
町野氏: 週末の話など、一見仕事には直接関係のない雑談を交わすことで、組織の一体感や会社への愛着(ロイヤルティ)が自然と芽生えていきます。
例えば、「給料が高いから働き続ける」というのは、会社への愛着というより雇用条件によるつながりですよね。そもそも、家で1人で作業する方が楽な場合もありますし、社長である僕だって「家で1人の方がいいな」と思う瞬間はあります(笑)。
それでもオフィスに集まりたいと思えるのは、会社やそこにいるメンバーが好きで、その場所で過ごすこと自体に楽しさがあるからです。
これは、子どもに「勉強しなさい」と強制するだけでは、自発的に勉強するようになりにくいのと似ています。どうすれば楽しめるかを一緒に考え、本人が面白さを見つけられれば、自然と主体的に取り組むようになります。
仕事も同じで、「強制されて嫌々働く人」と、「自分で楽しさを見つけて主体的に働く人」とでは、持っている能力の発揮のされ方が大きく変わります。 そうした違いは、最終的なアウトプットのクオリティや生産性にもつながってくると思います。
会話が自然に生まれるオフィスには「余白」がある

――御社のオフィスでは、社員同士のコミュニケーションを促すために、どのような工夫をされていますか?
町野氏:オフィスにありがちな「壁」を極力作らないようにしています。視界を遮る壁をなくし、一部を「円形」の壁で緩やかに仕切ることで、空間に動きをもたらしています。これにより、「誰がどこにいて、今どんな忙しさか」がリアルタイムで可視化され、話しかけやすい雰囲気が生まれます。

また、当社のオフィス設計では、動線設計を極めて重視しています。長方形の細長いオフィスの中央に、ウォーターサーバーやお菓子置き場を兼ねた「パントリー(バーカウンター)」を配置しています。


これはアフリカなどの砂漠で動物が自然と集まる「オアシス(水飲み場)」からインスピレーションを得た設計で、部署を問わず社員が日常的にすれ違い、会話を始めるきっかけをデザインしています。
今までは「いかにコストを削るか」という観点だけで作られがちだった執務スペースを、社員のエンゲージメントを高めるための「投資」として捉え直すべきなのです。

――コミュニケーションが生まれる場という意味では、喫煙所も一例でしょうか?
町野氏:そうですね。実際、社内に喫煙スペースを設けたいという相談をいただくこともあります。当社の自社オフィスには屋内喫煙所はありませんが、タバコを吸う社員同士が外の喫煙所で自然と集まって仲良くなっている様子をよく目にします。
非喫煙者への配慮を徹底した上で、愛煙家にとって大切な「お互いが緩んで仲良くなれる場」として喫煙スペースを整備することは、オフィスにおける非常に有効なコミュニケーションデザインの1つだと思います。
家電・ガジェットもコミュニケーションの「媒介役」に
――コーヒーメーカーやAIペットロボットなど、家電・ガジェットが人を集めたり、会話のきっかけになったりすることについて、オフィスづくりのプロとしてどう考えますか?

町野氏:大いに「あり」だと思います。
コーヒーメーカーを導入している当社のケースでいうと、コーヒー豆を社員同士でカンパし合ったり、有志で氷を作ったりと、パントリーエリアを自分の家のように主体的に愛着を持って維持・運用するカルチャーが自発的に生まれました。
経営者目線では「遊んでばかりで生産性が下がるのでは?」、「仕事の雑音になるのでは?」と懸念されるかもしれませんが、使用頻度やルールといったソフトウェア側の設計がなされていれば全く問題ありません。コミュニケーションを活性化させるためには、お互いの緊張を適度に「緩める」ための非効率な要素が不可欠なのです。
――コミュニケーションを増やしたい企業のオフィスに、1つ家電・ガジェットを置くとしたら、どのようなものを選びますか?
町野氏:「LOVOT」のようなAIペットロボットは面白いですね。
LOVOTには人の顔を覚える機能が備わっています。そのため、普段は非常にクールで仕事に厳しいメンバーが、なぜかLOVOTから熱烈に懐かれている姿がオフィスで見られることがあります。
「実は誰も見ていないところで、めちゃくちゃ可愛がっていた」という隠れた優しさや意外な一面がLOVOTを通じて自然と暴かれ、まるで「雨の中で野良猫にそっとパンを差し出している不良」かのようなギャップを生み出します(笑)。これが社内に温かい笑いをもたらし、お互いの人となりを知ることで信頼関係の構築にもつながっています。

高級なコーヒーメーカーを見て『抱っこしたい、可愛い!』と言う人はいませんが、LOVOTにはみんなが自発的に触れ合い、愛着を抱きます。お互いの緊張を緩めるための愛嬌や一見非効率な要素こそが、今のオフィスに必要な偶発的コミュニケーションを呼び込み、温かい『余白』を作ってくれるのです。
オフィスに置きたい「会話を生む家電・ガジェット」
町野氏へのインタビューから見えてきたのは、自然なコミュニケーションを生むためには、人が集まる場所や、思わず触れたくなる「きっかけ」をつくることが重要だということ。
そこでここからは、町野氏の話をヒントに、GetNavi web編集部が「オフィスの会話を生む」という視点でおすすめしたい家電・ガジェットを紹介します。
UCC「DRIP POD YOUBI」

UCCの「DRIP POD YOUBI」は、カプセルをセットしてボタンを押すだけで、本格的なドリップコーヒーを楽しめるコーヒーマシン。コーヒーだけでなく、紅茶や日本茶まで幅広いカプセルが用意されており、その日の気分に合わせて一杯を選べます。
「このコーヒー飲んでみた?」「今日はこっちにしよう」といった何気ないやり取りが生まれやすく、飲み物を選び、味わう体験そのものを社員同士で共有できるのがオフィスに置く面白さ。アプリを使えばプロの抽出レシピも楽しめるため、コーヒー好き同士の会話も広がりそうです。
GROOVE X「LOVOT(ラボット)」

「LOVOT 3.0」 577,500円~、「LOVOT 2.0」449,900円~
人同士を直接つなぐのではなく、その間に入って自然な交流を生み出してくれる存在もあります。その代表例として注目したいのが、AIペットロボットの「LOVOT(ラボット)」です。
LOVOTは人の顔を認識し、自ら近づいたり、抱っこを求めたりするAIペットロボット。思わず触れ合うなかで、普段の仕事だけでは見えにくいその人の一面が表れることもあります。社員同士の会話を直接促すというより、人と人の間に入り、コミュニケーションの“きっかけ”をつくってくれる存在として、オフィスとの相性が良い製品です。
PlantsIO「Ivy(アイビー)」

植物をみんなで育てることも、社員同士のちょっとした会話のきっかけになります。そこで注目したいのが、AIと各種センサーを搭載したスマートプランター「Ivy(アイビー)」です。
土の水分量や光など植物の状態を検知し、「水が欲しい」「光が足りない」といったサインをディスプレイの表情で知らせてくれるのが特徴。「Ivy、喉が渇いてるみたい」「今日は元気そう」といったやり取りが生まれ、植物を“みんなで世話する”という共同体験をつくれるのが、オフィスで使う面白さです。
クイジナート「フローズンデザートメーカー」

「今日は何味にする?」と、みんなで楽しめる“食の体験”も、オフィスでの会話を生むきっかけになります。
クイジナートの「フローズンデザートメーカー」は、あらかじめ材料を入れて凍らせた専用カップをセットし、約1分でアイスクリームやシャーベットなどを作れる調理家電。ナッツやクッキーを加えたり、材料を変えてオリジナルの味を試したりと、アレンジを楽しめるのも特徴です。
「次は何を入れてみる?」「この味がおいしかった」といった会話が生まれやすく、作るところから食べるところまでを社員同士で共有できるのがオフィスに取り入れる面白さ。仕事の合間のちょっとしたイベントにも活用できそうです。
仕事終わりの“乾杯”をつくるビールサーバーサービス

仕事モードを緩め、社員同士が気軽に話せる時間をつくるなら、オフィスにビールサーバーを置くのも一案です。仕事終わりにサーバーの周りへ人が集まり、1杯を注ぐ時間そのものがコミュニケーションのきっかけになります。
現在は、専用サーバーをレンタルして本格的なビールを楽しめるサービスも登場しています。代表的なサービスを比較してみましょう。
| サービス | 特徴 | 料金の目安 | 利用形態 |
|---|---|---|---|
| アサヒ「ドラフターズ ビジネス」 | 「スーパードライ」を専用の本格泡リッチサーバーで楽しめる | 月額3,990円〜※1 | 法人向け |
| キリン「ホームタップ」 | 「一番搾りプレミアム」やクラフトビールなどを専用サーバーで楽しめる | 月額8,610円〜※2 | 家庭向け |
| DREAMBEER | 全国90ブルワリー・260銘柄以上からクラフトビールを楽しめる | 月額目安7,920円〜※3 | 家庭向け |
※1 サーバーレンタル料は月額3,990円。別途ビール代が必要で、「スーパードライ」2Lは1,980円〜。
※2 「一番搾りプレミアム」月4Lコースの場合。
※3 「ドリームプラン」で1.5Lボトル4本を8週に1回配送する場合の1カ月あたりの目安。契約条件などの詳細は公式サイトをご確認ください。
なかでもオフィスへの導入を前提にするなら、法人向けプランを用意するアサヒ「ドラフターズ ビジネス」が選びやすいでしょう。一方、いろいろなビールを飲み比べる楽しさを重視するなら、キリン「ホームタップ」や「DREAMBEER」のようなサービスにも注目です。
導入する際は、利用時間や飲酒ルールを決めるなど、運用面の設計も大切です。もちろんアルコールを飲まない人への配慮は必要ですが、ノンアルコールドリンクなども合わせて用意すれば、幅広い人が参加できる交流の場にできます。
出社したくなるオフィスは「人と人がつながる場所」

今回、町野氏へのインタビューを通じて見えてきたのは、社員をただオフィスに戻すだけでは、コミュニケーションは生まれないということです。
人が自然とすれ違う動線やパントリーといった「空間」、アイスブレイクや社内イベントといった「仕組み」。そして、コーヒーメーカーやLOVOT、お菓子といった、思わず人が立ち止まる「モノ」。こうした要素が組み合わさることで、仕事とは直接関係のない雑談や、偶発的なコミュニケーションが生まれていきます。
一見すると非効率にも思える「余白」こそ、社員同士がお互いの人柄を知り、会社への愛着を育み、主体的に働くための土台になるのかもしれません。
リモートでも仕事ができる時代だからこそ、オフィスには「作業をする場所」以上の価値が求められています。効率だけを追求するのではなく、人が集まり、緊張が緩み、自然と会話が始まる場所をどうつくるか。そこに、これからのオフィスづくりのヒントがありそうです。
文・鈴木和成/撮影・田中悟
取材協力・株式会社ソーシャルインテリア
代表取締役社長 町野健