GetNavi編集部員が見た!噂の会社のオモテとウラ
噂の会社を編集部員が直撃取材する連載。今回は、個性派ビールや日本初の球場内醸造所などエッジの効いた製品や取り組みが注目を集めるヤッホーブルーイングをGetNavi編集長が訪問。本居地、長野でユニークなモノづくり精神の深層に迫った。
【訪問したのは…】ヤッホーブルーイング
1997年に、星野リゾートの星野佳路社長が創業。クラフトビールが「地ビール」と呼ばれていた黎明期から業界に根を張り、いまやシーンのトップランナーに。看板銘柄「よなよなエール」は、日本を代表するクラフトビアブランドだ。


「インドの青鬼」に「正気のサタン」、「裏通りのドンダバダ」など。ユニークな名前のクラフトビールで、業界を盛り上げているのがヤッホーブルーイングだ。最近では、セブン-イレブンとつくった「有頂天エイリアンズ」が、生産が追いつかないほどに大ヒット。「楽しみながら結果も残す」、その秘訣を探るべく井手社長に会いに行くと、「ニックネームの『てんちょ』と呼んでいただいてもいいですよ」。そう、同社はニックネームで呼び合う文化でも知られている。まずは、その狙いを聞いた。
【ココがオモテ!】社員同士がニックネームで呼び合うユニークでフレンドリーな社風
「原点は、通販事業部時代に参加した『楽天大学』(※)。赤の他人が、3か月の研修でケンカし、泣き笑い、親友になる。人生最大の学びでしたね。本音で議論できる組織の強さを知るとともに、心の距離の近さの大切さを痛感しました。しかし、実際の現場では、社長や先輩といった上下関係から忖度や遠慮が生じ距離がなかなか縮まらない。これをなくしたいと思ったんです」
※:楽天市場による教育・研修サービス。出店しているショップ向けに、運営ノウハウや成功事例を提供する。井手社長2007年に、そのなかの「チームビルディングプログラム」を受講した。

心の壁を取り払う仕組みのひとつが、ニックネームの導入というわけだ。
「やってみると、親密度は劇的に変わりますよ。ほかにも、あえて雑談の時間を作るなど、相互理解の機会を増やすことも効果的。これらを会社の文化に落とし込んだ結果、対外的なコミュニケーションにも変化が生まれ、社外の方とも長期的な信頼関係を構築できるようになりました」
セブン-イレブンとの共創にもこの社風が生かされており、つくられたのが前述した「有頂天エイリアンズ」だ。アイコニックなエイリアンが描かれたカラフルで目立つデザインだが、「ビール」と書いていなければ、何か分からない。こうした型破りなクリエイティブは、どのように生み出されるのか?
尖りつつもクレバーな世界観の軸となる9つの基準で徹底議論
「平均80点以上をとるのではなく、“平均が80点未満でも数人が満点をつけるプロダクト”づくりを目指しています。開発中に行う満足度調査で最も重視するのは『非常に満足した』という回答。なぜなら『そこそこ好き』という人はファンにならないけれど、非常に満足した人は周りに勧めるぐらい熱量の高いファンになるからです。ただし、『非常に不満』を選んだ人のコメントも必ず確認し、ひとりでも傷つく人がいたら、その案は即却下します。誰かの好きなものを否定したり、傷つけることはしないと決めていますから」

【ココがウラ!】“万人受け”よりも“数人にとっての最愛”を目指す。ただし、ひとりでも傷つく人がいるなら即却下
そのうえで同社は、「個性的」「ユーモア」「意外性」など9つの項目を設けブランディングしている。そこに並ぶ「品がある」「親しみ感」といった項目は、チープさや内輪ノリのない、尖りつつもクレバーなビールをつくれる所以だろう。当然、味づくりも真剣そのもの。

「例えば『有頂天エイリアンズ』は販売先が全国展開しているセブン-イレブンさんですから、個性と飲みやすさの両立は大前提。そこで近年人気のビアスタイル『HAZY IPA』を採用しました。うちが初めてHAZY IPAを手掛けたのは10年以上前になりますが、大々的に販売するのはこれが初めてです。過去の知見などを生かした、ある種集大成的なHAZY IPAかもしれません。ホップを大量に使うため、原価を抑えるのに苦労しましたし、難題をいくつもクリアするのに時間もかかりましたが、だからこその自信作です」
ではなぜ、セブン-イレブンで発売するに至ったのか。そこにも同社が得意とするコミュニケーション術が関係していた。
「セブン-イレブンさんに、以前、懇意にしていた方がいて、その方が偶然、長野に赴任することとなり、私の顔が浮かんだって連絡をくださったんですよ。そこから地元を盛り上げたいとの思いで加盟店さんとの勉強会を開いたり、時間をかけてチーム作りを行い、2021年に長野と山梨のセブン-イレブン先行で『山の上ニューイ』を発売しました。そうしたら1製品しか投入していないのに、販売期間中、長野と山梨の店舗のビールの売り上げが全国伸び率1位になったんです。その縁と絆が、『有頂天エイリアンズ』につながりました」
ビールが生む幸せの連鎖を信じ夢はノーベル平和賞受賞
長期的な信頼関係を構築し、お互いがウィン-ウィンになる仕事をする。そんな血が通ったコミュニケーションを大切にする井手社長の夢は、「よなよなエールでノーベル平和賞を獲ること」。
「毎年ファンイベントを行うんですが、そこには初めて会った人同士がビールを通じて交流し、またここで再会しようと笑い合う姿があるんです。最多で参加者が5000人集まったこともありますが、泥酔して暴れる人がひとりもいない、ものすごく幸せな空間なんですよ。それぞれ毎日大変かもしれない。でも、ビールを飲んでいる間だけは幸せな気分になる。これが世界中に広がったら、争いごとがなくなるんじゃないかって本気で思うんです。ビールにはそんな力があると信じています」

ヤッホーブルーイング
有頂天エイリアンズ
価格349.80円
フレッシュジュースのようなトロピカルな香りとやさしい苦みが魅力。昨年5月の先行販売では3か月で110万本を突破。購入者の3割強は普段ビールを愛飲していない層という異色の商品。

※「GetNavi」2026年5月号に掲載された記事を再編集したものです。