2026年3月25日から4月5日にかけて、タイ・バンコクのIMPACT Challengerで「第47回バンコク国際モーターショー(BIMS2026)」が開催されました。会期中の来場者数は約180万人に達し、四輪車の受注台数は132,951台と過去最高を記録。前年実績を大幅に上回る結果となり、景気低迷の中でもタイ市場の活況ぶりを印象付けるイベントとなりました。
今回のモーターショーをひと言で表すなら、「中国メーカーが主役となったモーターショー」だったといえるでしょう。かつて日本メーカーの牙城だったタイ市場において、中国勢はEVを軸に急速に存在感を高めています。
さらに今回は、単なるEV販売競争にとどまらず、ソフトウェアやAI、コネクテッドサービスを含めた次世代モビリティ競争の幕開けを感じさせる内容となりました。


中国勢が販売ランキングを席巻
今回の受注ランキング首位となったのはBYDで、受注台数は17,354台でした。2位はトヨタの15,750台で、さらにOmoda&Jaecooが15,088台で3位に入り、MG、Geely、GWMといった中国ブランドが上位を独占。これはまさに中国の勢いを象徴する結果といえるでしょう。
それだけに会場を歩くと、目立ったのは巨大なブースを構え、最新EVや先進技術を積極的にアピールする中国メーカー各社の姿です。そこからは、もはや「中国メーカー=新興」という印象は薄く、グローバルブランドとしての完成度を実感させていたといえます。
タイは長年、「アジアのデトロイト」と呼ばれ、日本メーカーが圧倒的なシェアを誇ってきました。しかし今回のショーでは、その勢力図が大きく変わりつつあることを示していたのは間違いないでしょう。
EV競争からソフトウェア競争へ
そうしたなかで印象的だったのは、中国メーカーがEVそのものではなく、ソフトウェアによる価値創造へと軸足を移していることでした。
大型ディスプレイを活用した先進的なHMI(Human Machine Interface)、OTA(Over The Air)による機能アップデート、AI音声認識、高度運転支援システムなど、クルマの価値を決定づける要素がハードウェアからソフトウェアへ移りつつあることを示していたのです。
その象徴的存在がXPENGでした。同社は最新EVはもちろん、人型ロボット「IRON」を展示し、自動車メーカーという枠を超えたAI・ロボティクス企業としての将来像を提示しました。その意味でも、かつて自動車産業がエンジン性能やシャシー技術を競っていた時代を超えて、データとソフトウェアを競う時代へ移行していることを強く印象付けました。

タイは中国EVメーカーの最前線基地
そうした中国勢の躍進を支えているのが、タイ政府による積極的なEV振興政策です。
タイ政府は2030年までに国内自動車生産の30%をゼロエミッション車とする目標を掲げ、購入補助金や税制優遇制度を整備しています。この政策をいち早く活用したのが中国メーカーだったのです。
BYDはすでにタイ国内で生産を開始し、ASEAN市場向けの供給体制を強化しています。GWMやChanganも現地生産を拡大しており、かつて日本メーカーが築いた現地生産・現地販売モデルを、中国メーカーが短期間で再現している状況です。
タイは単なる販売市場としてだけでなく、ASEAN全域への輸出拠点としての重要性も高めており、中国勢にとって戦略的な最前線基地となりつつあるといっていいでしょう。

BYDを中心に存在感を高める中国勢
中国メーカーの中で最も存在感を放っていたのはBYDでした。ATTO 1やATTO 2、SEAL 6に加え、高級ブランドDENZAも展示し、幅広いラインアップを展開。「EVならBYD」という認識がタイ市場で定着しつつあることを実感させる内容でした。



Omoda & Jaecooは都会的なデザインと先進的なデジタル機能を武器に、若年層の支持を獲得しています。従来の「安価な中国車」というイメージを覆し、「先進的で魅力的なブランド」として存在感を高めていました。


またMGは中国ブランドの先駆者として安定した支持を維持し、ChanganはDeepalやNevoブランドを前面に押し出してデザイン性と先進技術を訴求しました。




Geelyグループは高級EVブランドZeekrを中心にプレミアム市場へ挑戦する姿が目立ち、なかでもタイ初公開となった大型SUV「Zeekr 9X」を発表する一方で、プレミアム感を高めつつ身近さも確保したなコンパクト電動SUV「X」をタイ市場に投入。Zeekrの存在感を高めていました。


さらにNIO傘下の新ブランド「firefly」も登場し、コンパクトながら高級感を備えた新しいプレミアムEVとして注目を集めていました。


日本メーカーの反撃
一方、日本メーカーも独自の強みを活かした戦略を展開しました。
トヨタは「Circle of Trust(信頼の輪)」をテーマに掲げ、タイ市場での存在感とブランドの多様性を強くアピールしました。最大の注目は、ASEAN地域で初公開となったSUVの新型「ランドクルーザーFJ」で、会場ではオフロード仕様やアウトドア仕様など複数のカスタマイズモデルを展示。ランドクルーザーならではの伝統と拡張性を訴求しました。

販売面でもトヨタは好調で、会期中の受注台数は15,750台を記録。中国勢のBYDに次ぐ2位となったものの、依然としてタイ市場で高いブランド力を維持していることを印象づけました。また、EVシフトが進む市場環境の中でも、ハイブリッド技術やSUV、ピックアップトラックを軸に「信頼できる選択肢」としての存在感を示していました。


いすゞでは商用EV「D-MAX EV」が大きな話題の中心です。積載性能や牽引能力を維持しながらゼロエミッション化を実現し、商用車電動化の現実的な解答を提示しました。


ホンダはEVの「e」を中心に展示を展開し、「プレリュード」や「Super EV Concept」も披露。三菱自動車は「XFORCE HEV」を主役に据え、ASEAN市場向けハイブリッド戦略を強調しました。


日産はe-POWERを軸とした電動化戦略を展開し、マイナーチェンジした新型「キックス e-POWER」を公開(日本で発売された新型「キックス」とは異なる)。また、マツダは長安汽車との協業モデルである「MAZDA 6e」と「CX-6e」を展示し、EV時代における新たな方向性を示しました。


欧州勢とテスラも存在感
欧州勢ではメルセデス・ベンツ、BMW、ボルボが最新EVを展示しました。販売規模では日本や中国のメーカーに及ばないものの、プレミアムEV市場では依然として高いブランド力を維持しています。
なかでも注目されたのが、新世代EVプラットフォーム「ノイエ・クラッセ」を採用するBMW「iX3」です。中国勢がEVで存在感を高める中で、BMWが「走り」「航続距離」「充電性能」を高いレベルで両立させた本格的な反攻モデルといえるでしょう。


さらに今回初めて公式出展したテスラも注目を集めました。3列シート仕様の「Model Y L」を展示し、成長著しい東南アジア市場への本格的な取り組みをアピールしていました。


自動車産業の未来を映し出したBIMS2026
今回のBIMS2026を振り返ると、中国メーカーがEV市場の主導権を握りつつあることは疑いようがありません。BYDを筆頭に、多くの中国ブランドが商品力、販売力、そして現地生産体制を武器に市場を拡大しています。
しかし、本当に注目すべきはEV販売台数ではなく、ソフトウェア、AI、コネクテッドサービス、生産戦略まで含めた総合力競争が始まっていることです。
その一方で、日本メーカーもマルチパスウェイ戦略やハイブリッド技術、商用車電動化など、それぞれの強みを活かした独自路線を打ち出しています。EV一辺倒ではない現実的な提案は、依然として多くの支持を集めています。
タイはいまや世界の自動車産業の変化を映し出すショーケースとなりました。中国勢の躍進と、それを迎え撃つ日欧メーカー。その攻防は今後さらに激しさを増し、自動車産業の未来を左右する重要な戦いとなっていくでしょう。