黒船となるか? BYDが日本専用に開発した軽EV「RACCO(ラッコ)」を試す

ink_pen 2026/9/19
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黒船となるか? BYDが日本専用に開発した軽EV「RACCO(ラッコ)」を試す
会田 肇
あいだはじめ
会田 肇

カーライフアドバイザー。カーナビやドライブレコーダーなど身近な車載ITグッズのレポートを行う他、最近はその発展系であるインフォテイメント系の執筆も増えている。海外で開かれるモーターショーや家電ショーにも足を運び、グローバルな視点でのレポートに役立てている。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

BYDが日本市場向け専用に開発したという軽EV「BYD RACCO(ラッコ)」。昨年のジャパンモビリティショー2025で発表されて以来、大きな注目を浴びていましたが、ついにこの夏、販売が開始されました。

日本の軽自動車市場は、これまで海外メーカーにとって参入が難しい領域でした。全長3.4m以下、全幅1.48m以下という独自規格に加え、ユーザーが求める室内空間、使い勝手、燃費、安全装備、そして価格に対する要求水準が非常に高いことがその理由です。

しかも軽自動車は日本の新車市場で大きな存在感を持っています。2025年の軽自動車新車販売台数は約166.7万台。2025年度でも約168.8万台に達しており、日本の自動車市場を語るうえで無視できないカテゴリーとなっているのです。特に乗用車においては、ホンダ「N-BOX」を筆頭に、スズキ「スペーシア」、ダイハツ「タント」といったスーパーハイトワゴンが大きな支持を集めています。

↑試乗したBYD RACCO(ラッコ)の最上級グレード「300プレミアム」

そんなスーパーハイトワゴンの巨大市場へBYDは真正面から挑んできたのです。これは、BYDが日本市場に対する本気度を示す画期的な出来事といっていいでしょう。

軽EV普及の突破口を狙うも、EVを前面に押すわけじゃない

一方、日本の軽EV市場というと、実はまだ発展途上であるというのが実情です。日産「サクラ」や三菱「eKクロスEV」によってEVが身近になってはいるものの、軽自動車全体から見ればEVの比率はまだ小さいといえます。

そこでBYDが狙ったのが、EVであることを前面に押し出すのではなく、ラッコをまず「便利な軽スーパーハイトワゴン」として成立させることでした。

ラッコは「200」「300プラス」「300プレミアム」の3グレード構成。価格は200が2,145,000円、300プラスが2,398,000円、300Pプレミアムが2,497,000円です。航続距離はバッテリー容量が小さい200が210km。容量を大きくした300プラスと30プレミアムは320kmとなりました。

↑右がラッコのベーシックグレードの「200」、左がミドルグレードの「300プラス」

これは日常の買い物や送迎を中心に使うユーザーと、休日のドライブまでカバーしたいユーザーの双方を想定したラインナップといえるでしょう。

さらに注目したいのが、ラッコがOTAによってソフトウェアを更新できるSDV(Software Defined Vehicle)として設計されたことです。日本の軽自動車が得意としてきた実用性と、BYDが持つEV・電子制御技術を組み合わせたところに最大の特徴があるのです。

日本市場を徹底研究して生まれたデザイン

実車を前にすると、日本市場をかなり研究してきたことが伝わってきます。

↑ラッコ「300プレミアム」。4輪すべてにディスクブレーキが装備されている
↑外観は軽自動車の枠ギリギリまで拡大したこともあり、スクエアさが目立つデザインとなった

ボディサイズは全長3,395×全幅1,475×全高1,800mm。デザインは国内で人気の軽スーパーハイトワゴンに近いシルエットで、そこからは奇をてらった印象は感じません。海外メーカーのクルマだからと身構える必要はなく、日本の街中に置いても自然に溶け込めそうです。

その一方で、上級グレードではリアのLEDによって夜間に車幅を強調し、軽自動車とは思えない存在感を演出。フロントのデイタイムランニングライトも視認性が高く、歩行者や二輪車から認識されやすいのは安全面でも評価できます。

↑リアは左右いっぱいに展開するLEDによりワイド感を演出
↑前後ともに「BYD」のロゴマークが際立つエンブレムを配置した

スマートフォンをかざして施錠・解錠できるNFCキーも、スマートフォンのバッテリー切れをした際の不安はあるものの、BYDらしい装備といえます。ただ、万が一のために物理キーの携えておいた方がいいと思います。

さらに前後4輪すべてにディスクブレーキを採用しているのも興味深いところです。その一方で、近年は軽自動車にも普及し始めているブラインドスポットモニターが装備されていない点は惜しいと感じました。

軽自動車らしからぬインテリアの質感

試乗したのは最上級グレードの「300プレミアム」です。

インテリアでまず感じたのは、質感の高さでした。ダッシュボードそのものは硬質素材ではあるものの、造形や表面処理がうまく、安っぽさを感じさせないのです。合皮シートも肌触りのいい高品質さが伝わり、250万円前後のクルマとして満足度は十分。ただ、ホワイトカラーは汚れが目立ちそうなので、個人的にはブラック系の内装を選びたいと思いました。

↑ダッシュボード周りは、素材が硬質パネルであるものの、チープさをほとんど感じさせない
↑ACCをはじめとするスイッチはステアリング左側に集中して配置
↑シフトレバー周辺には、エアコンなど空調コントロールをはじめ、回生ブレーキのスイッチのほか走行モードを選ぶ回転ダイヤルも並ぶ
↑300プレミアムには、前席左右の間に保温も可能なカップホルダーが装備されていた

一方、助手席ではダッシュボードが手前へ張り出しているため、若干圧迫感があります。またリアドア下部ではワイヤーハーネスのカバーが見えており、特に明るいボディカラーでは目につきやすいなど、細部には詰め切れていないと感じる部分もありました。

↑シート表皮は肌触りのいい合皮が使われ、サイズもたっぷり。300プレミアムの運転席には電動パワーシートが装備される
↑後席の表皮にも合皮が使われ、アームレストを併用することでゆったりと座れる
↑後席にはチップアップ機能も備えられ、背の高い荷物などを積載する差に重宝しそうだ

300プレミアムは、運転席に電動パワーシートまで装備されます。現在の軽自動車では極めて珍しい装備で、軽自動車らしかぬ高級感を感じさせてくれますが、残念なのはメモリー機能がないこと。複数のドライバーが利用する家庭では、メモリー機能を備えていればパワーシートのメリットをさらに感じられたはずです。

使い勝手のよさを実感したのがリアシートの展開です。後席を倒した際に座面がフォールダウンすることで、荷室フロアがフラットに近づく設計も実用的。ここからはスーパーハイトワゴンとして「どう使われるか」をかなり研究したことがうかがえます。

↑4人乗車時のカーゴスペースは標準的なレベル
↑後席を倒せばフラットなフロアとなり、使い勝手のよい広大なスペースが誕生する

10.1インチ画面を中心とした操作系

センターには10.1インチディスプレイを配置しています。画面サイズは十分で視認性も良好です。ただし専用カーナビは内蔵されておらず、ナビゲーションはスマートフォンを接続し、CarPlayやAndroid Autoを介してナビアプリを利用するスタイルとなります。

↑運転席前のメーター内に映し出される情報は多めだが、表示はやや小さめ。TRIPはウインカーレバー先端を押して切り替える
↑センシングは単眼カメラとミリ波レーダーの組み合わせ
↑10.1インチのディスプレイ上で、Apple CarPlayによる「Googleマップ」を展開してみた

一方で設定画面を開くと、このディスプレイからADASや各種車両機能を設定でき、エネルギー消費の確認や電子マニュアルの閲覧も可能となる多機能ぶりには驚かされました。

ユニークなのが「洗車モード」です。選択するとウインドウを閉じ、オートワイパーなどを無効化します。実際に使う場面を想像すると意外に便利そうな機能であり、これはEVならではというよりSDV的な発想の機能ということができます。今後はこうした機能が追加されることに期待したいと思います。

↑設定ボタンを押して表示されるメニュー項目は相当に細かな部分までの調整に対応する

ただし、インターフェイスについても改善の余地を感じました。文字やアイコンが全体的に小さめなのは、ほかのBYD車にも共通する部分。パワースイッチも空調スイッチと同じ並びに配置されており、慣れれば問題ないとはいえ、独立させた方が直感的に扱えるのではないかと思いました。

一方、足元に表示されるライトに足をかざすことで、スライドドアを自動開閉できる機能は便利です。これなら「ここかな?」と足を振り回すことなく、かざす位置を把握できます。この使い勝手のよさはすばらしく、ファミリーカーとして実用性の高さを実感させられました。

↑物理キーを持ってラッコに近づくと、後ろドアの足下部分に円形の光が照射され、ここに足をかざすとドアが開く

64馬力とは思えない余裕ある走り

300プレミアムに搭載されたバッテリーは、35.84kWhのリン酸鉄リチウムイオン・ブレードバッテリーです。一充電走行距離はWLTCモード320km。フロントモーターは最高出力47kW(64PS)、最大トルク160Nmを発生し、前輪を駆動します。

↑フロアにバッテリーコントロール系を配置したこともあり、ボンネット内には補記類があまり見られない。これがクラッシャブルゾーンとして役立つとされる

数字上の最高出力は軽自動車の自主規制値から64PSにとどまりますが、160Nmという最大トルクは軽自動車としてかなり強力なスペックになります。

ところがアクセルを踏み込んでも、EVにありがちな唐突な加速はありません。トルクの立ち上がりを意図的に穏やかに設定しているようで、動き出しは非常に自然なのです。これはガソリン車から乗り換えた人でも違和感を感じずに運転できることを意識したようです。

かといって、アクセルを深く踏めばラッコは十分な加速力を発揮します。その加速はとてもスムーズで、高速道路での流れに乗るにも何ら不安は感じません。むしろ、EVならではの高い静粛性と滑らかな加速によって、軽自動車とは思えないほどの上質さを感じることができました。

↑アクセルを強く踏まない限りはジェントルな走りとなるが、アクセルを強く踏んだときの加速感はEVを実感するものだ

なお、走行モードはNORMAL、SPORT、ECO、SNOWの4種類。シフトレバー横のダイヤルを回転させることで簡単にモード変更ができ、日常走行ならNORMALで十分だと感じました。

峠道で感じたEVならではの安定感

回生ブレーキはSTANDARDとHIGHの2段階。下り坂でHIGHを選択すると減速力が高まり、ブレーキペダルを踏む頻度をかなり減らせます。今回の試乗でも峠の下りではほとんどフットブレーキに頼ることなく走ることができました。

もうひとつ印象的だったのがコーナリングです。全高1,800mmのスーパーハイトワゴンでありながら、コーナーに入ってもボディがグラッと傾く感覚がなく、路面に張り付くようにスムーズに曲がっていくのです。これは床下に重量物であるバッテリーを配置したことで重心が低くなっているからで、EV化による大きなメリットと言えます。

ただし、走りがすべて高水準だったわけではありません。最も気になったのがリアサスペンションから伝わってくる振動です。

↑タイヤは中国のタイヤメーカーであるサイルン(SAILUN)製で、サイズは165/65R15

荒れた舗装路や細かな凹凸が連続する場面では微振動が伝わりやすく、大きめの段差を越えるとリアアクスル付近からショックが直接伝わってくる感覚があったのです。特に後席に座ると、このショックが強めに感じられました。

装着していたタイヤとのマッチングも影響している可能性がありますが、ファミリーカーとして考えれば、リアサスペンションを含めた乗り味にもう一段の磨き込みを期待したいところです。

ラッコは日本の軽市場に何をもたらすのか

ラッコに乗って改めて実感するのは、BYDが単に「中国やそのほかの地域で販売している小型EVを日本へ持ってきた」というものではないということです。

日本の軽規格に合わせたうえで、競合が激しいスーパーハイトワゴンというカテゴリーを選び、両側スライドドアや広い室内、豊富な快適装備を盛り込みました。そのうえでEVとしての静粛性、低重心、滑らかな加速、SDVによる機能拡張性を組み合わせているのです。まさにラッコは、BYDが日本市場を本気で研究した結果として生まれたクルマなのです。

もちろん、インターフェイスやリアの乗り心地、4WDが設定されないことなど課題もあります。しかし、約214万円からという価格で登場したことまで考えると、ラッコが国産メーカーに与えるインパクトは決して小さくないでしょう。

日本メーカーが何十年もかけて磨き上げてきた軽自動車という独自文化。その領域に、世界最大級のEVメーカーが日本専用車を開発して真正面から乗り込んできました。

↑前後ドアを開いた真ん中には、可愛らしい「RACCO」のアイコンが貼られている

ラッコの登場により、国産メーカーが軽EVの商品力、価格、ソフトウェア、充電性能、そして走りをどこまで進化させることになるのか。ラッコは日本の軽自動車市場において、いい意味で新たな刺激となるのは間違いないでしょう。

撮影:宮越孝政

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