ヒット商品のネーミングはどう付いた? キリン「晴れ風」ファミマ「ミルクの束縛」に見る、商品と消費者のつなぎ方

ink_pen 2026/9/2
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ヒット商品のネーミングはどう付いた? キリン「晴れ風」ファミマ「ミルクの束縛」に見る、商品と消費者のつなぎ方
GetNavi web編集部
げっとなびうぇぶへんしゅうぶ
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私たちの暮らしは、たくさんの「名前」に囲まれています。お掃除ロボットの「ルンバ」、トイレ自体がお掃除しやすい「アラウーノ」。そして近年、ビール市場で大きな話題を集めたキリンビールの「晴れ風」。これらの名前は私たちの頭に自然と定着していながら、立ち止まって考えるとユニークなネーミングといえるのではないでしょうか。

実は、これら親しみのあるヒット商品はすべて、優れたネーミングを表彰するアワード「日本ネーミング大賞」の受賞ネーミングです。

2026年8月4日、日本ネーミング大賞を主催する日本ネーミング協会が「ネーミングサミット」を開催しました。そこで繰り広げられたのは、大ヒット商品の名付け親たちによる、言葉に命を吹き込むための凄まじい試行錯誤と、AI時代にこそ価値を放つ「名付けの身体性」をめぐる深い議論でした。

本記事では、私たちがふだんよく目にする商品のネーミングはどのように付けられているのか、シンポジウムで語られた目から鱗の裏側をレポートします。


第1章:ネーミング大賞とは?——暮らしとビジネスを繋ぐ「羅針盤」

そもそも「日本ネーミング大賞」とは、どのようなアワードなのでしょうか。

日本ネーミング協会会長の黒川伊保子氏は、開会の挨拶で次のように語りました。

「優れたネーミングを表彰し、言葉の持つ価値を高める。これが、当協会の掲げる大きな目的です」

現代におけるネーミングの重要性は、想像以上に高まっています。2025年度の商標登録出願件数は実に168,114件を数え、グローバル化が進むビジネス環境において、商標権の重要性は高まり続けています。

しかしその一方で、世に出るネーミングは十分に検討されたうえで名付けられているため、意図やプロセス、由来などが消費者に伝わる機会は多くはなく、ましてやネーミングを付けた担当者へ意識が向くことは滅多にありません。

「ネーミングは、モノとコトが世の中に生まれ出るための羅針盤であり、商品に命を与える存在です」

この言葉通り、ネーミングは単なる「ラベル貼り」ではありません。商品やサービスに魂を宿し、生活者との幸福なタッチポイントを作り出すための、きわめて高度なクリエイティブなのです。


第2章:キリンビール「晴れ風」——突然の“丸投げ”から始まった、お客様との「うれしい約束」

最初のセッションに登壇したのは、キリンビール株式会社のマーケティング部でビール類カテゴリー戦略を担当する村井 志帆氏(以下、村井氏)です。同社が2024年4月に発売した「キリンビール 晴れ風」は、同年、見事に日本ネーミング大賞(最優秀賞)を受賞しました。

17年ぶりの定番ブランド開発。「令和の一番搾りを作ってくれ」

キリンビールには、1990年に発売された「キリン一番搾り生ビール」という偉大なフラッグシップブランドが存在します。そんな中、スタンダード価格帯のビールとして実に17年ぶりとなる新しい定番ブランドを立ち上げるプロジェクトが決定しました。会社としても「絶対に失敗できない挑戦」。

当時入社8年目だった村井氏は、夜8時頃に上司から会議室へ呼び出され、こう言い渡されたと振り返ります。

「令和の一番搾りを作ってくれ。コンセプトから自由に考えていい。1年後の4月に発売だ。絶対に売れさせてくれ」

新開発を任された村井氏は、そこから死に物狂いで何百人ものお客様の声を聞き、1年をかけて開発に向き合いました。

ネーミングは「コピーライティング」ではなく「ブランドの約束」

開発の過程で村井氏が感じたのは、物価上昇や将来不安など、世の中に漂うどこか閉塞感のある空気でした。その一方で、人々は毎日を前向きに生きるための「きっかけ」や「明るさ」を求めているようにも見えました。

「ビールは社会課題を直接解決することはできないけれど、明日へ向かってポジティブな力をくれる飲み物。これからの時代を少しでも明るくできるビールを作りたい」

その思いから生まれたのが、「晴れ風」という名前です。

↑キリンビールのWebサイトより

通常、新しいビールの名前を決めるときは、技術や製法、原材料などの「機能価値」を名前に盛り込みたくなります。しかし、村井氏が世の中に届けたかったのは「明るさ」や「閉塞感から抜け出す気持ちよさ」という「情緒価値」でした。

「晴れ風」というたった3文字には、以下の豊かな思いがぎゅっと凝縮されています。

  • 世の中とお客様を晴れやかにし、良い風を吹かせる
  • 晴れた日に外で風に吹かれながら飲むような、圧倒的なおいしさ
  • 晴れと風という「自然の恵み」に感謝し、良い麦とホップで丁寧に作る
  • 今日1日を気持ちよく晴れやかに終えられる存在でありたい

村井氏は語ります。「ネーミングとは、単なるコピーライティングではありません。ブランドがどんな存在になりたいのか、お客様に何を約束するのかを、一言にすること。ネーミングはブランド作りそのものであり、お互いの『うれしい約束』なのです

「あえあえ(a e a e)」という母音が生み出す、脳の心地よさ

シンポジウムでは、学術的・認知科学的な観点からも「晴れ風」のネーミングの美しさが分析されました。審査員の一人である言語学の専門家からは、「晴れ風(は・れ・か・ぜ)」が「あえあえ(a e a e)」という母音の繰り返しで構成されている点が高く評価されました。

実は、母音の並びがリピートされる言葉は、人間が口にしたときに「脳が気持ちいい」と感じる響きを持っています。日本ネーミング協会の前会長(現理事長)の岩永嘉弘氏も、大ヒットドリンクの「お〜いお茶」が「お・い・お(o i o)」と母音を繰り返していることを例に挙げ、「会議室で何度も口にしているうちに、なんだか愛着が湧き、いい名前に思えてくる不思議な魔法が、母音の響きにはある」と語っています。

実際に、キリンビールの役員プレゼンでも、最初は「なんだその名前は」と懐疑的だった役員が、会議中に「晴れ風、晴れ風……」と何度か口にしているうちに、「なんだかだんだん気に入ってきたぞ」と愛着を持ち始め、社内を動かしていく大きな力になったそう。

さらに「晴れ風」は、発売日に合わせて「名前はまだ内緒」というユニークな覆面プロモーション(CMなど)を2週間展開し、世間の注目を一身に集めました。

また、売上の一部を桜や花火大会といった日本の伝統風景の保全に寄付する「晴れ風アクション」を実施するなど、ネーミングが約束した「世の中に良い風を吹かせる」という想いを、製品に関わるすべての体験で一貫して体現し続けています。


第3章:カヤック合田氏が語る「ミルクの束縛」——広告費ゼロでバズを生む「問い」の設計

続いて登壇したのは、面白法人カヤックのクリエイティブディレクター、合田ピエール陽太郎氏です。合田氏がネーミングを手がけたファミリーマート限定のドリンク「ミルクの束縛」は、ネーミング大賞の優秀賞を受賞。

実は広告予算が全くない中、企画された本商品。ネーミングとパッケージの工夫だけでSNS上に爆発的なUGC(ユーザー生成コンテンツ)を巻き起こした、極めてモダンなヒット事例です。

「答えを渡すネーミング」と「問いを投げかけるネーミング」

合田氏は、ネーミングを大きく2つのアプローチに分類して説明します。

ネーミングのタイプ特徴具体例メリット・デメリット
答えを渡すネーミング飲む前・使う前に「それが何であるか」を丁寧に説明し、安心感を与えるもの。「生乳75%ミルクコーヒー」、「オレンジ100%ジュース」【メリット】飲まなくても味が想像でき、購入後のミスマッチがない。【デメリット】「おいしかった」で完結しやすく、自発的なクチコミが生まれにくい。
問いを投げかけるネーミングどんな味か想像がつかない「違和感」を与え、消費者の好奇心を刺激するもの。「ミルクの束縛」【メリット】「どんな味なんだ?」という探究心を生み、飲んだ後に自分なりの定義をSNSで語りたくなる(UGCの誘発)。【デメリット】最初の認知をどう広げるか、店頭で目立たせる工夫が必要。

「ミルクの束縛」は、まさに後者の「問いを投げかけるネーミング」の極致です。「どんなにミルクに束縛されているコーヒーなんだ?」という問いを投げかけることで、飲んだ人が「本当にミルクが濃厚だ!」「甘くてとろける!」と自分なりの答えを定義し、それを誰かに教えたくなる。

この「問いと答えの認知プロセス」がSNSでの発信力となり、広告費ゼロでありながら、1年で約1万6,000投稿、4,500万インプレッションという驚異的な話題化を達成しました。

シズル写真を排除し、パッケージの4面に仕組んだ「束縛ストーリー」

さらに面白いのは、パッケージデザインの設計です。一般的なコーヒー牛乳の紙パックには、ミルクとコーヒーが混ざり合うおいしそうな「シズル写真」が使われます。

↑シズル写真のイメージ

しかし、合田氏はデザイナーと議論し、あえてそのシズル写真を外しました。「写真を入れてしまうと、それが『答え』になってしまい、問いの違和感が薄れてしまうから」という徹底したこだわりです。

その代わり、紙パックの4面には、まるで「ミルクの束縛」という一人の人間に愛され、束縛され、そしてお別れするまでの壮大なストーリーが仕込まれています。

  • 正面:ファミマの棚で消費者と接する面なので、「初めて会ったよね」と、丁寧な挨拶からスタート
  • 開け口の面:飲む直前に目にするところで、少し言葉が砕けて「知ってる?」と語りかけ、距離が縮まる
  • 裏面(表面の反対部分):グレー5%という絶妙な薄さで、よく見ないと気付かない「この出会いは運命なんだね」という心の声(束縛ワード)をプリント
  • リサイクルでパックを開く面(成分表記のある面):開き口部分に、「リサイクルしてくれてありがとう。生まれ変わってもまた会えるね」という、最後まで離さないユーモアあふれる「お別れの束縛」

この仕掛けに気づいた消費者がまた写真を撮ってSNSに投稿し、さらにバズが連鎖していく。ネーミングが起点となり、パッケージの体験そのものがひとつの「物語」として完成しているのです。

異色のクリエイターが語るインプット術と、AIとの「正しい喧嘩」

シンポジウムの後半では、合田氏の類まれなアイデアを生む「インプット術」も語られました。ファミレスでのアルバイト時代には、クッキングコンテストで全国2位になったという異色の経歴の持ち主。その後、イタリアンレストランで接客や料理にストーリーを加える楽しさを知り、広告業界を目指したと言います。200社もの面接を受け、1,000回ほど「向いてない」と言われながらも夢を掴んだ、叩き上げのクリエイターです。

そんな合田氏のインプットの極意は、「やったことのないことは、すぐ自分でやってみること」

「最近も、女性用の細いパンツを一度体験してみたくて、男性用のTバックを買って履いてみたんです。でもトイレでのポジション調整や脱ぎ履きの手間から、『これは男性には向いてない、女性用の知恵なんだな』と身をもって答えを出しました(笑)」

この「自ら体を動かして違和感を体験する」という徹底した現場主義・体験主義が、人の心に引っかかる言葉を生み出す源泉になっています。

AIは“答え”ではなく、アイデアの「ジャンプ台」

また、AI(人工知能)との向き合い方についても、合田氏の視点は独特です。「AIはめちゃくちゃ使います」と語る合田氏ですが、AIに答えを求めているわけではありません。

「AIは、膨大なデータから『一般的な頭のいい人(みんなの平均的な意見)』の模範解答を出してくれます。だからこそ、今の世の中の『普通』や『王道』がどこにあるのかを捉える下地、つまり“ジャンプ台”として使うんです。AIの回答を確認した上で、そこから自分の感性で『あえて外す(ずらす)』。だから面白いアイデアが出せるんです

時にはAIに対して「そんなこと言ってない!全然面白くない!」と画面上で本気で喧嘩することもあるという合田氏。AIという「世間の平均値」と、「人間のずれた感性」をぶつけ合わせることで、誰も見たことのないネーミングが生まれているのです。

第4章:AI時代にこそ光る、人間の「身体性」から生まれる言葉

シンポジウムの全体を通じて、最も大きなキーワードとなったのが、黒川伊保子会長の語る「身体性」でした。

今や生成AIを使えば、誰でも一瞬で100個のネーミング案を出すことができます。しかし黒川氏は、「AIに頼ったネーミングは素晴らしいように見えて、本当はとても危ない」と警鐘を鳴らします。

「AIは優等生的なよく似たネーミングを大量に吐き出します。しかし、人間の脳は、そこそこに良いものがたくさん並ぶと、かえって『これしかない』という決定的な1つを選べなくなる認知の仕組みを持っています」

「言葉が生まれる瞬間は、脳神経の信号だけで完結しているわけではありません。私たちは、全身の末梢神経と、過去の膨大な体験・記憶といった『身体性』を使って、体から言葉を紡ぎ出しているのです。これと同じことは、どれだけ進化したAIにも絶対に不可能です」

例えば、キリンビールの「晴れ風」を口にしたとき、ある人は高原を吹き抜ける爽やかな風を思い出し、ある人は海から吹く心地よい風を感じます。これは、言葉が消費者の「身体性の記憶」にダイレクトに作用し、共鳴しているからです。

「ミルクの束縛」も同様に、「束縛」という言葉の持つ身体的・心理的な圧迫感と、コーヒー牛乳のパックを何度も見返してしまう体の動き(目の動き・手の動き)が完全に一致しているからこそ、強烈な体験として体に刻まれます。

黒川氏は、ネーミングとは知識をただひけらかすことではなく、目の前の相手や、この時代の空気感のために、言葉を最適に翻訳する力であり、それこそが「教養の塊」であると語り、セッションを締めくくりました。


日本ネーミング大賞 2026、いよいよエントリー受付開始!

↑「日本ネーミング大賞 2026」公式WEBサイトより

「日本ネーミング大賞 2026」公式WEBサイト
https://j-naming-award.jp/

そして、2026年9月1日から「日本ネーミング大賞 2026(第7回)」が、いよいよ応募受付を開始します。

昨年(2025年度)の受賞ネーミングは、メディアで非常に大きな注目を集め、その広報効果は広告換算額で約3億円にものぼりました。受賞企業は所定の条件のもと、信頼とブランド価値の証である「受賞ロゴマーク」を、店頭や広告、パッケージなどで自由に使用することができます。

「日本ネーミング大賞 2026」応募概要

  • 応募対象:2025年10月1日〜2026年9月30日の間に、日本国内で販売または提供されている「商品名」「サービス名」「社名」「ブランド名」等で、商標登録がされているもの(※20年前に発売されたロングセラー製品でも、期間内に販売されていれば対象となります)
  • 応募期間:2026年9月1日(火)〜10月10日(土)
  • 応募方法:公式ホームページのエントリーフォームよりオンライン応募
  • 応募費用:ネーミング1件(1部門)につき5,500円(税込)
  • 2026年度地域フォーカスエリア:「広島県」

※地域ソウルブランド部門において、広島県の企業・団体等が商標を持つネーミングの応募費用は無料となります。

「日本ネーミング大賞 2026」応募要項
https://j-naming-award.jp/assets/pdf/jna_summary2026.pdf

ネーミングは、商品やサービスに命を吹き込む、最も身近で、最も強力な経営戦略です。

「うちの商品の名前に込められた想いを、もっと多くの人に知ってほしい」、「長年愛されてきたこのネーミングの価値を、もう一度社会に発信したい」、そんな熱い想いを持った企業の皆さま、ぜひ「日本ネーミング大賞 2026」へ挑戦し、お客様との新しい「嬉しい約束」を世の中に響かせてみませんか。

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